光景と情景〜降り注ぐ雨の連想を通じて〜
「雨が降る」という言葉から、どのような光景を連想するでしょうか。
ポツポツ、パラパラと降る雨。
バケツをひっくり返したように降り注ぐ、土砂降りの雨。
台風がもたらす打ち付けるような強い風と共に降り頻る雨。
あるいは、しとしと降る雨。
滴の存在を感じさせない、霧のように漂う雨。
実にさまざまな光景が連想されると思います。
では、バケツをひっくり返したように降り注ぐ雨をとってみます。
雨が降る場所の気温が暖かな場合と冷たい場合では、体感としての雨の印象は異なるかもしれません。
あるいは、厚みのある雲間から光が降り注いでいる場合、どんよりとした雲が空を覆い尽くしている場合も印象は異なるかもしれません。
やわからかな暖かさのもとで雲間から明るい陽射しが差し込む中に降り注ぐ雨は、大地に恵みをもたらすような神々しさが見出されます。
一方、厳しい寒さのもと、どんよりと重くのしかかるような灰色の曇り空から降り注ぐ雨は、大地から何かを奪い去ろうとしているような力が見出されます。
このように思い返してみると、人は物理的な現象を単純に物理的に捉えているのではなく、「心的」に捉えているのだと感じます。
言い換えるならば「光景」と「情景」の違いとも言えるかもしれません。
光景は物理的であり、情景は心的である。
事象の捉え方の機微を、言葉で明確に表現しようと努められた先人の豊かな感性に尊敬の念を抱かずにはいられません。