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NHKBSプレミアム『ダークサイドミステリー』「空のタイタニック・ヒンデンブルク爆発の謎」視聴メモ 作曲家・伊福部昭について
NHKBSプレミアム『ダークサイドミステリー』「空のタイタニック・ヒンデンブルク爆発の謎」を視聴。ツェッペリン飛行船。第一次世界大戦中にロンドン空襲で戦略爆撃、baby-killersと呼ばれた。哲学者エッケナー。曲芸師ジョゼフ・スパー。映画『ヒンデンブルク』。出演:本城宏樹さん、草谷大郎さん。1937年、ナチスのプロパガンダ飛行で、ドイツから大西洋を渡ってアメリカへ向けて行った巨大飛行船ヒンデンブルク号のレイクハースト着陸直前の大爆発、炎上事故。🛬船長の急旋回によるワイヤーの切断、切れたワイヤーが水素ガスの袋を切り裂いた、船体の後方部の尾翼付近からの水素ガスの漏れ、静電気のスパーク、が爆発の原因。ナチスの期待に応えなければという思いが飛行船の操縦をする幹部の間で支配的だったので、それが急旋回や、雷雲の近くでの着陸といった行動に駆り立てたのではないか。
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この飛行船ヒンデンブルク号の爆発事故については、以前、ナショナル・ジオグラフィック『元素の掟:ヒンデンブルク号と水素の罠』(原題: Elemental: Hydrogen vs. Hindenburg)でも観たことがある。
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伊福部昭という作曲家がいる。北海道で生まれ育ちアイヌの歌・詞・踊りに大きな影響を受けた作曲家として、また『ゴジラ』(1954年)や『座頭市』シリーズなどの映画音楽で、その独特な音調がわれわれに馴染みがあるであろう。近年完全版が公開された原爆投下直後の広島を描いた『ひろしま』(1953年)の音楽もかれが手がけたものである。2024年10月19日(土)「おとなのEテレタイムマシン」でアンコール放送されたETV特集「ゴジラのテーマをつくった男 作曲家・伊福部昭」(1997年放送)の中で、伊福部昭は旧制中学時代に見たツェッぺリンについて語っている。
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20代の伊福部は北海道・厚岸の森で4年をかけて「ピアノと管弦楽のための協奏風交響曲」を書き上げた。この作品には民謡や祭りといった題材に加えて、20世紀の科学文明に対する関心というユニークなモチーフが込められている。当時北海道にも電話やラジオが普及し、自動車や飛行機といった近代的な乗り物が次々に登場していた。伊福部はこうした科学文明に対してひそかな憧れを抱いていた。番組の中で伊福部は次のように語っている。
「[旧制]中学校の時にドイツからツェッぺリンが来て、シベリアから北海道の余市(よいち)を通って東京に行く。その…雲の間からキラキラ光が出てきましたよね。それがどういうわけか、そのシーンだけがポツンと頭に残ってて、今まで自分の書いてきたのとは違う世界のものを書こうかっていうんで、それで1楽章を「ヴィヴァーチェ・メカニコ」Vivace meccanico (※メカニコ=機械のように)という題にしたんですね。」
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しかし戦後、伊福部昭が手がけた『ゴジラ』はその反対に科学技術を駆使した近代テクノロジー戦争への呪詛に満ちている。ゴジラは水爆実験の放射能を浴びて巨大化した無敵の怪獣であるが、番組によると、実は戦時中の北海道で伊福部自身もまた放射能に被曝するという体験をしていたそうだ。
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北海道帝国大学農学部林学実科学校(現:北海道大学農学部森林科学科)を卒業後、北海道庁地方林課の厚岸森林事務所を経て、北海道帝国大学の演習林事務所に嘱託として勤務していた伊福部昭は1945年1月、軍に徴用されて、現在の札幌市・豊平公園にあった林業試験場で、放射線を当てて航空機用の木材の堅さを強化しようという軍事目的の研究に従事させられることになる。
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伊福部はレントゲンを使って木材に強力な放射線を当てる作業を半年間にわたって続けた。ところが研究室には防護服すらなく伊福部は全くの無防備のまま放射線を浴び続けなければならなかった。8ヶ月後、目の粘膜や指先の毛細血管から出血が始まるなど、伊福部の体に放射線障害の症状が現れた。医者に診てもらって放射能によるものだということで1年間ただ静養したが、それでもそれが一生何か引いているようで、今でもちょっと無理するとおかしくなる、と番組内のインタビューで語っていた。
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2024年11月号の『音楽の友』で、伊福部昭の特集が組まれている。
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