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身体化された知覚〜ボルダリングにおける傾斜の知覚を通して〜

昨年から友人にお声がけ頂き「ボルダリング」にチャレンジしています。ボルダリングジムに通い、大小様々な形のブロックが取り付いた傾斜のついた壁に手足をかけて登ってゆくものです。

人それぞれ、手足の長さも違えば、関節の柔軟性、可動域も違います。他の方がチャレンジしている様子を見ているだけでも「そのような登り方ができるんだ…」と、創造的な身体運動に新鮮な気持ちになります。見えていないものが見えているのだと思います。

「こうすれば先に進めるのでは…?」と直感しているものと想像しますが、その直感は手を動かす・伸ばす感覚であったり、足を伸ばし・かける感覚に根差しているのだと思います。少なくとも「頭だけ」でイメージは完結しておらず、頭の中で自分が登っている状況イメージする中で身体が動いているような感覚が湧きあがっているのではないでしょうか。

ここからは私自身の体験を綴ります。壁に登り始め、体力に余裕がある時は身体が軽く感じ、遠く離れたブロックにも「きっと届く」と直感したり、壁の傾斜も気にならない傾向にあります。一方、体力を消耗してくると、手足の感覚も鈍くなり、緩やかな傾斜でも急な傾斜に感じてきます。これは同じコースに複数回チャレンジする中で、壁の傾斜に対する認知が変化しているということの表れだと思います。

壁の「物理的な性質」は変化していないとすれば、私の認知が行為、疲労感によって変化している。つまり、行為を通じて環境、世界を認識している。この感覚を広げてみると「いつ・どんな状態の時に」物事に取り組むのか、ということが極めて大切なのだと思います。

プロフィットたちは、ジョギングの前に彼らに5°ないし31°の傾斜(参加者には知らされていない)がある丘の麓に立ってもらい、その丘を見て傾斜の角度を3つの方法で尋ねた。(中略)この丘の傾斜の推定のあとに、参加者にはきついジョギングに出てもらい、そのゴールとして参加者に気づかれないように、こちらも5°ないし31°の傾斜がある別の丘に来てもらった(始まりと終わりの傾斜は異なっていて、その順番は参加者ごとにカウンターバランスされていた)。

レベッカ・フィンチャー - キーファー『知識は身体からできている 身体化された認知の心理学』

もっとも重要なのは、傾斜知覚における疲労の効果は両傾斜条件で有意であり、参加者はジョギング前よりもジョギング後におよそ10°程度、急であると推定していたことである。そして、この結果は、単純に傾斜を角度で報告できないことに帰することはできない。プロフィットたちは、視覚的推定で用いた手持ち式のディスクを使って、たとえば単純に「ディスクを35°にセットしてください」とだけ求められたとき、参加者は角度で示された傾斜がそのディスクでどのようになるか、正確にわかることを示した。

レベッカ・フィンチャー - キーファー『知識は身体からできている 身体化された認知の心理学』

われわれは世界を真正なものとしてではなく、身体がそのなかでどのように行動するかという観点から知覚している。これがプロフィットの身体化された知覚(embodied perception)という見方の本質である。視知覚は環境からの視覚入力を得て、自動的で意識的な気づきもないまま、身体の移動運動のエネルギーコストを考慮しながらそれらを統合する。それは内的な進化に基づく動因が、エネルギー効率の高い方法で行動させるためである。

レベッカ・フィンチャー - キーファー『知識は身体からできている 身体化された認知の心理学』

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