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ショーロク!! 6月前半ー8

8.未知との遭遇(シコシコとは何ぞや!?)

 オレは戦場にいた。
 頭上ではイナゴの大群のような戦闘機の大編隊が轟音をあげている。
 マンガのように『ゴオオオ…』という文字が空に浮かんでいて、オレの隠れている家の中に最後の『オ』が侵入してきた。
 オレは格闘家だったので、戦いのリングに向かっていたはずだったが、その最中で突然マシンガンを渡され、ある家に案内されたのだ。
 家の中にはゾンビが4体いて、オレのマシンガンはすでに弾切れだった。
 ・・・・・・起きなくては・・・・

 オレは家を出ようとしていたが、扉がどこにも見つからなかった。
 かと思えば、オレはすでに外に放り出されていて、周囲は見渡す限りの銀世界だったりした。
 早く・・・・・・起きなくては・・・・
 これは・・・・・・夢だ、早く、早く・・・起きよう・・・・
 ・・・・・・あいつが、あいつが、来る・・・・

 ・・・・・・!!
 ゲボボ!!い、いってぇ!!

 腹部にものすごい衝撃が走り、オレは強制的に現実の世界に戻された。

 目を開くと、寝ているオレの腹へのフットスタンプを決めてご満悦のサトチンの笑顔があった。
 鍵破壊事件の翌週、また日曜日の朝だった。あれ以来、親父は午前中は家の鍵をかけない。なので友達が勝手にオレの部屋に入れるようになったのだ。
 ちなみにフットスタンプとは、簡単に言うと両足をそろえてジャンプして誰かを踏みつけるプロレス技である。
 地味に見えるが攻撃するものの全体重が一点にかかるので、やられた方のダメージは思いのほか大きい。
 こんなもの、寝ている無防備な人間の腹に決めれる奴は頭がおかしいとしか言いようがない、それがオレの親友サトチンなのだ。いいのか、これが親友で!?

 「はよ、起きろよ」
 サトチンがオレの腹から降りると同時にオレのケツをけり上げて言う。

 「う・・・が・・・・」
 オレは腹を押さえつつ、何とか立ち上がって応戦しようとするが、寝起きのために力が入らず、再びサトチンから攻撃を受けることとなる。今度は頭突きだった。こいつは学年で一番石頭なのだ。死ぬ。

 過去にも長期休暇などには無断でサトチンがオレの部屋に来たことはあった。
 だいたいそのときは、いつだって夢の具合がおかしな感じになる。
 もちろん起きた〈起こされた〉瞬間に全て忘れてしまうのだが、その夢の中でオレはいつも「逃げないと。逃げないと」と思っているような気がするのだ。

 だいたい朝一の攻撃はフットスタンプが主だった。
 「ていうか、モリも連れて来たぞ」
 サトチンが頭突きをしながら言った。

一緒に来たモリはサトチンの容赦ない攻撃に心底驚いていた。
 「横っち、大丈夫か~?」と、モリ。

 先週の出来事から1週間が過ぎた。
 が、さすがに学校では無理だとなかなかエロ本を見せてもらえないままだった。
 その間オレとサトチンとモリの3人は結構仲良くなった。

 オレはもそもそと布団から起きだして、顔を洗い背伸びをして、鼻をかんで、その紙をサトチンに投げつけた。ようやく目が覚め出した。
 時計を見るともう3時だった。さすがに寝すぎた。
 今後の保身も考えると早起きも視野に入れるべきだろうか。

 「横っちホンマにこんな時間まで寝てんねんなあ」
 モリが呆れたように言うので、オレはどう答えたものか分からず、曖昧に笑い2人に何してたん?と聞いた。

 「モリに色々教えてもらっててん」
 サトチンがやや興奮気味に言った。
 「いやいや、サトチンのおっちゃんの持ってた教材がよかってん」
 モリが笑いながら言ったので、オレはすぐさまピンときた。
 エロトーク開始だ。
 きっとサトチンのおっちゃんが持っている『週刊ポスト』(これはサトチンと二人で見たことがある)などをこっそり見ていたに違いない。

 オレは小学校低学年の頃こそお調子者のスケベっ子だったが、最近は下ネタで笑いを取ることを邪道と考えるようになって、サトチンの前以外ではエロに興味のない男子を演じていたので、この期に及んでも正直悩んだ。
 サトチン以外の人間の前で本当の自分のスケベさを晒してもいいものだろうか・・・

