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オンナってね、キミが思うほどに弱々しくなんかない

恋を失った主人公が、自分に手紙を書いてみずからを慰めようと歌う。あなたからの手紙と思い込もう。うんと甘い言葉を書き連ねよう。そして受け取って大喜びしよう。
「ミーン・トゥ・ミー」のフレッド・E・アーラートがメロディを書き、「ダイナ」のジョー・ヤングが詞を書いた。始唱はファッツ・ウォーラー。1935年に発表された古いジャズ・ソング。ユーモラスでチョッビリ悲しい歌だ。

フランク・シナトラやナット・キング・コールなどでなんとなく聞いていたこの歌を、改めて意識するようになったのは、マデリン・ペルーのヴァージョンを知ってから。買い付けを終えてファスト・フード店で遅い夕食を買い込み、サウス・サンフランシスコの内海沿いのモーテルに戻る道すがら、FMラジオからしゃがれ声の女性シンガーがフランス語で歌う「バラ色の人生」が流れた。帰国して調べてみたら、それがマデリン・ペルーだった。「バラ色の人生」は、1996年発表のアルバム「Dreamland」に収録されていた。購入して聞くうちに、今度は「手紙でも書こう」が耳に引っかかった。彼女が歌うとユーモラスな味わいが消え、にがく苦しい歌に聞こえた。

ポール・マッカートニーは、2012年発表のジャズソング・アルバム「キス・オン・ザ・ボトム」の冒頭に、この曲を置いた。さらっと歌っている。これも素晴らしい。

歌が始まってほどなく、「I'm gonna sit right down and write myself a letter」の「a letter」のところで、「ドミソ」の和声をバックに、メロディは「シ」の音を歌う。一瞬、メロディが宙に浮いたように聞こえる。この中途半端な感じがとてもいい。主人公の悲しみを、期せずして映し出しているように聞こえて来る気がする。

ついでにもうひとつ。冗談音楽の王者、スパイク・ジョーンズのショーでの演奏も秀逸だ。こうして遊ばれていると言うことは、すでに十分に知られている歌だという証しなのだろう。


かつてこんな文章を書いたことがあった。

これを読んだ友人女性から、「マデリン・ペルーのヴォーカルは『にがく苦しい歌』には聞こえない」というメールをもらった。「フラれて帰ってきてハイヒール投げて八つ当たりして、お酒飲んでぼやいている感じ。泣きながら手紙を投函して、でも郵便受けに着く頃には、もうこっちから願い下げと言わんばかりに、その手紙を破り捨ててやるの」。そう聞こえるという。「あんまり深刻な感じがしなくて、またすぐ立ち直りそうなところが好き」とも添えられていて、これを読んだボクは内心、ハッとした。

彼女の解釈は、楽しい。「恋を失った主人公が、自分に手紙を書いてみずからを慰めよう」と暗く歌う女性より、「あんなヤツなんて勝手にしやがれ」と、手紙を破り捨て、すぐ立ち直る女性を思い浮かべる方が、遥かに面白い。つい「にがく苦しい」とした受け止めは、女性に対するボクのステレオタイプな思い込みから来たのだろう。「オンナってね、キミが思うほどにヨワヨワしくなんかない、たくましんだゾ」と、それとなく彼女は諭してくれたのかもしれない。

メールをくれたご本人は、自らピアノを弾きながら歌うシンガーだ。いつの日かまさか、彼女が「手紙でも書こう」を歌ってくれたら嬉しいなと思う。どんな女性像が歌の向こうに見えるのか、それも楽しみにしようと思った。

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