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失敗こそ投資。逸脱が好まれるシステムは反脆い。

今日は『反脆弱性』(著:ナシーム・ニコラス・タレブ)から「間違いに感謝」「他者の失敗から学ぶ」を読みました。

あるシステムが脆いか反脆いかを考えるとき、部分と全体の「階層構造」に注目してみるとよいのでした。

私たちが見えているものは私たちのスケール(大きさ)で見えているにすぎません。ひとつに見えているものでも、スケールを小さくして細分化すれば小さな何かの集まりかもしれません。あるいは、スケールを大きくすれば、自分が見えているものが全体の一部にすぎないかもしれません。

個体と群れ。要素とシステム。部分と全体。俯瞰してみたり、細部に注目してみたり。脆さ・反脆さは「つながり方」がもたらす性質なのだと、あらためて感じました。

脆さ、間違い、反脆さの関係を端的に表わすと次のようになる。脆いシステムは、物事が計画どおりの針路に従うかどうかに依存している。逸脱は少なければ少ないほどよい。逸脱は利益よりも害が多いからだ。そういうわけで、脆いシステムでは予測性の高いアプローチが必要になり、逆に予測的なシステムが脆さをもたらす。一方、逸脱を好む場合、そして未来の事象にどれだけばらつきがあってもかまわない場合には、ほとんどの事象が利益になるので、そのシステムは反脆いということになる。

計画や予測から逸脱しないほうがよい。物事は「予定調和的」に起こることが望ましい。そうした暗黙的制約がシステムを脆くする。だとすれば、「計画」や「予測」とは何でしょうか?なぜ必要なのでしょうか。

「予期せぬことに備えるため。」と答えたい気持ち、分かります。急な変更や軌道修正は難しい。システムが大きければ尚更です。

一方、「逸脱を好む場合、ほとんどの事象が利益になる」と著者は述べていますが、逸脱が好まれる状況、環境とは一体どのようなものでしょうか。

前例がないこと、未知の出来事。自ら試行錯誤を繰り返して情報を得ながら進むしかありません。逸脱するためには「過去の延長線上としての未来」が前提として存在していなければならない、ということに気が付きました。

さらに、試行錯誤を理性的に行い、間違いを情報源として使うことができれば、試行錯誤のランダムな要素は、もはやランダムとはいえなくなる。試行を繰り返すたびに、何がうまくいかないかがわかるなら、解決に一歩ずつ近づいていることになる。よって、試行錯誤は繰り返すごとに価値を増し、失敗よりも投資に近くなる。もちろん、その途中で色んな発見があるはずだ。

「試行錯誤は繰り返すごとに価値を増し、失敗よりも投資に近くなる。」と著者は述べています。回り道、遠回りのように思えても、結果的に「豊かな教訓」を引き出せたならば、失敗は投資と同じと思えます。

逆に、「逸脱を嫌う」背景には「あるべき未来」に向かって最短で直線的に距離を縮めようとする心持ちがあるのかもしれません。脆さの裏側にある「線形性」が見え隠れします。

一方で、経済の崩壊については同じことは言えない。現在の経済システムは反脆くないからだ。なぜか? 飛行機は1日に何十万便と運行されているが、ひとつの飛行機が墜落しても、ほかの飛行機を巻きこむわけではない。そのため、失敗は制限されていて、大きな教訓になる。一方、グローバル化した経済システムはひとつとして機能している。失敗は広がり、複雑化する。

著者は航空業界と経済システムの崩壊を例に挙げて、脆さと反脆さを対比します。

航空業界では飛行機事故が反脆さを生み出しています。墜落の原因が分析され、分析から得られた教訓が今後の機体開発や運航に活かされることによって、航空システム全体としての事故発生確率が減少する。墜落で人命が失われるのは大変悲しいことですが、リスクは墜落した飛行機に限定されており、航空システム全体が強くなる意味で「反脆い」というわけです。

一方、経済システムは互いにつながりあっているため、国家の破綻などの影響が瞬時に影響を及ぼします。つまり、リスクが部分だけに限定されていません。金融危機や紛争など、不測の事態に備えることはできません。「システムが脆いかどうかを見抜くほうが容易い」と、本書の冒頭で著者が述べていたことが思い出されます。

重要なので繰り返すが、ここで話しているのは全体的ではなく部分的な失敗だ。深刻で致命的な失敗ではなく、小さな失敗だ。よいシステムと悪いシステムの違いはここにある。航空業界のようなよいシステムは、失敗が起こるにしても小さく、互いに独立している。失敗によって将来の失敗の確率が減るので、いわば失敗同士が負の相関関係を持っている。この考え方は、反脆い環境(航空業界)と脆い環境(縦横無尽につながりあった"フラット化する世界"的な現代の経済生活)を区別するひとつの方法だ。

「失敗同士が負の相関関係を持っている」

飛行機事故の場合でいえば、飛行機事故の頻度が多いと幅広く教訓が得られるため、システム全体で見た事故発生確率は低くなる、ということ。部分を横軸(説明変数)、全体を縦軸(被説明変数)にとるイメージでしょうか。

何かのデータを扱う際に、このような視点で可視化して相関関係を見てみると、注目する対象の脆さ・反脆さが浮かび上がる。とても学びになりました。

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