 オレのしょうもない悩みに気づいたのか、サトチンが真顔で言った。

 「横っち、モリはエロに関してはホンモノや。マジメな気持ちでホンマのお前を見せてええぞ」
 「うん、オレもサトチンから意外と横っちが変態クラスのエロやってこと聞いて驚いてんけど、逆に親友になれそうで嬉しいわ」とモリ。
 オレの目覚める前に何の話しててん!?と思いつつ、オレはサトチンに促されるままに服を着替え、飯も食わずにモリの家に行くことにした。

 というのも、モリがついにオレたちを家に招いて、本物のエロ本(グラビアレベルではなく、全編通して裸の女が出ているヤツだ)を見せてくれるというのだ。飯なんか食っていられない。
 せめてバナナ位食べてから行こうかと思ったがモリの家にあるという本物のエロ本の誘惑に打ち勝つことはできなかった。

 モリの家は古い木造のアパートだった。

 間取りをどう呼ぶのかは分からないが、部屋が二つしかなく、両方とも非常に狭かった。
 たぶん、2つとも6畳くらいだったと思う。

 モリは3人兄弟でおまけに姉ちゃんがいた。さらに両親までいるから7人で暮らしていることになる。
 大人数ゆえ家具も多くなり、ますます部屋が狭く感じられるのだった。

 親父と婆さんと3人で2階建ての家でのうのうと暮らしているオレから見ると、この状況だけでモリは十分尊敬に値した。
 もっともモリが言うには、オカンがおらんのにちゃんとやってる横っちはすごいわあ、とのことだったが・・・。
 昼の3時に起きてる時点で、ちゃんとやってるとは自分では思えなかった。

 そして、道すがら「横っちの家って金持ちやねんなあ」とモリが言っていた意味も分かった気がする。
 ウチは決して裕福ではなかったが、モリの暮らしを考えると十分金持ちに見えるような気がした。

 それにしても、こんな狭い空間のいったいどこにエロ本を隠しているのだろうか。
 オレもサトチンもあからさまに不思議そうにキョロキョロと部屋中を見回していた。
 そんなオレたちにモリは氷を一つずつ渡してくれた。夏場の氷は何より御馳走になるのだ。お金もかからないし。6月とはいえ昼は暑いので今日もありがたかった。
 オレは起きてから飲まず食わずだったので、腹がしめつけられるような感じになった。

 「じゃあ、見せたろか」
 そのために来たのであるが、オレもサトチンもちょっと余裕を見せて「あ、別に後ででもいいで」などと震えるような声で言った。
 言ってしまってから、二人の発言がかぶったことにオレたちは非常に恥ずかしくなったが、モリは全く気にしてない様子で、6年間使って来てボロボロになったランドセルを取り出した。

 なぜランドセル?とオレが小首をかしげていると、モリは勢いよくランドセルの口を開け、上下さかさまにひっくり返した。

 するとそこからバサバサと落ちてきたのが、オレたちが夢にまで見た本物のエロ本だった。
 ざっと見ただけで10冊はあるだろう。自然と鼻息が荒くなる。

 「ていうか、お前ランドセルに何入れてんねん!」
 と、こんなときにもついつい突っ込んでしまう自分が悲しかったが、まさにその通りである。
 これで毎朝普通に登校していたのかと思うと、教科書を学校に置きっ放しにしてランドセルは空っぽのオレたちが逆にスーパー優等生に思えてくる。

 「まあまあ、これやったら絶対ばれへんねんって」
 モリは笑いながら、オレに1冊の本を渡してくれた。雑誌だった。

 実は写真集が見たかったオレは内心がっかりしつつも、表紙を凝視した。
 「B組」という不思議なタイトルの雑誌だった。

 普通にキレイな女が表紙で笑っていた。さすがにこの人はは脱いでないんだろうなと思いつつ、オレはページをめくった。
 すると、何とそいつがいきなり裸でレモンを股間にあてがっている写真が大写しになっていて、オレは思わず「すっげえ!」と叫んでしまっていた。

 よくよく考えるとそれほどキレイではなかった気もするが、オレがこれまで見たことのある女の裸といえば、ドリフのお風呂コントで出てくるおばはんのチチや、サトチンの親父さんが買って帰ってくる週刊ポストの大人しか行けない夜のお店のオバサンの無表情な三角座りの写真だけだったので、オレはすっかりこの子のファンになってしまった。

 佐野さゆりさんというらしい。何でレモンを持ってるのか、少し疑問は残ったが、オレは一心不乱にページをめくった。

 「B組」は後半になるにつれ、どんどん過激度を増し、中盤にさしかかる頃には、オレはあまりのおっぱいとお尻の連続攻撃に頭がクラクラ、なぜか体がポカポカしてきて、最初にファンになったはずの佐野さんのことなんて、きれいさっぱり忘れていた。

 「横っち、もしそれ気にいったら持って帰ってええで」
 一瞬時間が止まったのかと思った。

 モリのつぶやいた一言がどうしても信じられなかった。

 どんなに読書(エロ本見てただけだが)に夢中になっていても、富士の樹海で迷おうとも、冥界の塵と帰そうとも、聞き逃すはずのないその一言。
 「持って帰って、・・・え・え・で(スローモーション)」

 ―こんなにハイレベルなエロ本が自分のものになる!!

