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周囲とのつながり方が変われば、価値観や行動も変わる

今日は『ソーシャル物理学 - 「良いアイデアはいかに広がるか」の新しい科学』(著:アレックス・ペントランド)より「社会的圧力を利用する「インセンティブ」」を読みました。

本節のタイトルは「社会的圧力を利用するインセンティブ」です。インセンティブの意味は「誘引」ですが、これは「判断や行動を促すもの」と言い換えることができます。社会的な圧力を利用する、つまり「周囲が働きかけるように促す仕組み」を作り、ある人の習慣や行動を変容させる。それが本節の主題となります。

強い社会的絆が人々の行動を促すことはわかったとして、これを最大限に活用するにはどうすれば良いのだろうか?一般的な経済的インセンティブの考え方では、人間を他者とのつながりから影響を受ける社会的存在としてではなく、合理的な行動を取る個人として捉えてしまうのでこれには的外れである。そうでなくても、経済的インセンティブはうまく機能しないという兆候が見られている。しかし社会物理学は、他の可能性があることを示唆する。個人の行動変化を狙った経済的インセンティブや、情報そのものに頼るのではなく、人々のソーシャルネットワークに関係するインセンティブを使うのである。

「経済的インセンティブ」とは、たとえばクーポンを発行して割安感を出すなど、経済的合理性の中で自発的な行動変容を促す仕掛けのことです。

「経済的インセンティブがうまく機能しない兆候が見られている」という点は、自分事として振り返ると「つられてしまう時」と「そうでない時」のいずれもあるので、参考文献『When and Why Incentives (Don’t) Work to Modify Behavior』を読み、その背景を深掘りしたいところです。

人の判断や行動を変えるためには、情報を与えるだけでは足りない。価値観は自分と異なる価値観や行動を継続的に見聞きする中で変容していくため、周囲の環境を整え、自分と他者との関係性・相互作用を変えることが重要になります。これが「人々のソーシャルネットワークに関係するインセンティブを使う」の意味ですが、まずは「つながりを作ること(ソーシャルネットワークに巻き込から始めよう、という示唆が得られます。

バディたちは中心にいるターゲットの人物の直近3日間の運動の量に応じて、少額の現金を報酬として受け取る。このような構図をつくることで、ターゲットの人物には、より運動するように仕向ける社会的な圧力がかかることになる。ターゲットと最も交流している人々にそのような社会的圧力をかけるインセンティブが生まれ、ターゲットが行動を改善することに対する報酬も、ターゲット本人ではなく彼らに支払われるからだ。言い換えれば、ソーシャル・ネットワーク・インセンティブは、どうやって運動量を増やすかというアイデアに関するエンゲージメント(チーム内のメンバー間で繰り返される協調的行動)を促すのだ。

著者は、人々が体を動かすように促すことを目的とした「FunFit」という仕組みを作ったそうです。参加者全員に2人の「バディ(パートナー)」が割り振られ、深い付き合いの人がバディになることもあれば、顔見知り程度の人がバディになることもあるそうです。

社会的圧力とは「相互監視」している状況を作り出して、逸脱する可能性(サボったり、あきらめたり)を抑えるように、適切な支援(あるいは罰)が行われるようにすること、とも言えます。

顔が見える関係の中で注意を促されたり支援を受けると「よし、頑張ろう」と思えたり、嫌々かもしれませんが「続けてみよう」となる可能性が高い。その原動力は何だろうと考えてみると、「信頼関係を失いたくない」ということに尽きるのではないか、と思います。もし、バディとの関係を失っても良いのであれば社会的な圧力は弱まってしまうように思います。

平均すると、ソーシャルネットワーク・インセンティブは、従来型の個人に対する市場型インセンティブに比べおよそ4倍の効果を持っていることが判明した。さらにターゲットとなる人物と最も頻繁に交流しているバディについては、効果は約8倍にも達しているのである。さらに良いのは、この効果が持続する点だ。ソーシャルネットワーク・インセンティブが与えられた人々は、そのインセンティブがなくなった後にも、高い運動量を維持していた。この小さいが、ターゲットを絞った形でのソーシャルネットワーク・インセンティブは、コミュニティ内に行動変化に向けた社会的圧力をつくり出すことで、健康的な生活という新たな習慣に対するエンゲージメントを生み出したのである。

「ソーシャルネットワーク・インセンティブ」は、持続的な行動変容を促す効果が高い。

「インセンティブがなくなった後にも、高い運動量を維持している」とは、つまり少額の報酬がなくなったとしても、社会的なつながりの中で、相互に状態を確認しあいながら支援する関係性が続いている、ということです。

少額の報酬はあくまでも「補助輪」のようなもので、「支えられている」と感じることで孤独感・孤立感を和らげ、自分が実践していることが社会的なつながりの中で意義を感じられるようになる。

「最初のきっかけさえ与えられれば、人は自らを変える・変え続けることができる」との前提に立ち、「適切な支援のあり方とはどのようなものだろう?」と問いかける。

つながるきっかけの作り方。つながりの続け方。

「個人」という言葉には「独立した存在」というニュアンスがありますが、「互いにつながりあった存在」と捉え直すことで見える世界が変わるのだとあらためて思いました。

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