【ことばplus2】日本の詩歌における色の感覚の変遷、例えば「青」について
NHK『ラジオ深夜便』「和歌に詠まれた花をよみ解く」入谷いずみさん(歌人・古典文学研究家)(8月28日(水)午前4:05放送、2024年9月4日(水)午前5:00配信終了)(55分)を聴いた。
和歌などで扱われる花・植物の変遷について語られていて面白かった。梅と菊の扱われ方の違いとその理由や、イチョウも鎌倉時代からあるのに、歌の世界で認識されたのは与謝野晶子以後というのも驚きだった。色についての話も面白かった。「青」の意味も改めて知った。どうりでアオサギ(blue heron)が青く見えないわけだ。島根県松江市に「青石畳通り」という江戸時代に海から出る石を切り出して敷き詰められた通りがあるが、これも決して青いわけではない。
日本の戦後歌謡に青空が多いのは、戦闘機の飛んでいない空=青空で、青空が平和の象徴になったのでは、という話は聴いたことがある。
以下は色の話についての入谷さんのお話のメモ📝
例えば、次の書籍の帯文に見られる「それでも、東京の空は青かった。」という文言はどういう語りなのだろう。ここでは敗戦時ではなく、関東大震災や東京大空襲が引き合いに出されているが、こういう語りの欺瞞性も分析の俎上にのせるべきだろう。
しかし、戦前の映画でも、『希望の青空』(山本嘉次郎監督、1942年製作)のようなタイトルの作品はある。おそらくエノケン以降の影響だろう。
日本国憲法誕生の過程を辿る映画『日本の青空』も明らかに希望の意味で青空が使われている。
映画『青空娘』(1957年制作、増村保造監督)のようなタイトルの映画も作られている。
落語家の柳家喬太郎が「歌う井戸の茶碗」の最後で、♪私の青空 というのを歌っている。
元「話の特集」編集長で、ミニコミ・ブーム元祖の矢崎泰久さんの『青空が見えたこともあった』(1977年、三一書房)という本もある。
虹については、聖書において神がノアとの間に立てた「虹の契約」はすべてのいのちとの和解と平和のしるしであり、「虹」(ケシェット)とは、戦いを止めた弓の形であることから、キリスト教圏の反戦平和運動の中で「虹」が平和の兆候や希望のしるしとして表徴されることは珍しくない。最近読んだドロテー・ゼレ『軍拡は戦争がなくても人を殺す』(日本YMCA同盟出版部、1985年)の最終頁でも、虹のメタファーが使われている。
文献学者・哲学者のニーチェの言葉にも、以下の用例がある。
「人間が復讐から救済されること、これこそ、私にとって、最高の希望への橋であり、長い暴風雨のあとの一つの虹なのである」(『ツァラトゥストラはこう語った』)
なお、さっぽろ自由学校「遊」主催で2024/5/28に開催された関根摩耶さんの特別講演会で、アイヌ語で色を表す単語は4つ(黒、白、赤、その他)だというお話を聞いたこともあるが、日本の古くの言葉でもそうだというのは興味深い。さらに深く歴史を紐解いていきたいテーマだ。
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「青色」についてですが、翔泳社から刊行されている、古今東西文明のなかで、さまざまな意図で使われてきた「色」の歴史とストーリーを、アート作品の美しいビジュアルでたどる「色の物語」シリーズのなかで、「青」の本も出ています。参考になるかも知れません。
ヘイリー・エドワーズ=デュジャルダン『色の物語 青』(翔泳社)
・『はじめてつかう漢字字典』の編著者、首藤久義氏(千葉大学名誉教授)によるコラム 第3回「色の漢字見つけ」
・#13歳からの考古学 シリーズ新刊🎁#新泉社
谷口陽子(筑波大学人文社会系)、高橋香里(SOMPO美術財団・保存修復準備室リーダー)『何で人は青を作ったの?』
エジプシャンブルーやマヤブルー、人類があこがれ続けてきた「青」を求める旅へ、さあ、ご一緒に!
2025年1月14日発売
古代エジプトの「青」であるエジプシャンブルーについてもふれ、科学的で簡明な説明に加え「なぜ古代エジプト人が青を大事にしたのか」についても語られています。科学に疎くても楽しめる魅力的な一冊です。