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海水から淡水を。淡水に海水のエッセンスを。

今日は『植物は<未来>を知っている 9つの能力から芽生えるテクノロジー革命』(著:ステファノ・マンクーゾ 他)から「海上に浮かぶ温室で育つレタス」を読みました。

今後も高まり続ける食料需要を満たすにはどうすれよいだろうか。それも、農業に適した土地の開拓も無尽蔵に行うことはできないという制約の中で。著者は「海の上をフロンティアとせよ」と説くのでした。

地球に存在する水の97%は海水です。塩分等が含まれていますが、水の量に困ることはありません。海の上というフロンティアをどのように開拓するのか。著者は、海上に浮かぶ島での栽培への挑戦について述べています。

私はそのとき《ジェリーフィッシュ》のことを聞かされた。アントニオとクリスティアーナは、水上に浮かぶ温室というアイデアを育んでいるところだったのだ。この温室は塩水を淡水に変え、その水を温室内で植物用の水として使う。二人が描いた魅惑的なラフスケッチでは、温室は透明なドーム状で、その土台からは長い麻のロープ(塩水を吸い上げるのに必要)が何本か伸び、ロープはタコの足のように水に浸されていた。

海水をロープで吸い上げる。吸い上げた海水を淡水に変えて植物に与える。太陽光や風などのエネルギーを活用し、環境負荷を抑えて植物を栽培する。

そうした取り組みが実を結べば、海上というフロンティアを活用して高まる食料需要を満たすことができるかもしれません。それも持続可能な形で。

ですが、海上栽培の島のプロトタイプは中々うまくいかず、失敗と改良の繰り返しが続いたそうです。ある課題の解決を試みると、別の課題が顔をのぞかせる。様々な課題が相互にからみあう状況のようでした。

コンセプトは素晴らしくても、実際に取り組む中で見えてくる課題があり、それらを地道に解消することが必要とされる。著者は行き詰まりを感じる中で「植物の世界にヒントを探す」という原点に立ち返ったそうです。

水の循環について、次のように短く記述されている。「水は川から海へ、海から川へ向かうと結論づけられる」。こうして私たちは、自然界における水の循環が、効果的な塩分除去装置でもあるということに気づいたのだ。海から水が蒸発すると、水に溶けていた塩が海に残る。水蒸気が雲になり、凝結し、雨として地上に落ちてくるときには淡水になっている。太陽が引き起こす蒸発を通して、大量の水が日々淡水化されているのだ。

太陽の熱による水の蒸発と凝結。陸地に降る雨は淡水ですが、それは雨雲がもたらしている。雨雲のもとをたどれば、水の蒸発に行き着きます。太陽光を活用して、海に浮かぶ島で水の循環を再現することで、きわめて簡易に、かつ環境負荷を抑えた形で淡水を確保することができるというわけです。

自然を模倣する。何かの障害にぶつかったときに自然の中に潜むメカニズムをヒントにする。大切にしたい考え方です。

唯一の問題は水質だった。その水は、植物栽培用としては純粋すぎたのだ。実際、太陽による淡水化プロセスを経てできた水は蒸留水と変わらず、ミネラルをまったくふくんでいない。対策として、淡水化装置によってつくられた水に海水を一〇%混ぜてみた。この割合なら植物にダメージを与えることなく、海水にふくまれる無機塩類を加えられる。

海水を淡水化すると必要とされるミネラル分が残らない。それならば、真水に変えたあとで適量の海水を混ぜればよい。太陽光を用いた淡水化装置は、結局のところ、海水の水分とミネラル分のバランスを調整していることに他なりません。

まわりくどいようにも感じられますが、回り道をしたほうが結果的に近いこともあるかもしれない。最短距離は直線的であるとはかぎらない。そのようなことを思ったのでした。

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