新時代の企業にインド人的リーダーシップスタイルがマッチする4つの理由(インド人リーダーシップ論 #4)
今はビジネスにとってどんな時代だろう?
前回の記事で、優れたインド人のリーダーシップには以下の7つの特徴があるようだと書いた。各項目について詳しくは前回の記事を読んで欲しい。
1. 現実に左右されず巨大な野望を描く
2. 無理に思えることを可能だと思い込ませる
3. 失敗を恐れない突き抜けた楽観性をもつ
4. さっさと見切り発車して始めてしまう
5. 猛獣(キャラの濃い人材、多種多様な人材)を使いこなす
6. 自分の弱みを正直に人に見せて、可能な限り分業する
7. 変化を好み、臨機応変に問題解決する
今世界でインド人経営者が台頭している背景には、インドが国として力を入れてきたテクノロジー教育と英語教育の恩恵があることは間違いない。しかしそれだけでなく、私はインド人のもつリーダーシップ・スタイルが、今の時代の条件にマッチし有利に働いていると考えている。今日はその条件について考えてみたい。
一企業の経営者としてビジネスの世界に身を置いてきた私自身が感じる、現代の経営者が置かれている環境と、今のビジネスの成功の法則をまとめてみよう。
妄想を現実化できる企業が勝つ
すでにもので溢れ、ないものが思いつかない、それが今の世の中だ。言い換えれば、人が何を欲しがっているかが分かりにくい時代になった。企業は今や社会に明らかに足りていないものを供給し補う存在ではない。経営者は未来に必要になるものを発明するか、あるいは必要そのものを作り出さなければならないのである。
イーロン・マスク氏のようなイノベーター兼経営者が今注目を集め、Teslaがとんでもない時価総額になるのはそのためだ。企業はこれまでに人が想像したことのないサービスやプロダクトの概念を生み出し、それを人々に欲しい!必要だ!と思わせ、そのありもしない概念を実際に商品化してハイっ!と世に出すことが、消費者から株主からも期待されている。
つまり、「妄想を信じられないスピードで現実化する力を持つ企業」が、現代のビジネスにおける勝ち組になれる。いやはや、大変な時代になったものだと思う。
市場調査はもう役に立たない
描いた妄想に価値があるかどうかは、それを商品として具現化し、消費者に直接問うてみなければ本当にはわからない。そして市場の変化は恐ろしく速く、予測がつかない。
2007年に登場したiPhoneはたった10年で通信機器だけでなく、カメラ、エンターテインメント、ショッピングまで思いがけない業界の根幹を揺さぶった。2004年〜2006年に登場したFacebookやTwitter、YouTubeなどのSNSは、書籍やTVなどの伝統的なメディアの価値だけでなく、人々の繋がりやコミュニケーションのあり方を一変させた。明日何が売れ、世界規模で人の行動を変えるのかわからない。市場調査なんてものが役に立たない時代だ。
このような予測不可能な時代でも、企業が社会にコンスタントに価値を提供するためには、アイディアから商品化までの時差を最小限にすることが必要だ。それには慎重さよりも、リスクを取る大胆さとスピードのほうが求められる。批判を恐れず次々と商品を世に出してからカスタマーの声を聞いて改善していき、失敗したらさっさと撤退する見限りも必要だ。
3位までしか生き残れない
勝ち負けがはっきりしているのも、現代のビジネスの大きな特徴だ。少し前で言えば、コンビニや大規模ショッピングモールの登場によって商店街の店や個人商店が軒並み廃業に追い込まれたように、小さいビジネスは生き残れない構造だ。今はさらにそのコンビニ間での統合が進み、セブンイレブン、ファミリーマート、ローソンの3社が市場を独占している。このような統合の動きはありとあらゆる業界で起きている。
首位は圧倒的な力を持ち、3位までしか本当の意味で生き残れない。これが今のビジネスの厳しい掟だ。勝者は市場を独占できるだけでなく、余力を蓄えてさらに多角的にビジネスを拡大できるチャンスを得る。この戦いから振り落とされた無数の企業は、残ったごく小さなパイの切れ端の取り合いになり、成長が著しく阻まれる。2位と3位の企業もまた、首位争いを降りたら途端に容易に格差をつけられる。
