【FRACTA×ヘラルボニー×Makuake】〜実践者と語る〜「愛される」ブランドの育て方
「新商品や新サービスのデビュー」を目的に「Makuake」をご活用いただくなかで、プロジェクトを実施する事業者(以下、実行者)の皆様から、
「Makuakeを皮切りに長く愛されるブランドを作っていきたい」
「プロジェクト終了後もブランドの成長を持続させるヒントが知りたい」
といったご相談をいただくことが増えています。
そこで今回、福祉領域のアップデートに挑み、愛されるブランド作りを実践する株式会社ヘラルボニー 代表取締役社長 松田崇弥氏、ブランドビジネスやD2Cブランドの支援活動を行う株式会社フラクタ 代表取締役 河野貴伸氏をお招きし、「愛されるブランドの育て方」というテーマでのトークイベントを行いました。
今回のnoteでは、2022年10月14日(金)に行われたイベントの模様を対談形式でお届けします。司会は株式会社マクアケ 専門性執行役員/R&D プロデューサー 北原成憲が務めました。
登壇者3名の自己紹介
株式会社マクアケ 専門性執行役員/R&D プロデューサー
北原 成憲
北原:私はマクアケの創業期に入社し、さまざまな企業の素晴らしい技術を起点に新商品を企画し、「Makuake」でのデビューをお手伝いするプロデューサー業を行ってきました。プロジェクトに携わる過程で、本日のテーマでもある「Makuakeでヒット商品を生み出した後、長く愛されるブランドを構築するにはどうすればいいでしょうか」といったご相談をいただくことが多く、企業のブランディング活動などにも携わってきました。
株式会社ヘラルボニー 代表取締役社長
松田 崇弥氏
松田氏(以下、敬称略):ヘラルボニーは、日本全国の福祉施設でアート活動を行う作家さんとアートのライセンス契約を結び、アートデータの著作権を管理しながらさまざまな事業を展開しています。4歳上の兄が重度の知的障害を伴う自閉症だったこともあり、知的障害のイメージを変えることに使命を感じ、一卵性の双子の兄である文登とともにこの会社を作りました。
「Makuake」では、ライフスタイルブランドの「HERALBONY LIFESTYLE」を立ち上げ、アートを使用したプロダクトを先行販売しました。店舗に来ていただいたお客様からは「イタリアや北欧のブランドか」と聞かれることもありますが、「知的障害というものがあるからこそ、こういう表現が生まれるんです」とあえて言い切ることによって、「障害=欠落」、「障害者が作った=安い」というイメージを変えていく挑戦をしています。
プロジェクトページ:https://www.makuake.com/project/heralbonylifestyle/
株式会社フラクタ 代表取締役
河野 貴伸氏
河野氏(以下、敬称略):FRACTAは「ブランドを、未来の文化へ」をビジョンに掲げ、トータルブランディングパートナーとしてブランドの支援事業を展開する会社です。ブランディングの答えは、ブランドや企業そのものの中にあります。ですので、そのブランドが持っている考え方、思想、スタンスなどを引き出し、世に放っていくためのお手伝いをしています。
事業を始めて約20年になりますが、もともとは、デザインの仕事やEコマースの開発をしていました。その中で「デジタル活用でブランドを広めていくこと」を自分のライフワークとするようになり、一方で、株式会社土屋鞄製造所の取締役として、実際にものを作る側の現場やブランドの中に入って何が求められているのかを学び、今のFRACTAの事業に繋げていっています。
ブランドへの想いは作り手の中にあり、そこに向き合い続けることで、磨かれていくものですが、向き合うためのサポートをする。例えるとロケットエンジンのような、ブランドづくりを加速させる立ち位置で仕事をしています。
そもそも「ブランド」とは?
北原:「愛されるブランド」を語るためには、そもそもブランドとは何かを考える必要があると思います。例えば「Apple」などは、誰もが認め、愛されているブランドですね。では、すぐに上記のような世界的ブランドになることはできるのでしょうか?