 「ほ、ホンマにええの」
 モリを見上げて言うと、彼はゆっくりうなずいた。オレは初めて人の後ろに後光というものを見た。
 「ありがとう」ほとんど声にならないような声で俺はつぶやいた。心からの感謝の言葉はこういう感じになるんだと、その時に学んだ。

 サトチンがうらやましげにオレとモリのやりとりを見ていた。
 モリもそれに気付いたのだろう。サトチンの方に向き直り「アクトレス」というやや大きめの雑誌を渡して言った。

 「サトチンはこれで我慢してえや」
 もちろんサトチンは内容を確かめるまでもなく、ヘビメタのヘッドバンギングよろしく首を縦に激しく振って、満面の笑みでモリを見つめていた。
 きっとあいつもモリの後ろの光を見たのだろう。
 
 「ところでな」
 モリがニヤつきだした。
 噂にたがわぬエロい笑顔だ。
 ゆっくりオレとサトチンの間に腰を下ろして、こう言った。
 
 「お前ら、シコシコしたことある?」
 いつの間にかお前呼ばわりになっていたが、全然気にならない。
 何なら今の上下関係はご主人さまと召使みたいなものにでもなり得た。
 
 「シコシコ?」
 ほぼ同時にオレとサトチンが声をあげた。

 「めっちゃ気持ちええねん」
 モリが本当に気持ちよさそうな顔をして言った。

 何のことだかさっぱり分からなかったし、どことなく言葉の響きが怪しかったが、オレもサトチンもモリが教えてくれることなら素晴らしいことのはずだと思い、どんなんどんなん?と聞かずにはいられなかった。

 「二人ともチンポたってる?」
 モリが不意に聞いてきた。クラスでややクールなキャラに落ち着いているオレは一瞬ためらったが、短パンのもっこり感を隠せるものでもなかったので、素直にうなずいた。

 「あのな、チンポが立ってるときにシコシコってやんねん」
 ・・・
 ・・・・・・
 モリは説明がど下手だった。

 「いや、だからシコシコってのは何やねん」
 オレがつい大声で言う。突っ込みの習性だ。モリは一瞬本気で驚いて、ああそうか。と肩をすくめた。

 「う~ん、シコシコ以外言い方ないけど、そやなあ。擦んねん、チンポの先っちょを」
 「擦るぅ??」
 今度はサトチンが叫んだ。
 だがさすがサトチン、すでにパンツ一丁になって右手を突っ込んで言われたとおりチンポに摩擦を加え出した。

 すると・・・
 「いたたたたた!!」
 
 ・・・まあ、予想通りの結果である。

 オレはサトチンの断念した姿を見て、擦ると言っても消しゴムで字を消すような乱暴なやり方ではないのだろうと予測し、モリが手本を見せてくれるのを待った。

 「ちょっと待ってな。オレがやってみるわ」
 案の定、言うよりやった方が早いとばかりにモリもズボンに手をかけた。

 残念ながらそのとき、玄関のカギが開く音が聞こえた。

 モリの家は取られそうなものは見当たらないのに、カギだけは頑丈で、おまけに3つもついていた。
 なのでモリは誰かが帰ってきた瞬間に自分のエロ一式を片づけて、何食わぬ顔で「おかえり」なんて言う技術を身につけていた。

 帰ってきたのは中学2年生のモリのお姉さんだった。
 1ミリたりとも似ていないのに、さっき見た「B組」の佐野さおりさんが不意にモリ姉ちゃんにかぶってしまい、思わずオレは目をそらした。

 モリは明らかに不機嫌になり、姉ちゃんに暴言を吐くと「行こうぜ」と行って部屋を出て行った。
 突然モリが凶暴になったので、オレたちは驚いた。

 モリに続きサトチンがあわてて出ていき、オレは「お邪魔しました~」と頭を下げてから、靴をサンダルみたいに履いて少し遅れて家を出た。

 それにしても、こんなにあわてながらオレもサトチンもモリからもらったエロ本を、ちゃっかりTシャツの中に隠して出てきていることが、やや滑稽ではあった。
 ・・・考えてみるとバレバレだったような気もする。
  
