初めてをなじませる
今日は、三谷龍二さん(木工デザイナー)他による書籍『生活工芸の時代』より「ピクニックテーブルとベンチ」という節を読みました。
それでは、一部を引用してみたいと思います。
僕が野外好きになったひとつの理由は、長い間クラフトフェアに関わってきたことがあると思います。毎年そこで使うテーブルや椅子を買い足し、白除けのターブなどを増やしていって、そのうちに野外で使う道具類が揃っていって、いつでもピクニックができるようになっていたのでした。
テーブルもベンチも、どちらも脚を折り畳むことができるので、車にも積み込みやすくなっています。野原に行ったら、草の上にシートを広げるのも楽しいですが、テーブルと椅子があったら気分がまた全然違ってくる。ドライブの途中で素敵な場所を見つけたら、荷台からこのセットを取り出して広げるのです。するとはじめて訪れた場所が、まるで自分の庭のようになり、その風景をただ見るだけとは違うかたちで味わうことができるのです。
時には携帯用コンロとでお湯を沸かし、ゆっくりと一杯のコーヒーを淹れる。雄大な景色を見ながらいただくその味と時間は、格別なものです。
「はじめて訪れた場所が、まるで自分の庭のようになり、その風景をただ見るだけとは違うかたちで味わうことができる」
この言葉がとても印象的です。
風景をただ見るだけとは違うかたちで味わう、ということは今まで意識したことがありませんでした。
テーブルや椅子を持ち運び、組み立てて腰を落ち着けてみると、その場所が自分の庭のようになる。その景色の一部になるような感覚なのでしょうか。
テーブルや椅子がない状態で景色を眺めているときは、その景色がその人の視界に広がっている瞬間的な景色の広がりが思い浮かぶのですが、テーブルや椅子があると、そこに座っている自分も景色の一部になっているというか第三者の視点から自分自身を見ているようなイメージが浮かんできます。
初めて出会った時の新鮮な感覚と、何度も触れているような、なじむ感覚。
「初めてをなじませる」
そんな言葉が浮かんできました。
景色に限らず、向き合う出来事の一つひとつにおいて忘れないようにしたいものです。