「料理」がフードロスをポジティブに解決する 〜映画『0円キッチン』上映会開催後記〜
IDEAS FOR GOODのライター井上美羽さんをゲストに招き、映画『0円キッチン』のオンライン上映&ダイアログを開催しました。井上さんは監督ダーヴィドさんにインタビューをされた方で、彼のキャラクターや思いを聞くことができました。
(※ちゃんとした開催レポートは、近々URLユニバーサルリサーチラボの公式サイトにアップします)
ゲスト:井上未羽さんプロフィール
井上美羽さん / IDEAS FOR GOOD ライター
大学時代は「ゴミ袋から胃袋へ」という言葉をキーワードにフードロスの問題に向き合う。サステナブル先進国、オランダのロッテルダムに一年間留学をし、サステナブル×ビジネスの視点から環境問題を考えはじめる。オランダで得たエコなアイディアを日本に持ち帰り広めていきたいと考えている。
井上美羽さんの記事:
『もったいないキッチン』ダーヴィド・グロス監督が見た日本の食品ロス https://ideasforgood.jp/2020/01/08/mottainai-kitchen/
▼映画『0円キッチン』
今回上映した『0円キッチン』は、2020年に公開された『もったいないキッチン』のダーヴィド監督の前作。世界から食料廃棄をなくすため、ヨーロッパ5か国を旅するロードムービーです。廃油で走るキッチンカーで、母国オーストリアからドイツ、ベルギー、オランダ、フランスを訪れ、明るく楽しく、時に真剣に食の問題を描きます。
「0円キッチン」
監督:ダーヴィド・グロス、ゲオルク・ミッシュ
2015 年/オーストリア/81 分
■世界で生産される食料の3分の1は食べられることなく廃棄されている。その重さは世界で毎年13億トン。「捨てられてしまう食材を救い出し、おいしい料理に変身させよう!」と考えた食材救出人のダーヴィド。植物油で走れるように自ら改造した車に、ゴミ箱でつくった特製キッチンを取り付け、ヨーロッパ 5 カ国の旅へ出発。各地で食材の無駄をなくすべく、ユニークでおいしく楽しい取り組みをしている人々に出会いながら、食の現在と未来を照らし出していくエンターテイメント・ロードムービー。
http://www.unitedpeople.jp/wastecooking/
▼日本の可能性は、もったいない精神とお好み焼き
井上さんのインタビュー記事には、ダーヴィド監督が語った日本についての興味深いお話が書かれています。それは「日本には相反する2つの食文化がある」というもの。
一つは日本人のもったいない精神、もう一つは大量廃棄を促している食糧生産システムだといいます。後者は戦後アメリカから日本に入ってきたものだ、と。ヨーロッパからみた、客観的で貴重なコメントではないでしょうか。
問題なのは人ではなく、システムなのだと彼はいうのです。
続編にあたる『もったいないキッチン』では、害獣として殺されたイノシシ、祭りで余った食材、不揃い野菜などを使ってお好み焼きを作るシーンがあるそうです。ダーヴィド監督いわく「自由に食材を組み合わせて作ることのできるお好み焼きは、フードロス削減にはぴったりの料理ですね」とのこと。これも良い意味でハッとさせられました。
▼敵を作るのでなく、一緒に解決する
井上さんのインタビュー記事では、システムが問題だというダーヴィド監督の想いが他のところにも表れています。それはフードロスを出しているコンビニに対する向き合い方。コンビニは敵ではなく一緒に解決するパートナーだと彼は考えるているのです。そう、直すべきはシステムのほうなのです。
『0円キッチン』でも、彼が語り合う相手は基本的に問題の当事者で、意見が違う場面も多々あります。EU議会のレストランのシェフや、オランダで肉料理を提供するシェフ、そして映画の最後はフランスの港で売れなかった魚を回収する団体の代表から「あなたの言っているのは理想論よ」と一蹴されるシーンがあります。
ただ、誰と意見を交わすときでも、いつも彼は笑顔なんです。
「それならば、助け合いましょうよ」・・・最後は彼女のほうからダーヴィドさんにそう言い、シーンは終わります。お互いすばらしいんです。
※1978年オーストリア生まれのターヴィド監督。この映画の撮影後に日本人と結婚したそうです。日本の食文化にも詳しいんです。日本が舞台の続編『もったいないキッチン』も必見ですね。
▼最大のプレイヤーは消費者
トークセッションの詳しい内容は開催レポートに譲るとして、参加者からゲストの井上さんにこのような質問がありました。
「法律やルール、食品メーカー、レストラン、消費者。それぞれが努力する必要があるけれども、日本ではどのセクターが変われば社会全体が良い方向に向かうのでしょうか」
井上さんは「一番は絶対に消費者だと思います」と断言。食品メーカーも、レストランもパン屋さんも、消費者が受け入れないから捨てるのではないでしょうか。その上で井上さんは「レストランがとても重要な役割を果たす」とも言います。生産者と消費者をつなぐ重要なハブだ、と。解決策を最もよく知っているのはレストラン。料理人は、食材を無駄なく使うことができる立場にいて、何よりその方法を一番よく知っているのです。
※井上さんが関わっている「日本サステナブル・レストラン協会」、フードロス解決のためのアプリ「TABETE」、それからミステリアスなコオロギカクテルを提供する愛媛のバーなどの貴重なお話もありました。
※僕はずばり、この本をお勧めしました!
※URLでは近々、この本の「読まずに参加できるペア読書会」を開きます。イベント中に読む時間が設定されているZOOMイベントです。
(2021年1月17日 たまたまですが、我が家は今夜お好み焼きでした)
▼(余談)料理レシピは古き良きオープンソース
研究者という仕事柄、世の中にある優れたアイデアには大抵、特許やら著作権やらがついてくる。そんな中で以前から気になっていた、いや「気に入っていた」ことがあります。料理レシピには著作権がないということです。
今回、参加者とのダイアログでは料理レシピについてのお話をいくつも聞かせてもらいました。
東京から長野に移住して一年目の方から「こちらのママ友には農家でパート仕事をしている人が多く、野菜をもらう機会が多いんです。白菜ばかりが大量に入る時には白菜の上手な使い方、ズッキーニの季節にはズッキーニのレシピなど、料理の情報交換が多くて面白い」というお話を聞きました。
山梨から参加した大学生からは「クックパッドには、残り物を使ったレシピがいっぱいあるんですよ」というお話も聞きました。さっそく「冷蔵庫の残り物」の検索で調べると、創作意欲が湧く手軽な料理がいっぱい出てきます。
「料理はフードロスの一番簡単で有効な解決策」。これはダーヴィド監督が井上さんのインタビューで語った言葉です。
悪者探しでもなく、やせ我慢でもなく、楽しくフードロスに向き合えるのが日頃の料理なのかもしれません。料理はクリエイティブ。料理レシピはオープンソースですね。