Winner takes allの時代、そしてそのWinnerはたった一人なのだ。「ほどほどに成長しよう」という心構えの企業の多くは、そもそも市場から叩き落とされ存在できなくなってしまう。1位になることを大前提とし、誰よりも速く成長しその成長を止めない貪欲さが経営者には不可欠なのである。
ボーダレス化する市場
「特定の国で強い企業」が通用しないのも今の世の中である。日本発の日本人のために作られたSNSであるMixiが、アメリカのFacebookで日本語インターフェースが導入された途端にあっという間にとって変わられたのは今でも記憶に新しい。
インターネットの登場と物流の加速によって、世界はどんどんボーダレス化している。米アマゾン (Amazon.com)で購入した商品が、プライオリティアイテムであれば2〜5日でインドの玄関先まで届くのだ。金額はさておき、消費者は欲しいものを必ずしも国内で調達するとは限らない。プラットフォームビジネスではとっくに国の垣根が取り払われているし、製造業においても日本製品だからというぼんやりした理由で物が買われる時代ではなくなった。
仮にあなたの企業が国内3位に入っていたとしても、海外企業にある日突然市場を奪われるかもしれない。今は世界規模で海外の企業と互角にビジネスを展開しなければ勝ち組になれない。そのためには、自社の価値を国内だけでなく、世界中の消費者に売り込める経営者が必要なのだ。
ダイバーシティという名のリスクヘッジ
市場調査に頼らず、今までにないアイディアを妄想し、スピーディーに実現すること。他の企業と統合し圧倒的1地を目指すこと。国の枠組みを超えた市場を開拓し、世界と張り合うこと。これらの土壌になるのが人材のダイバーシティだ。
同質な人々が集まる組織は管理がしやすいが、新しいものが生まれにくい。幅広いバックグラウンド、知識や技術を持つ人が多い組織はそれだけアイディアが集まりやすく、かつ会社が細かく方向転換をしたり新事業を立ち上げたりする際の人材面でのリスクヘッジになる。当然ダイバーシティが高いほど人事の問題も増えるが、クリエイティブな経営をするためには避けて通れない。
ユニクロを展開するファーストリテーリングのように将来の幹部候補として様々な国や地域の優秀な人材を最初から抱えておくのも、有効な経営戦略かつリスクヘッジであると思う。古い日本企業では、しばしば膨大な予算を使って日本人社員を海外に送り込み、ゼロから市場調査をして海外展開を試みる。しかし、言語の問題さえクリアしてしまえば、現地の文化や生活をよく知る外国人社員を登用して責任と権限を与え、現場で意思決定させた方がずっと速い(実はこれはやってみると、意外と企業カルチャーと現地カルチャーの衝突が問題になりうまくいかないことも多いのだが、それはそれとして)。
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最初にあげたインド人経営者の7つのリーダーシップ・スタイルと、現代の経営者が置かれている環境を照らし合わせてみて欲しい。
不確実な時代のビジネスでは、高い成長目標を掲げ、失敗を恐れず楽観的に、新しいことにチャレンジして妄想を具現化する力、多様な人材を扱いこなしてクリエイティブな仕事をし、世界と渡り合う力が経営者に求められている。
インド人リーダーは、インドという国の歴史的、地理的、文化的、教育的な背景から、こういった能力を自然と身につけている人が多いのではないかと私は考えている。少なくとも、私がこれまでに出会ったインド人リーダーたちはこれらのパーソナリティ要素を共通して持っていた。
これから、この7つの特徴について、まずは私がこれまでに体験してきたエピソードを紹介していきたいと思う。また、これがどれだけ広くインド人経営者に当てはまる要素なのか、だとしたらどんな要因がそのスタイルを作り出してきたのかについて徐々に深掘りしていきたい。
(つづく)
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