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創意工夫の余地のある「技術」とは何だろう?

E・F・シューマッハ(イギリスの経済学者)による書籍『スモール・イズ・ビューティフル - 人間中心の経済学』の「第二部 資源」より「第五章 人間の顔をもった技術」を読み進めています。

今日は「人間的な仕事の源泉」について。一部を引用してみます。

生産時間を総社会時間の三・五パーセントに圧縮するうちに、人が仕事に費やす時間からすべての人間的な喜びや満足感が失われてしまうということが起こった。現場での生産のほとんどが、人間を豊かにするどころか貧しくする、非人間的な雑用になってしまった。したがって、現代技術は、人間が楽しんでする仕事、頭と手を使っての創造的で有益な仕事を奪い、代わりにみんながいやがるコマ切れの仕事をたくさん作り出したといってよい。
マルクスは「彼らは役に立つものだけを生産したいと思っているが、役に立つものを造りすぎると、その結果、役立たずの人間をよけい作ることになるのを忘れている」と書いているが、このとき、いま述べたことをほぼ予想していたように思われる。この言葉に「とくに生産過程が喜びのない退屈きわまるものである場合には」とつけ加えたい。現代技術の過去、現在、未来にわたる発展の方向は、ますます人間らしくない顔を示してきており、ここらでそれを再検討して、将来の目標を立て直すべきではないかという疑問が、以上のことすべてから裏づけられる。
技術を再検討してみると、われわれの掌中には、新しい知識の山や、知識をさらに増やす優れた技術や、知識の応用の分野での厖大な経験のあることがわかる。これまでは一つ一つが真理である。この真理から巨大主義や超音速や暴力や人間らしい仕事の喜びをぶちこわす技術が、必然的に生まれてくるわけではない。

「人が仕事に費やす時間からすべての人間的な喜びや満足感が失われてしまう」

この言葉は昨日も触れた「人間らしい仕事」に関わります。

仕事に費やす時間における人間的な喜び、満足感とは何でしょうか?
また、その源泉はどこにあるでしょうか?

著者、そして『資本論』等で有名な経済学者カール・マルクスの次の言葉にヒントがあるように思いました。

「みんながいやがるコマ切れの仕事」
「役に立つものを造りすぎると、その結果、役立たずの人間をよけい作ることになる」

まず注目したいのは「コマ切れの仕事」という箇所です。人類の歴史を遡れば、経済は「自給自足」から「分業」へと移行してきました。自給自足では「あれもこれも」ゼロから全て自分でこなさなければなりません。

限りある時間の中でそれこそ「生存」のためのマルチタスクをひたすらこなさなければなりません。そこに「楽しみ」を見出すのは至難の業のように思えます。しかし、その中でも、例えば狩猟や採集における道具の発明や、火を使った調理技術など「創意工夫」が行われ、その瞬間の人類は「楽しみ」を覚えていたのではないかと想像しています。

やがて、集団が誕生し、お互いが得意なことに集中することで、経験や知識が蓄積されます。それは個々人の「技術」が向上だけでなく、知識の伝播を通じて集団全体の生産性が向上することで余剰が生まれ、人類は「生存」のための労働から少しずつ解放されていきました。

時代を経て、生産現場に「省力機械」が導入されるようになると、そこでは「生産工程」が単純作業に細分化されます。機械が作業の枠組みを規定し、創意工夫を求められない、誰でもできる単純作業。その細分化された工程に人は充てがわれ、毎日毎日変わらない「機械との共同作業」を繰り返す...。

いささか単純化し過ぎかもしれませんが、著者は本書が執筆された1973年、大量生産・大量消費が勢いを増す時代における、生産現場を想定していると思います。

「作業の枠組みが細分化・固定化する」ことと「創意工夫の余地がない」という2つが人間的な仕事から人間らしさを奪う要因であるように思えます。マルクスが言うところの「役立たずの人間をよけい作ることになる」とは、創意工夫の余地を奪われる結果なのかもしれません。

逆に考えてみると人間的な仕事に人間らしさを取り戻すためには、「作業の全体性を回復すること」「作業の枠組みを固定化しないこと」「創意工夫の余地をつくること」の3つが鍵になるように思えてきます。

この真理から巨大主義や超音速や暴力や人間らしい仕事の喜びをぶちこわす技術が、必然的に生まれてくるわけではない。

技術が自ら「作業の枠組みを細分化・固定化する」ような形で誕生したのではなく、使う側の人間がそのような技術を「選択」したのだとすれば、違う形での技術を選択することもできるはずです。

では、どうすれば「人間的な仕事に人間らしさを取り戻す」ような形の技術を選択することができるのでしょうか。創意工夫の余地のある「技術」とは何でしょうか。

本節を読み進めながら、じっくりと考えていきたいと思います。

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