 目の前にあったモータープールの車の空きスペースに腰を下ろし、モリは明らかにいらついた様子で「今からシコるとこやったのに」とぶつぶつ呟いていた。

 思うに、普段は温厚なモリが、ちょっと邪魔をされた位でここまでブチギレてしまうのだから、やはりシコシコというのはとんでもなく気持ちがいいものなのだろう。

 「ここでやったらええんちゃうん?」
 と、オレが言うと、モリは噴き出して、それはさすがにアカンやろ。と笑った。

 「でも・・・待てよ」
 モリが何かを思い出したように宙を見つめた。
 「そっか、どうせ外でやるんやったら・・・」
 聞こえるか聞こえないか位の小さな声でつぶやいたモリは、イタズラを思いついた時のキラキラした目でオレたちに向きなおってこう言った。

 「なあ、サトチン、横っち!今日一緒に風呂行けへん?」
 「風呂?アゲちゃんとこの?」

 もちろん、モリが言ってるのは銭湯のことだ。それは分かっている。
 サトチンが聞いたのはどの銭湯に行くのかということだ。
 オレたちの街には3つの銭湯があった。

 オレは母親がおらず、父親も気ままなので、小学4年まで婆ちゃんと二人でアパート暮らしをしていた。
 そのおかげで婆ちゃんに連れられてよく銭湯に行ったものだ。

 オレと婆ちゃんが行っていた銭湯は児童公園の前にあり、ジジババしかいない。
 オレたちはその銭湯を『ジジババ風呂』と呼んでいた。
 オレは低学年の頃、婆さんに無理やり女湯に入れられ、悲惨とも言うべき人間の老いの姿を目の当たりにした。ひどいトラウマだ。

 二つ目は、オレたちの同学年にいる天河秀樹(てんかわひでき)の親父さんが経営している商店街の中の銭湯。
 なかなか繁盛しているようだし、オレたちが銭湯に行くと言えばたいていここを意味する。
 だから、サトチンが『アゲちゃんのとこ?』と確認したのである。

 ちなみにアゲちゃんというのは天河のあだ名で、天河=天ぷらの皮=天ぷら=アゲ・・・といった感じで出来上がった。

 最後の1軒は噂しか知らないが、駅の近くにあり、地元の銭湯という感じはしないらしい。
 まあその分色んな人が利用しやすい作りだということだった。

 「ちゃうちゃう、駅前行こ」
 モリが言う風呂とはどうやらその3番目の駅前銭湯のことのようだった。

「風呂行って何するん?」
 オレが聞くと、モリはアホかとでも言うようにチラリとオレを見た。

 「まずは今の続きやな。みんなにシコシコ教えたるわ」
 「他にも何かあんの?」
 今度はサトチンが聞く、モリは別にサトチンを見るでもなく答えた。

 「あとはノゾキに決まってるやん」
 「そ、そんなん出来るんか!!」
 思わずオレが興奮して叫んでしまった。

 「ちょっとだけやけどな、まあオレに任せてくれや」
 モリが得意げに言った。ついつい兄貴とでも呼んでしまいそうになる位、今のモリは頼りがいがあった。

 「でも・・・」モリが声のトーンを落とした。
 「何?」
 「横っち、先週ちょっと遊んだお前のクラスのオカマおるやろ?」
 「ああ、清川か。うん。それがどうしたん?」
 「そいつも呼んでくれへん?」
 「何で?」

 「ええから。オレには色々考えがあんねん」
 エロ兄貴にこう言われては、イヤとは言えない。

 「あいつ、銭湯とか嫌がるかもな。まあ言ってみるわ」
 「よし、頼んだで!ほんじゃ6時半にここ集合な!」

 モリが勢いよく言ったのを合図にオレたちはいったん家に帰った。

 オレは帰る前に清川の家に立ち寄り、声をかけてみた。
 清川は銭湯に友達と行くのは初めてということで、最初はちょっと渋っていた。
 オレは、来月は修学旅行があるから皆で風呂に入るのに慣れないといけないと言って、何とか説得に成功した。
 こうして清川も一緒に行くこととなった。

 清川は下ネタ系は女子並みに苦手、というか受け付けないようなので、銭湯の目的がシコシコ鑑賞会だとは伝えないことにした。
 そして約束の時間がやってきた。

 この後、とんでもない出来事がオレたちを待っているのだが・・・


 ・・・ちょっと6月編が長くなりそうなので、いったん前半終了として、後半に続く。

 6月編―前半 完

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