「同じ場所への旅を重ねること」にも楽しみがあると思う。
以前歩いたことのある道を、幾許かの間隔を空けてから歩いてみると何とも言えない新鮮な気持ちになる。
その間隔は半年、一年、あるいは数年かもしれない。
最初は地図を頼りに歩いた道を、次は地図を使わずに歩みを通じて身体に刻まれた記憶を頼りに歩き直してゆく。
「あの曲がり角を曲がると、その先にはたしかこんな光景が広がって…」という記憶を先行させながら、実際の道や光景があとから追いついてくると、「やっぱりそうだった」という「確信」の色が深みを増せば、「あの時は気付かなかった」という「驚き」の色が新たに重ねられていく。
そう思うと、「歩く」という営みは絵画のキャンバスに色を重ねてゆくことに近いのかもしれない。
最初に歩いた時はキャンバスに下地の色を淡く重ねてゆき、それ以降は既に塗られた色を重ねたり、新しい色を重ねてゆく。
知識の体得、変容あるいは生成され続ける知識。光景から情景への変容。
「反復の中で同一と差異を見い出す」ことによる既知、未知の再発見。
重ねられてゆく歩みは決して色褪せない。