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たくさん買う顧客は利益に繋がるのか~関連購買と顧客価値の関係~

企業は消費者に、なるべく多くの製品を買ってもらうため、様々な工夫を凝らしています。今回の記事では、複数の製品カテゴリーを購買する購買行動(関連購買)について着目していきます。

関連購買は、2001年にはじめて取り上げられた概念ですが、現在においても論文が出版されています。私自身も、関連購買に関する論文を出版してきました。

関連購買は、実店舗においても重要なテーマですが、オンラインショッピングが盛んにおこなわれている現代において、実務的にも学術的にも、重要性が増しているテーマだと思います。

今回の記事では、
・関連購買とは何か?
・関連購買は利益に繋がるのか?
というテーマについて、研究成果を踏まえて紹介していきます。

関連購買とは

関連購買は、「複数の製品カテゴリーを購買すること」と定義されます(※1)。

関連購買の一例として、アマゾンにおいて、「アパレル」、「本」、「飲料」という3つの製品カテゴリーをした際の購買行動が挙げられます。

また、限られた種類の製品カテゴリーを取り扱う企業においては、異なる考え方もできます。

例えば、アパレル店においては、「アパレル」という製品カテゴリーしか取り扱っていない場合がほとんどでしょう。そうした場合、アパレルというカテゴリーを細分化し、「トップス」「ボトムス」といった分類をすることができます。

これまでの学術的な研究においては、どちらの考え方も使われており、企業の特徴によって使い分けることができます。

前述したとおり、関連購買は、実店舗でも非常に重要な概念ですが、オンラインショッピングの普及とともに重要性が増していると思います。なぜなら、オンライン店舗は空間的な制約がないため、様々な製品を出品することができるためです。

関連購買と顧客価値の関係

では、関連購買をおこなう顧客は、企業にとって価値があるのでしょうか?
言い換えると、多くの製品カテゴリーを購買する顧客は、そうでない顧客に比べて、利益に繋がりやすいのでしょうか?

ここでは、関連購買と顧客生涯価値の関係に着目した研究を紹介しましょう。顧客生涯価値は「企業において、ある顧客が生涯で使用する金額」という概念です。

顧客生涯価値が高い顧客は、企業にとって価値の高い顧客であり、顧客生涯価値が低い顧客は、企業にとって優先度の低い顧客となります。

実は、様々な研究において、「関連購買は、顧客生涯価値の構成要素に対して、正の影響を与える」ということが明らかになっています(※2)。

つまり、異なる製品カテゴリーを購買する顧客ほど、企業にとって価値の高い顧客と言えます。

しかし、一つ注意点があり、必ずしも全顧客の関連購買が利益に繋がるわけではありません。2012年にJournal of Marketing誌に掲載された論文では、「利益に繋がらない関連購買」が実証的に明らかにされました(※3)。

彼らの研究によると、「セール時に購買する割合が高い」「返品をよくする」といった特徴を持つ顧客は、関連購買をしても必ずしも利益に繋がるとは言えないことが分かりました。

まとめ

一部の顧客には注意する必要があるものの、関連購買をする顧客は企業の利益に繋がる可能性が高いことが、過去の研究から分かりました。

では、顧客は、どのような理由から関連購買をおこなうのでしょうか?
こうした問題についても、今後取り上げていきたいと思います。

※1: Reinartz, W., Thomas, J. S., & Bascoul, G. (2008). Investigating cross‐buying and customer loyalty. Journal of Interactive Marketing, 22(1), 5-20.

※2: 例えば、Kumar, V., George, M., & Pancras, J. (2008). Cross-buying in retailing: Drivers and consequences. Journal of Retailing, 84(1), 15-27.があります。

※3: Shah, D., Kumar, V., Qu, Y., & Chen, S. (2012). Unprofitable cross-buying: evidence from consumer and business markets. Journal of Marketing, 76(3), 78-95.




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