笑顔のススメ(感情や選択は刺激に左右される)
今日はダニエル・カーネマン(心理学者、行動経済学者)による書籍『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?』より「プライミング効果のふしぎ)」という一節を読みました。一部を引用してみたいと思います。
一九八〇年代になると、ある単語に接したときには、その関連語が想起されやすくなるという明らかな変化が認められることが分かった。たとえば、「食べる」という単語を見たり聞いたりした後は、単語の穴埋め問題で”SO◻︎P”と出されたときに、SOAP(石けん)よりSOUP(スープ)と答える確率が高まる。言うまでもなく、この逆も起こりうる。たとえば「洗う」という単語を見た後は、SOAPと答える確率が高まる。これを「プライミング効果(priming effect)」と呼び、「食べる」はSOUPのプライム(先行刺激)、「洗う」はSOAPのプライムであると言う。
記憶に関する理解でもう一つ大きな進歩は、プライミングは概念や言葉に限られるわけではない、と判明したことである。意識的な経験からこれを確かめることは、もちろんできない。だが、自分では意識してもいなかった出来事がプライムとなって、行動や感情に影響を与えるという驚くべき事実は、受け入れなければならない。
すると横向きの鉛筆をくわえた(本人は笑っているつもりはないが)笑顔の被験者は、縦向きでしかめ面の被験者より、漫画をおもしろいと感じたのである。別の実験では、眉を寄せてしかめ面をつくった被験者は、衝撃的な写真(飢えた子供、喧嘩、事故の負傷者)に対して強い感情反応を示した。
何かを連想するとき、それが先行する刺激(プライム)に左右されるというプライミング効果。何かを自由に自分の意思で選んでいると思っても、じつは何かの刺激に影響されているという話はとても興味深いです。
「プライムは概念や言葉に限られるわけではない」と述べられていますが、他の例として「行為」が取り上げられていました。
たとえば、ドイツの大学で行われた研究として、学生が毎分30歩のペースで5分間歩いた後、単語のリストから4つの単語を並べて短文を作る問題を出すというものがあります。実験を行うと「忘れっぽい」「年老いた」「孤独」など、高齢者に関連する単語を通常よりはるかにすばやく認識するようになったそうです。
毎分30歩というペースは通常歩く速度の約3分の1で、身体を通して具体的にゆっくりとした時間の流れを経験したことで、あたかも自分が高齢者になったかのようなバイアスがかかるのかもしれません。
逆に、高齢者関連の単語を見せてから歩いた学生グループは、他のグループよりも歩く速度が遅くなり、しかも「高齢者」という観念は意識に上らなかったそうです。これらの実験結果が示すように、プライミング効果には「双方向性」があります。
また、「笑顔」なのか「しかめ面」なのかによって、漫画の面白さが変わるという実験も興味深く、「日常生活において自分の表情は、笑顔としかめ面のどちらが多いだろうか?」という問いが浮かんできました。
自分の表情は意識していないと案外わからないものです。もし「表情や行為が感情や印象を左右する」のだとしたら、物事の捉え方を変えたい時、まずは意識的に表情を変えてみることから始めてみてもよいのかもしれない、と思いました。できれば笑顔でいること。物事を前向きに捉えて楽しみ続けるために。
最初は意識が必要かもしれませんが、その積み重ねで無意識のうちに笑顔が増えていけば、自然と自分も生活も明るくなっていくのかもしれません。