河野:私は、ブランドというものは日々の活動・行動の総和の積み重ねだと考えています。それが結果的にブランドになるので、明日すぐに変わることは難しいですが、明日から変わり始めることはできると思います。
松田:私たちもトライアンドエラーを繰り返しています。ただ、一番最初に「異彩を、放て。」という会社のミッションを掲げたのが非常に大事だったと思います。福祉業界の中で共感を獲得しにいくのではなく、福祉業界の外の人たちの共感を獲得しにいくことに振り切るというのは、スタートダッシュの時点から決めていました。福祉業界の外で評価されれば、福祉業界側にその反応が逆輸入されていくといった、情報伝達の仮説のようなものを作り、そこからブランドにしていこうと考えていました。
北原:ヘラルボニーさんは、初期の段階でこうあるべきだというブランドの理想や未来のイメージを持つところから始まったのですね。
松田:結局のところ「HERALBONY」と聞いた時に想起されるイメージが、現時点でのブランドだと思います。ですので、自分たちが求めている理想のラインは、すでに知ってくれている方々が思い描く「HERALBONY」を、常に超えていたいと日々考えています。
理想の姿と世の中のイメージとのギャップ
北原:ここで、FRACTAさんとヘラルボニーさんの関係性を伺ってもよろしいですか?
松田:2年半前に東北のD2Cアワードというイベントの審査員を河野さんがされていて、私たちが優秀賞を受賞させていただいたところからお付き合いが始まりました。受賞者にはFRACTAさんの伴走支援を受ける権利がもらえたのですが、そのサポートが大変ありがたかったです。
河野:アワードの時からすでに、ヘラルボニーさんが掲げているメッセージは確固たるものでした。ベースは完成していたのですが、正直ブランドって商品づくりやビジネスそのものの戦略づくりなど、ありとあらゆることをしなければならない。その辺りは私たちがお役に立てるところだったので、伴走支援させていただけてよかったです。
松田:本当に全面的に支援いただき、コーポレートサイト、ECサイトなどオンライン戦略全般をFRACTAさんにお願いしていました。
北原:ヘラルボニーさんは、D2Cアワードを受賞された当時からビジョンを語られていたとのことですが、当初描いていた理想と世の中のイメージとの間に、ギャップを感じることはありましたか?
松田:最初は理想とは程遠いところからスタートしました。「双子の兄弟が自閉症の兄のために」という報道もあれば、「障害者支援団体」と新聞で書かれてしまったことも。私たちは作家さんに支援されている側の会社であって、支援する立場ではないという想いがあったので、それはジレンマでした。
そんな状況を変えようと、広報チームと話してメディア向けの用語集を作りました。「『障害者アート』とは書かずに表現してほしい」「支援貢献文脈じゃなくビジネス文脈にしてほしい」など、メディアとの打ち合わせでは、広報が最初にプレゼンしてから取材を始めていただく形を取っております。結果、世の中に発信される文脈が良くなってきているので、行動を積み重ねる中で理想に近づけているという感じですね。
河野:素晴らしいビジョンを掲げられているヘラルボニーさんですが、実は私が初めてヘラルボニーさんに出会った時、プロダクトが一番最初に目に入りました。今はパーパスやWHYが重要視されますが、それがそのまま商品になってしまうのは違うと思うんですよ。ストーリーが消費されているだけですから。お客様がお金を出して購入するのは商品であって、まずは商品そのものが良いことが大事だと思います。
北原:ギャップを埋めていく上で、他に実践すべきことはありますか?
河野:ブランドは立ち上がったばかりの時ほど、「やらないこと」を決めないといけません。一つのことに専念するのはビジネス的には苦しいですが、誤ったことをすればするほどブランドは劣化します。ブランドとして専念する部分を決めることが、ブランドを作る上で重要なポイントになってくると思います。
北原:自分たちがどうありたいか、ブランドの在り方を決める上で、社内のメンバーとどのようなアクションをしたか教えていただけますか?
松田:社内では「本を書くように意思決定しよう」というルールを決めました。ヘラルボニーという本が出版された時に、どのような視点が描かれていると格好良いかという視点でブランド作りを考えています。実は、東京などの首都圏ではなく、出身地の「岩手」に本社があるのですが、このこともブランドとして大事なポイントの一つだと捉えており、最初の百貨店出店も岩手、ギャラリーの1店舗目、ホテルの1軒目も岩手にオープンしました。
河野:関わる全ての人が、ブランドを体現していることが大事だと思っています。先日、ヘラルボニーさんのギャラリーにお伺いした時、案内してくださった方が「HERALBONY」というブランドそのものであるかのように振る舞っていました。自分たちがどういう世界を目指していて、どういう方々がお客様なのかということが社内全体に伝わっているのだと感じました。
「愛されるブランド」を構築していく上で大切なこと
北原:ここで最初のテーマに戻りますが、ブランドとは何だと思いますか?
