ショーロク!! 6月前半ー5
5.アホはやらなきゃ分からない
『脱がし合い』とはその名の通り、お互いの衣服をひたすら脱がし合うゲームである。ゲームなのか、それ?
小学4年の2学期に突然ブームとなって、学年を巻き込んでオレたちは毎日昼休みはほぼ全てこれをやっていた。
最初は男女に分かれて1対1の対決をみんなで見守るという方式だったのだが、男子はキックなしとか途中で5秒間何も出来ない時間がある、など色々ルールが追加されていった。
最終形態は男女10名位ずつのグループに分かれ、5分交代で団体戦を行うというものとなった。この団体戦ではお互いに標的を一人定める。
標的になってしまった者は自分からは手出しができない。脱がされだすと、されるがままである。ただ、残りの9名が標的を死守する。
だいたい女子の標的は3回に1回は大野洵子だった。当時は男子より女子の方が体が大きかったり、力もある奴が多かったので、なかなか大野までたどり着くことはなかった。
せいぜい脱がせて上半身裸とスカートを取る位で、パンツは死守されていた。
「ちょ、ちょっと待って!!」
清川が胸を押さえながらオレたちの説明を遮った。
走ったわけでもないのに呼吸が荒い。
「皆のこと、ちょっとおかしいと思ってたけど、やっぱり異常だよ。理解が追いつかないんだけど・・・」
マンガのような驚きの表情を浮かべたまま清川が珍しく大きな声を出している。
「そんな犯罪まがいのこと、よく先生にばれなかったね!」
「いや、さすがにばれた」
「こいつのせいやけどな」
と、オレはキタンを指さした。
「俺だけちゃうやんけ!」
キタンはご立腹である。
清川が「どういうこと?」というので、また説明を始めた。
団体戦が開始されて1週間位経った頃、大野がついに身ぐるみ全部はがされて、上靴と靴下だけ残されて丸裸にされてしまった。
もちろん、女子たちは大野に覆いかぶさってそれを見せないように頑張った。オレたちも一生懸命それを引き剥がそうとルール内で頑張ったのだが、キタンはついに欲望に負けて我を忘れてしまったのだ。
原口という一番大柄な女子を3人がかりでどかせた後だった。原口がそれでもキタンを阻止しようとしたので、キタンは振り返りざまに思い切り原口の腹を蹴ったのだ。
「反則!反則やんか!」
という女子の怒号に紛れて「もういやや、こんなんやりたくない・・・」という大野の悲痛な泣き声が聞こえてしまい、男子グループは一気にしゅんとなってしまったのだ。
結局、大野ではなく、腹を蹴られた原口の親父さんが、その日のうちに学校に乗り込んできて、キシモトが生徒の見てる前で思い切り土下座させられていた。
次の日、関わった男子は一人残らずキシモトから往復びんたを食らった。
たいして威力はなかったが、キシモトがそこまで怒ったことはなかったし、女子みたいに泣きながらオレたちを殴るものだから、皆が否応なしに罪の意識を植え付けられたのだ。そして昼休みの『脱がし合い』ブームが終わった・・・
「でもな!俺らだけっておかしいねん!」
とサトチンが思い出したように怒り出した。
「そうそう、俺も蹴ったのは悪かったけど、その前に原口におもくそ(思い切り)顔面引っかかれてんねんで!」
と、キタンが清川に弁解するように言った。
「いや、100対0で君らが悪いよ!」
清川が食い気味に突っ込んだ。
「何でやねん!」
とブーヤンが間髪入れずに食って掛かった。
「だって、君たち、今だって時々全裸になって教室で騒いだりしてるじゃないか!」
と、清川がもっともなことを言ったので、一同「ほうほう」とうなずくしかなかった。
確かに、そう言われると標的にされて引っ掻かれたり、つねられたりするのは嫌だったが、裸にされるのはそれほど恥ずかしいと思ったことはなかった。
