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実用本位とは「理にかなっている」こと

今日は、三谷龍二さん(木工デザイナー)他による書籍『生活工芸の時代』より「竹のハエたたき」という節を読みました。一部を引用してみたいと思います。

しかし、ハエたたきというのが、世界中にあるのは愉しいことです。世界中の人がハエをうるさい存在だと思い、それを退治する道具を作っている。お国柄もはっきり出ていて、自分たちの得意な素材、自国に豊富な素材を使って作っています。スウェーデン鋼の有名な国のハエたたきは鋼鉄製で、革加工の盛んな国のハエたたきは革を使う。そして、日本のハエたたきは竹製と、目的はひとつなのに、国によってそれぞれ工夫の仕方が違っていて面白い。
ところで、この竹のハエたたきがどのように優れているかといいますと、とにかく自らの気配を消すことに秀でているのです。つまりハエのすぐそば、ギリギリまで近寄ることができるのです。そうすれば自ずと命中率は格段に上がる。(中略)どうしてか判りませんが、竹のハエたたきには気配を断つ優れた特質があるのです。かたちは団扇に似た方法で竹を裂いて、撓りを利用して扇形に広げて、糸で止めてあります。とかく工芸は手を掛けすぎるものですが、実用本位のこのハエたたきは、素材の特性を生かし、手の掛け方も適正で、無駄のない、きれいなかたちに仕上がっています。

今回の題材は「竹のハエたたき」です。

ハエたたきは世界中に存在していて、しかも各地の文化や素材を活かして作られている。とても興味深いですね。

たとえば、フランス発祥ブランドのHermesが「レザー製ハエたたき」を販売しています。叩かれたハエの跡が革に残らないんでしょうか...。気になるところです。

さて、「実用本位」という言葉に触れたとき、真っ先に頭に浮かんだのは、柳宗悦さんが唱えた「用の美」でした。

その美しさはどこから来るのでしょうか?

今回、三谷さんが「竹のハエたたき」を評している言葉を取り出してみると以下になります。

1. 素材の特性が生かされている
2. 手の掛け方が適正である(無駄なく、きれいなかたちに仕上がっている)

残念ながら写真を掲載することができませんので、今回は「素材の特性」に着目してみたいと思います。

竹のどんな特性が生かされているのでしょうか。竹の香りが好まれて、ハエも安心する?

インターネットで「ハエたたき」と検索してみると、「ハエたたき コツ」など、やはり皆さん苦労されているようです。

独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センターによる「嗅覚を伝える神経系の発生メカニズム」(2009年6月10日)によれば「ハエなど昆虫の嗅覚系は非常に発達しており、匂いの情報を伝える神経ネットワークは複雑な構造をしている」とのこと。

また、どうやら掘った竹の子には「ハエが群がる」そうです。

その観察を踏まえて、ハエが好む香りを放つ素材で道具を作ってしまうのは理にかなっているような気がします。

「その素材の特性は何だろう?」という問いに向き合うヒントは「観察」にあるのかもしれません。

「実用本位」とは「理にかなっている」ということ。

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