人間って、めんどくさいにゃあ
3月22日。
風はまだ少し冷たい。
デニムジャケットを羽織って家を出る。
いつもとほんの少しだけ道を変えて、買い物に出かける。
春らしい音楽の流れるイヤフォンを耳に差し込み、
桜が芽吹き始めた公園を歩いていると、
きれいな茶トラの野良猫と目が合った。
目が合ったのはほんの一瞬で
彼?彼女?はすぐに私から目を離し、別の方向を見つめた。
その視線の先には、穏やかに彼に話しかける
1人のおばあちゃんの姿があった。
茶トラは動くことなく、ずっとそのおばあちゃんを見つめている。
2人はどれくらい、どんな話をしていたんだろう。
可愛い2人に、自然と頬が緩む。
ふとまた視線を感じ、目を向ける。
少し先の喫煙所で、煙草を燻らせる若い男性と目が合った。
もしかしたら私より先に、
彼も2人の姿を眺めていたのかもしれない。
彼の表情までは見えなかったけれど
緩んだ頬がなんだか恥ずかしくて、すぐに視線を逸らす。
見知らぬ猫と人を見て、幸せな気分になって、
そんな姿を見知らぬ人に見られて、恥ずかしくなる。
『人間って、めんどくさいにゃあ』
なんだかそんな声が聞えたような気がして、
また、頬が緩んだ。
そんな、春の日。
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