宮崎駿監督『君たちはどう生きるか』(2023年)
宮崎駿ファンA「この対話はネタバレあり?」
宮崎ファンB「具体的な物語内容についてはネタバレしない」
宮崎駿ファンA「きょう公開されたばかりだもんね」
宮崎ファンB「パンフレットすら後日販売開始にされていた」
宮崎駿ファンA「ネタバレ画像が出回るのを避けたということか」
宮崎ファンB「事前情報の秘匿が、とにかくすごかった。タイトルが『君たちはどう生きるか』だって発表されたのはいつだったっけ」
宮崎駿ファンA「2017年。『風立ちぬ』が2013年に公開されて、宮崎が引退会見した。その4年後」
宮崎ファンB「そのタイミングで、タイトルは吉野源三郎の小説(1937年)に由来するけど、原作ではなく、映画は「冒険活劇ファンタジー」になることが予告されたんだね」
宮崎駿ファンA「そのあとの事前情報は、最近になってアオサギの扮装みたいな格好をしたキャラのポスターが発表されたくらいか」
宮崎ファンB「封切り当日のきょう、米津玄師が主題歌「地球儀」を担当したとツイートした」
宮崎駿ファンA「これは鋭いファンなら予想してた人もいるんじゃないかな。スタジオジブリが毎月発行しているPR誌『熱風』に米津が登場したことがあったからね。2018年8月号。過去の多くの宮崎作品同様、『君たちはどう生きるか』でもプロデューサーを務めた鈴木敏夫と対談した」
宮崎ファンB「それはおそらくどんぴしゃかな。2018年8月というと、米津玄師がFoorinに提供した「パプリカ」が大ヒットしていた頃」
宮崎駿ファンA「公開日のきょう、宮崎はその「パプリカ」を聴いて、米津玄師に今回の映画の主題歌を依頼したっていう報道があったよ
宮崎ファンB「やっぱりそうなのか」
宮崎ファンA「その対談で米津はジブリファンなだけでなく、宮沢賢治のファンでもあるって言ってたから、宮崎とは波長が合いやすかったんだろうね」
宮崎ファンB「宮崎アニメって、宮沢賢治的世界観が中枢にあるもんね」
宮崎駿ファンA「それにしても、物語にまったく立ち入らずに映画を語るのは難しいね。とりあえず始まると、「これは『風立ちぬ』ふたたびということか⁉︎」ってハラハラするんだよね」
宮崎ファンB「小説『君たちはどう生きるか』のイメージはあちこちにあったね」
宮崎駿ファンA「現物も出てくるし」
宮崎ファンB「あれはディティールも同じなのかな? 初版は新潮社なんだよ」
宮崎駿ファンA「岩波文庫に収まったのは、ずっとあとの1982年か。それにしては、岩波書店のロゴマーク、ミレーの「種まく人」のイメージが目立ってた」
宮崎ファンB「宮崎には『本へのとびら──岩波少年文庫を語る』(岩波新書)という著作もあるからね。「岩波推し」が現れたのかも」
宮崎駿ファンA「最初はちょっと退屈に感じる観客も多そうだけど、とにかく動きや音がすごいんだよ」
宮崎ファンB「『エヴァンゲリオン』でも活躍した本田雄が、作画監督として今回もすばらしい品質を保証した。宮崎は絵コンテに専念したとか」
宮崎駿ファンA「いろんなアニメ制作会社が協力して作られてた。エンドクレジットは、これが日本の最高峰かつ最先端のアニメだ! って示そうとしたかのようだった」
宮崎ファンB「宮崎の動きへのこだわりはむかしからだけど、生活の質感を表現することに注力したのは、高畑勲への追悼の意味あいもあるんじゃないかな」
宮崎駿ファンA「高畑は宮崎にとって、師でもあり、最大の同志でもあり、という存在だったからね」
宮崎ファンB「ジブリらしい「おいしそうな食事シーン」もあったじゃない?」
宮崎駿ファンA「あれは宮崎アニメもだけど、それ以上に高畑監督の『アルプスの少女ハイジ』を連想しちゃったよ」
宮崎ファンB「わかる(笑)」
宮崎駿ファンA「日本人が宮崎アニメ的なものと思ってるものって、しばしば本来は高畑アニメ的なものだもんね」
宮崎ファンB「あとは矢尻、折りたたみナイフ、包丁なんかの刃物がちょっとゾクッとさせられる不気味さなんだよね
宮崎駿ファンA「あれも宮崎らしいこだわりなんだろうな。日用品と武器、日常と戦争の揺らぎをじっと見つめている感じ」
宮崎ファンB「ところでさ、途中で新海誠監督の『すずめの戸締り』みたいになるんじゃないのかって、ひやっとしたんだね」
