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気付きの代償 映画『ファーストキス』視聴感想

『ファーストキス』を鑑賞した。映画好きだった私もいつのまにか妻子を持つようになり、そうなるとなかなか映画を見に行けなくなった。今回は先に観た妻から、子どもの面倒を見るからぜひ見てほしいと薦められて観ることができた。

作中で1番印象的だったのは、かけるの遺影が最初はムスッとしていたのが、最後には笑顔になっていたことだ。これが全てではないかと思う。2人の人生がまるで違ったものになったことの価値は計り知れない。

カンナがタイムスリップして、出会うかけるに何度もアタックするも、なかなか恋が成就しない。先で結婚する未来が待っていようとも、出会いは縁であり、その奇跡性を象徴している。

教授の娘と結婚することが支配的であった(本人にその気があったかは別として)状況で、カンナと出会って全く別の人生が始まっていく。これだから人生は面白いのかもしれない。教授を目指す道から会社員へと、激動の変化の中に入っていく。

惜しむらくは、カンナの『恋愛感情と靴下の片方はいつかなくなります』という言葉通り、夫婦仲が冷め切ってしまったことだ。奇跡のように、何も関係がなかった2人が出会い、結婚して一緒に暮らすようになる。時系列で追ってみると、そのかけがえのなさがより明らかになる。

カンナは喪って気づいたのだ。かけるを思う気持ちに。かけるを喪わないために、自分と出会わない未来を選ばせようと思うほどに。タイムスリップを繰り返す努力、その健気さに相手を思う気持ちの強さが感じられる。愛してるという言葉は不要なほどに。

最終的にかけるは喪われてしまう。そこでの結果は何も変わっていない。ただ、それでいいと思う。監督が言いたいのは、自分が死ぬかもしれないのに助けるか助けないか、そういう論争をしたいわけではないと思う。

お互いを思いやれていたあの頃を思い出し、その日々の大切さ、維持することの難しさ、そしてその日々を積み重ねることの価値に気づくためには、かけるを喪うというほどの代償が必要だったのだ。それほどまでに、我々は大切なことさえも忘れてしまうのだから。

夫婦仲が冷え切り、離婚届を出すその日にかけるは死に、遺影の表情も冷め切っている。その後はどうだろう。2人での充実した日々の積み重ね、笑顔になった遺影、自分の死をわかった上での妻への贈り物。あまりにも変化が大きすぎる。

かけるを喪ったことは同じだとしても、カンナのこれからの人生はまるで違ったものになるだろう。今度は教授の娘に小言を言われる隙もなく、かけるとの幸せな日々があったのだから。

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