「バカなの?本当にバカばっかりなの?」
清川は今にもぶっ倒れそうな勢いである。
「おーいい!皆、ここにおったんかいな!」
そこへ事情を何も知らないクリちゃんがノコノコとやってきた。
呑気にアイスバーをかじりながら近づいて来て、オレが聞くまでもなくこう言った。
「横っちの家とかブーヤンの家行ってんけどおらんかったから探しててん」
うん、手間が省けた。自分から言いやがった。
「クリちゃん、そのアイス、今日何本目?」
とオレはこめかみをピクピクさせつつ聞いてみた。この時点ですでに助走を取る気満々である。
「3本目やで。1本目は横っちの家に突っ込んで・・・!!」
言い終わる前に渾身のダッシュ・ドロップキックを放ってやった。ざまあみろ。
なかなか上手に決まったらしく、清川以外のメンバーから拍手が起こった。
「な、何やねん。急に・・・」
クリちゃんがいじめられモードを発動してオレから距離を取った。。
「何やねんちゃうわ!オレの家の鍵、壊れてんぞ!」
「うそ!?ごめん!!」
秒で謝られた。何かこれ以上怒る気にもなれない。
「アイスの棒で鍵って壊れんねんなあ」
とクリちゃんが『すごい!大発見!』みたいに言うと、これまた一同が「そやなあ」とうなずいた。もちろん清川は呆れていたが。
そうだった。こいつらはアホだったのだ。
知っているつもりだったけど、本当にアホなのだなあ。
そんなアホのクリちゃんがオレの親父のことまで考えて行動できるはずがなかった。
「そんなことよりさっきの話の続きだけど!」
清川は相変わらず怒っている。何に対して怒るのだ、こいつは?
「皆、めちゃくちゃ過ぎて僕はもうついていける気がしないよ!」
済んだ話のうえに、お前が来る前の話やんけ。とオレは言いかけたが、清川は息継ぎもなく続けた。間が悪い奴だ。
「僕、皆と友達になりたかったけど、ちょっと自信なくなってきたよ・・・」
などと言ったので、全員が「ん?」と首をひねった。
「お前、もう友達やん」
と最初に言ったのはクリちゃんだった。
ドロップキックのダメージがないのがちょっと悔しい。
「えええっ!いつの間に!?」
と清川が本気で驚いていた。
驚くのはこっちの方である。
同じクラスにいて、こんなに一緒に遊んでいて、何で友達じゃないと思うのかの方が不思議だ。
「だって、僕まだ皆に『友達になって』なんて言ってないよ」
と清川が言った。
「何じゃ、そのシステム?」
「友達なるんに、友達なろうとか言うもんなん?」
「知らん、一緒のクラスになったら友達やろ」
「同い歳やったら友達って言うんちゃうん?」
「男同士が友達やん、たぶん・・・」
と、オレたちはそれぞれの友達観をぶつけあった。
清川は目を白黒させて聞いていたが・・・
「ちょ、ちょっと待って!」
とまた話を制した。何なんだ、こいつは。面倒くさい。
「ということは僕は皆の友達なの?」
「当たり前やんけ」
と全員食い気味に言った。
すると清川は
「嬉しいような、怖いような・・・」
と言って泣き出した。
そんな清川の後ろから近づいたクリちゃんが
「どりゃあ!」
と言って、半ズボンとパンツごと引き下ろした。
クリちゃんの必殺技、パンツ下ろしである・
「きゃあああっ!」
清川が股間を押さえてうずくまった。
オレたちはそれを見て爆笑しながら
「ほら、友達やからこういうこともできるやろ」
と、清川のアタマやら肩などをはつり(叩き)まくった。
「何か違う気がするんだけど・・・」
と清川はしばらくウジウジしていた。
が、そんなことより!
である。
「クリちゃん!お前、今からオレの家来てもらうで!」
オレは本題を思い出した。
こいつを親父のもとまで連れ帰らねばならないのだった!