松田:私は信頼だと思います。「HERALBONY」に期待して足を運んでくださった方やECストアで商品を買ってくださる方の信頼に応え続けて、さらに信頼度をあげていくことが、愛されるブランドを育てることに繋がると信じています。
河野:お客様に信頼していただくというのは私も同意見です。一方で、ブランド側が見るブランドは、やはり「在りたい姿」だと思います。「自分たちはこう在りたい」を社内外に示すことが、常にアクションの根幹にあるべきです。
北原:新商品や新規事業のプロデュースをする中で、担当者の方に質問をすると、はじめ「ブランドはロゴや商品である」といった回答が返ってくることもありますが、根幹にあるものは、目に見えない「信頼」や「自分たちの在りたい姿」だということですね。
河野:素敵なロゴやネーミングも大事ですが、その根本にあるのはそのブランドさんの想いです。そう考えると、ヘラルボニーさんのブランド名ってそれ以上の名前はないですよね。
松田:兄が小学生の頃、何十冊もの日記帳に「ヘラルボニー」という言葉を書いていたことから始まっています。重度の知的障害がある兄にとっては耳心地が良かったのか字面が良かったのか、何かしら引っ掛かるところがあってこの言葉を書いたのだろうと。知的障害のある人が面白いと思っているけれど、可視化できないものを言語化していきたいという思いから、この社名にしました。
北原:まさに、想いが詰まったブランド名ですよね。ブランドが人に与えるイメージについて、ある本に書いてあった「コカ・コーラ」と「ペプシコーラ」を飲み比べる実験の話が面白かったので、ご紹介させてください。最初に、ラベルを取った状態で飲み比べて「どちらが美味しいですか?」というアンケートをとったときは、「ペプシコーラ」に票が集まったそうです。しかし、ラベルがある状態で同じ方々に飲み比べてもらったところ、今度は「コカ・コーラ」に票が集まったそうです。この実験結果を通してわかることは、ブランドとは「ターゲットの中に気持ち良い記憶を蘇らせる作用のことである」ということ。「コカ・コーラ」が提供してきた、在りたい姿や体験が飲んだ人の中に積み上がっていて、ロゴを見た瞬間にその記憶が想起され、美味しいという感情に変わったのだと思います。
私たちの話ですが、マクアケは社名を変えたタイミングがありました。自分たちのありたい姿を考え直した時に、世の中への伝わり方と理想にギャップを感じ、「株式会社サイバーエージェント・クラウドファンディング」から、「株式会社マクアケ」に社名を変更し、「クラウドファンディング」という言葉を使わないこと、「応援購入」という体験価値を世の中に広げていくことを決めました。
松田:「Makuake」の「応援購入」という言葉の意味を、私たちのプロジェクトを応援購入してくださったサポーターの方々から感じ取りました。みなさん熱量が高かったです。
北原:まさにヘラルボニーさんのプロジェクトを見ていて、「応援購入」を体現されているという話で河野さんと盛り上がりました。応援してくださるサポーターと一緒に、「Makuake」プロジェクト終了後も交流し続けているのは非常に印象的です。
河野:ヘラルボニーさんって音楽レーベルみたいなんですよね。アーティストがたくさんいて、自分が好きなアーティストのファングッズを購入しているような状態。「誰から買うのか」を重視する時代のブランドビジネスにおいて、とても大切なことです。
北原:私は「声援」と「応援」は違うと考えています。「声援」は頑張ってと声をかけることですが、「応援」は行動自体が伴うもの。だから、ブランドとしては「声援」より「応援」がほしいけれど、「応援」したい側からすると、何をすれば良いか分からない。マクアケには、買い物という行動によって「応援」の第一歩を踏み出しやすくしたいという想いがあります。そうして「応援」してくれた人たちを大切にすることが、長く愛されるブランドを育てることに繋がっていくはずです。
さて、ここまでの話を踏まえて、愛されるブランドを構築していく上で大切なことは何だと思いますか?