宮崎駿ファンA「そうだね。まあ実際には宮崎が新海化してるというより、新海がどんどん宮崎っぽくなってきてるんだけど」
宮崎ファンB「あの人の作品って、はじめは庵野秀明と村上春樹をかけあわせたような作風だったのに、どんどん宮崎要素が増してきているね」
宮崎駿ファンA「宮崎も高齢だし、そういう意味では日本のアニメ界にとって、後継者はバッチリということかも」
宮崎ファンB「うーん、新海はまだ一皮か二皮むけないと、宮崎ほどの熟成に達しない気がするけどな。まだまだ青臭い」
宮崎駿ファンA「まあ、それ言ったら宮崎だって『魔女の宅急便』を公開したときって、48歳だから」
宮崎ファンB「そっか。『すずめの戸締り』公開時点で、新海は49歳だったから、それを考えたら、どっちが子どもっぽいかってわかんないね」
宮崎駿ファンA「正解は、両方なかなか成熟しない人たちということでしょう」
宮崎ファンB「作品のモティーフはね。技術的にはふたりとも早熟」
宮崎駿ファンA「それは言わなくても、わかってるって」
宮崎ファンB「『すずめの戸締り』は新海作品だけど、宮崎がらみだと、とりあえず過去作のいろんな場面を連想できるようになってるね」
宮崎駿ファンA「かつ、オタク的なセルフパロディになっていないのは好感度高い」
宮崎ファンB「宮崎はそういうの嫌いそうだからね。宮崎作品じゃないけど、ジブリの『思い出のマーニー』は少し連想したかな」
宮崎駿ファンA「宮崎の映像ではない仕事なら、三鷹の森ジブリ美術館でやってたE. T. A. ホフマン原作の『クルミわり人形とネズミの王さま」展とか江戸川乱歩原作の『幽霊塔』展とか、ちょっと思いだす」
宮崎ファンB「ヒロインが誰かは難しい問題だけど、小さいほうのヒロインはルイス・キャロルを連想するね」
宮崎駿ファンA「『不思議の国のアリス』と『地下の国のアリス』」
宮崎ファンB「声優がまさかのあの人!」
宮崎駿ファンA「声優も事前に公表されていなかったから、エンドロールを観てびっくりした。で、映画館から出てきたら、ネットニュースになってた」
宮崎ファンB「それにしても、どうしてあの時代の物語にしたんだろうね。必然性を感じた?」
宮崎駿ファンA「タモリが2022年の暮れにさ、『徹子の部屋』に出て、「来年はどんな年になるでしょう」って訊かれてさ、「新しい戦前になるんじゃないでしょうか」って答えたの、話題になったよね」
宮崎ファンB「なるほど、宮崎にもそういう「時代の変わり目」への危機感があるってことか」
宮崎駿ファンA「だからこそ『君たちはどう生きるか』なんじゃないかな」
宮崎ファンB「そう考えると、ゾッとするタイトルかもしれないね」
宮崎駿ファンA「不気味な場面は多かったよね。モロなグロ趣味はないけど」
宮崎ファンB「トトロ系というかポニョ系というかのラブリー要素はあるから、あのあたりの場面は小さい子たちも喜ぶんじゃないかな」
宮崎駿ファンA「うーん、少なくとも途中までは、めくるめくる大興奮の連続! という作品ではないから、小さい子にはどうなんだろうか」
宮崎ファンB「あと、『君たちはどう生きるか』という問いには、単純に『風立ちぬ』の反復という要素もあるかも」
宮崎駿ファンA「『風立ちぬ』でカプローニが言ってた「創造的人生の持ち時間は10年だ。芸術家も設計家も同じだ。君の10年を力を尽くして生きなさい」だね」
宮崎ファンB「うん、後進のアニメーターも含めて、じぶんより若い人全般に、遺言を2回残したかたちだ」
宮崎駿ファンA「『風立ちぬ』から10年かかって今回の新作だけど、また10年後でいいから、さらなる新作を見たいね」
宮崎ファンB「そのときは宮崎、92歳になってるよ(笑)」
宮崎駿ファンA「いますでに82歳ということか。この年齢でこのレベルの作品は、やはり快挙というしかない」
宮崎ファンB「ぼくたちもあんまり若くから死にたいと思ってる場合じゃないね」
宮崎駿ファンA「『もののけ姫』で「生きろ。」と呼びかけられ、『ポニョ』で「生まれてきてよかった。」と聞かされ、『風立ちぬ』で「生きねば。」とダメ押しされたぼくたち宮崎ファンだもんな!」
宮崎駿ファンB「生きる勇気をもらえる映画だった」