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【ことばplus 4】18世紀フランスの博物学者ビュフォンの有名な「文は人なり」Le style est l'homme meme.の意味について
18世紀のフランスの博物学者ビュフォンの有名な「文は人なり」Le style est l'homme meme.という言葉は、ビュフォンが数学上の業績によってアカデミー・フランセーズ(日本で言えば学士院)の会員に推挙された時の入会演説の中で言った言葉である。どういう文脈で言ったかというと、もともと数理科学をやっていた人なのにこんなことを言うかと思うが、つまり、どんな偉大な着想や発見があったとしても、それについて自分が論文を書く時にその文体(style)が優れていなければ、そんなものは何の価値もないし、残らない。Le style est l'homme meme.は直訳すれば、「文体は人間そのものである」。文体を持っていない人はどんなに偉大なことをやっても残らない。つまり科学であろうがどんな分野であろうが、人間の知識というのは文体を通して広がるので、文体が非常に大事なんだということを言った。だから踏み込んで解釈すれば、すべての知識は人格的な知識だというような意味で言っている言葉である。
だから、Styleというのは「文体」が最初の意味、本来の意味、元の意味であって、①ファッションのスタイルやヘアスタイル、あるいは②スタイルが良い=体のプロポーションが良い、③「彼の表現のスタイル」(表現形式)④美術や音楽や建築の歴史における「様式」といった意味は全て、後から派生した意味である。
styleの元になっているラテン語のスタイラス(英語読み)は実は古い言葉で、スティロスという鉄筆のことで、芯はなくて単に先端の尖った金属のペンのことをスティロスと言った。今われわれは字を書くのに鉛筆やペンなど、何らかのインクや色が付く装置で書く。なぜならわれわれは紙に書くから。しかし歴史的に紙は非常に貴重だったので、紙に書くなんてもったいなくてできない。しかも紙は再生できない。そこで何を使っていたかというと、ヨーロッパだとローマ時代から中世を通じて、紙が比較的容易に手に入るようになる16世紀ぐらいまでずっと使われ続けてきた道具がある。石板の上に色の付いた蝋を塗って、スタイラスでそれを引っ掻くことで字が書ける。それで何をするかと言うと、ちょっとしたメモだったり、手紙は紙だともったいないから、蝋板にスタイラスで書いて、要らなくなったら、熱で蝋を溶かすとまた元に戻る。よく子どもの時に遊んだ磁石お絵描きボードのように、ペン先の磁石で書いてピューッとやったらまた書けるようになるのと同じようなものである。
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ローマ時代の書記の人が使ったタブレット(蝋を塗った石板)とスタイラス(鉄筆)は、ヤマザキマリの『プリニウス』にも描かれている。ローマ時代の博物学者のプリニウスが各地に旅行して、ヴェスビオ火山が噴火して皆んな怖がって逃げていくのを、自分は直接記録しないで、ギリシャ人の青年を弟子にして彼に自分が口頭で話したことを全部記録させるが、その時にこのタブレットとスタイラスが使われている。
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要するに、スタイラスを使って文章を書くわけであり、スタイルはそれに由来する言葉なので、元の意味は「文体」である。そこから美術史上の「様式」とかファッションのスタイルとかプロポーションという意味が派生してきた。
・Buffon’s Discourse on Style