松田:ファン=愛してくれている方々を一番に大切にすることです。私たちの店舗では社員が手話通訳を勉強しています。その理由は、当事者のファンの方が非常に多いからです。誰を大切にしていくかと考えた時に、私たちは福祉関係の方々と、そんな方を応援している方々を裏切らないようにしようと決めているので、そのための努力は、非常に大事にしています。
河野:私も松田さんとほぼ同じで、誰に愛されたいかを定義することが大事だと思います。40〜50年前の社会であれば、万人に好印象を持ってもらうということがブランドとして求められたと思うのですが、これから先は何を大事にしている方に愛されたいかという価値観が重要になります。自分たちは何者で、どのような価値を誰に提供するのかを常に考え続ける必要があると思います。
北原:お二方とも、ありがとうございます。私もどんな方に愛してもらいたいか(=ターゲット)次第で、そのブランドが提供できる体験価値、ベネフィットが大きく変わることをいつも伝えているため、大変共感するお話でした。
実行者からのブランド壁打ち相談
【実行者様からの質問】
愛されるブランドであることと、ビジネス面での継続的な収益を両立するためにはどうしたら良いのでしょうか?
河野:「Makuake」で応援購入していただいた理由を、サポーターの方に徹底的に掘り下げていくことが重要ではないでしょうか。最近はオンライン会議のツールも発展したので、ユーザーインタビューのハードルも下がったはずです。ビジネス面での継続的な収益を目指すには、アイデアが必要です。ブランドのコンセプトに合致するアイデアを見つけるためのヒントをサポーターの方から一つでも多く得ることで、継続的な利益も両立できるようになると思います。
松田:私が意識しているのは、ファンと一緒にブランドを作っていくことです。私たちの公式ホームページや「Makuake」プロジェクトのキービジュアルに登場している俳優の池田エライザさんは、元々「HERALBONY」の商品をよく買ってくださっていたことで、オファーを快くお引き受けくださいました。他にも、クリエイターは私の友人で固めるなど、普段の仕事よりもはるかに少ない金額でブランドを支えてくれる仲間がたくさんいます。
【実行者様からの質問】
人材などのリソースが限られる中、何に優先的に取り組んでいったら良いのでしょうか?
河野:率直に言うと、今やっていることの8割は本当はやらなくていいことかもしれません。自分自身がやるべきことは何なのかを考えるときに、どういう未来を作っていきたいのかという羅針盤に照らしあわせて、まずはやらないことを決めるのが大切です。
松田:私たちは3年前に、3ヶ年計画や5ヶ年計画を作ったことが良かったと感じています。ヘラルボニーが10倍成長したら10倍社会もよくなるという確信を持ってやりたかったので、目先の数値計画、PLやBSの精緻なものを引いてみました。結果的に自分の行動が目標に向かうので、毎月一喜一憂しながら成長させていこうというマインドになります。
今後の展望
北原:最後に、今日のイベントの感想をお聞かせください。
松田:自分たちで決めることが何よりも大事だと思ったのと、自分自身もっと攻めなければというのを強く感じました。波風立たないというのが一番のリスクだと思っているので、もっと攻めたことをやっていこうと思います。
河野:日本のブランドに携わられている方の中には、まだブランドの本当の面白さを知らない方も多いと思います。日本のものづくりやブランドは非常に素晴らしいので、もっと自信を持って発信していっていただきたいです。世界中で「日本ってすごいな」と思われることが私の夢でもあるので、マクアケさんとヘラルボニーさんの今後も楽しみにしています。
「FRACTA」について
FRACTAは、ブランドの輝きを社会に実装するトータルブランディングパートナーです。
私たちはブランディングとマーケティング、そしてテクノロジーとデザインの力で、企業の新規事業開発から、すでにあるブランドの核を再発見し社会に実装することまで、総合的な課題解決でブランドと共に未来へと伴走していきます。
FRACTAが提供するブランド支援
①ブランド構築支援・リブランディング
商品とブランドの存在意義やブランド価値の定義、ブランド戦略の立案から実装までサポートします。
②クリエイティブ制作
ビジュアル制作、コピー開発、販促物、体験イベントなど媒体を問わず幅広くクリエイティブ制作を提供します。
③Eコマース構築・運用支援
ECのテクニカルディレクション、構築、各種運用ディレクション、担当者の教育研修などを提供します。
まだ言語化できていない課題の解決や困難な挑戦への伴走、新しいブランドの立ち上げやECサイトのリニューアルなど、様々な相談に伴走者としてお応えしております。
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