あらゆるものが流れやすくなってゆく
今日は、ジェレミー・リフキン氏(文明評論家・経済評論家)による書籍『限界費用ゼロ社会 - <モノのインターネット>と共有型経済の台頭』より「極限生産性」という一節を読みました。一部を引用してみたいと思います。
ここでまた私たちは、資本主義の核にある究極の矛盾に直面する。資本主義体制の推進力は、熱力学的効率を上げることでもたらされる生産性の向上だ。その過程は熾烈を極める。(中略)つまり生産量を一ユニット増加させる限界費用は、ほぼゼロになるのだ。だがその目標に行き着くと、財やサービスはほぼ無料になり、利益は枯渇し、市場における財産の交換は停止して、資本主義体制は最後を迎えることになる。
だがロバート・ソロー(一九八七年に成長理論でノーベル経済学賞を受賞)が工業化時代をたどって調べたところ、機械資本と作業能率では、経済成長全体のおよそ一四パーセントしか説明がつかなかった。そこで、それ以外の八六パーセントは何に由来するのかという疑問が生じた。
そして工業経済における生産性向上や成長で、例の八六パーセントの大半は、「エネルギーや原材料が有用な仕事に変換される熱力学的効率の向上」で説明がつくことを突き止めた。言い換えれば、「エネルギー」こそが、欠けていた要因だったのだ。
第一次・第二次産業革命を掘り下げて調べてみると、生産性と経済成長を飛躍的に高めたのは、コミュニケーション/エネルギー/輸送マトリックスと、それに伴うインフラ(企業がみな接続している汎用テクノロジー・プラットフォームを含む)だったことが明らかになる。
「生産性を向上させよう」と叫ばれて久しいです。
なぜ生産性を上げる必要があるのだろう?
そもそも生産性とは何でしょうか。生産性を向上させるとはどのようなことでしょうか。なぜ生産性を向上させる必要があるのでしょうか。生産性を上げた先には何が待っているのでしょうか。
本書では生産性を「生産に必要なものに対する生産物の比率(生産物の総量をその生産に必要なモノの総量で割ったもの)として計算される生産効率の指標」と述べています。生産性 = アウトプット ÷ インプットです。
もし財を一つ増産したりサービスを一回増やしたりするのにかかるコスト(限界費用)がほぼゼロならば、それは生産性が最高水準であることを意味します。インプットがゼロに極限まで近づけば、生産性は無限大です。
モノやサービスの価格が<コスト+利益>で決まる世界では、コストがゼロになれば、価格も(利益も)ゼロに近づきます。Free(無料で自由にモノやサービスを利用できる)になっていきます。
資本主義は「利益を高めるために競争の過程で生産性を向上させ続けると、全体の利益が消滅してしまう自己矛盾を抱えている」との主張は興味深いです。
そのような自己矛盾の中でも、生産性を向上させ続ける意義はどこにあるのでしょうか?
あるゆるモノ・コトが流れやすくなってゆく
機械資本と作業能率では、経済成長全体のおよそ一四パーセントしか説明がつかなかった。
作業能率とは「労働生産性」のこと。つまり人がいかに少ない労力で多くのアウトプットを生み出せるか、ということです。機械への代替と労働生産性向上は、工業化時代の経済成長に14%しか寄与していないというのは驚きです。
かたや、生産性と経済成長を飛躍的に高めたのは、「コミュニケーション/エネルギー/輸送マトリックスと、それに伴うインフラ」とされています。
どういうことでしょうか?
「あらゆるものが流れやすくなった」
この一言でまとめることができると思います。流れやすくなるのは網の目のように張り巡らされた「ネットワーキング」によるものです。
水の流れをイメージしてみましょう。水が流れていないところでは水は流れにくいですが、ひとたび水が流れ始めると、水の流れに沿って流量が増え、やがて支流ができてゆく。支流の流量が増えて、さらに支流ができる。その連続によって「流れやすさ」は高まり続けていきます。
コミュニケーションは情報・アイデアの流れ。エネルギーは力の流れ。輸送は人やモノの流れ。インフラは送電網、道路網、鉄道網など流れの通り道。
経済活動とは【採取→生産→流通→消費→廃棄】のサイクル、つまり流れですので、一定期間内の流量が増えることは「経済成長」と同じ意味合いです。
その流れが満遍なく行き渡ればよいのですが、ある箇所に集中してしまうと本当に必要なところに行き届かないということがあります。その意味でも、「流れが潤沢で隅々まで行き渡り続ける世界」は健全なのかもしれません。
穏やかに流れ続ける場所の水は澄んでいますが、流れが滞っている場所の水は澱むことを想像すると、次のような問いが浮かんできます。
「この社会の中で流れにくくなっているモノは何だろう?」
「なぜ流れにくくなっているのだろう?」
「流れやすくするにはどうすればよいのだろう?」
向き合いたい問いがまた見つかりました。
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