会社とはそもそも理不尽なもの
もう20年以上昔の話、当時の同僚がこんなことを言っていた。
「会社なんてそもそも理不尽なものなんですよ。
だから、気に入らなければさっさと辞めちゃえばいいんです」
そんな彼はある出来事をきっかけに早々と転職して行った。
確かに「会社って理不尽だな」と思うことは多くなってきた。
僕が勤めている会社はベンチャー企業に毛が生えたような感じの企業文化を持っており、それは多分に創業者のキャラクターもあった訳だが、
社内の雰囲気はよくも悪くも緩いもので、チームよりは個人が尊重され、仕事の進め方も個人の裁量に任せられている部分が大きい。
それは逆に言うと、全ての責任は個人の帰するということでもあるのだが、どこか外資系っぽいそういう社風がとても性に合っていた。
しかし、それも10年前に代替わりをしてから、かなり違ったものになってしまった。
おそらくそれは「普通の大企業」になったということなのだろうと思う。
会社という組織は、まず第一に利益を求める営利団体である。
もちろん社是や理念が利益第一であるという意味ではない。
(それだと今話題のビ◯◯モー◯◯みたいになってしまうではないか)
自己実現だとか、成長だとか、人々を幸せにするだとか、はたまた社会への貢献だとか。
社会の一員として会社というまとまりで活動するための目指すものはそれぞれ設定されおり、それが会社の個性になっていたりもする訳だが、
その理念や目標を実現するためには、公共団体やNPOなどの非営利団体でない限り、それなりに利益を求めていかざるを得ないのも事実だ。
成長を目指さない組織は継続し得ないと言われるのもそのあたりだ。
そういう訳なので、会社という大きな括りとしては、部分最適より全体最適を求めざるを得ないケースも多くなってくるのは必然だ。
従って、多くの社員にとっては、会社の決定事項というのは大小の違いこそあれ、
「突然降って湧いたような話」
になることが多い。
「そんな話、聞いてないよ」
「いや、絶対無理だし」
「本当にやるんですか?」
マネージャがお喋り好きな人で、飲み会の席で聞いて知ってました!
みたいなレアケースはここでは除外しよう。
(よくある話だけれど)
「君、来月から九州営業所へ転勤な、よろしく!」
最近の事情は知らないけれど、30年前の銀行ではよくそういう話は聞いた。
個人や家庭の事情などお構いなしの突然の辞令。
「ちょっと悪いんだけど来期からおたくのチームの若手社員から3人ばかり営業に異動させるよ」
これもよくある話だ。
売上が落ちてくるとテコ入れとばかり「営業スタッフを増員するぞ!」の鶴の一声で決まってしまう。
そして犠牲になるのは技術部門やエンジニアリング部門だ、
どこも人数カツカツでやっているのにどうすんだよ〜。
「今期あと5,000万円足りないから、もう一度フォーキャスト精査しろ!それから今期既に達成していて営業マンの来期分に回している案件も前倒しでクローズして来い」
おいおい、それで来期オケラになったって評価してくれないだろ、なんで業績の良いうちのチームが穴埋めしなきゃいけないんだよ。
そんな営業マネージャのため息が聞こえてくる。
「来期のノルマは1本上乗せでよろしく。営業増員や販促予算?ないない。頑張って!」
全くロジカルで計画的ではない営業ノルマの設定。何をどう計算したらそうなるんだ、好き勝手に設定してんじゃねえよ。営業は駒じゃねーぞ。
そんな営業マンのため息も聞こえてくる。
「来週までに絶対に納品してもらわないといけないんだから、徹夜でもなんでもしてやってくれよ!」
そもそも工数設定間違えてたのあんたらじゃないの?そのまま受けて来ないで、顧客を説得して来いよ。
売上最優先だとよくある話だ。
こうしたあれやこれやの降って湧いたような話は、マネジメント層であれば、意思決定の場にいることもあるので、例えそれが不本意な決定事項であっても、一応意見を言う場はあっただろうし、ここはあえて泥をかぶるしかないと諦めもつくであろうが、
それを部下にどう説明して納得してもらうか、説得できるかはマネージャ次第。
そして、会社で最も理不尽なものといえば「人事」だ。
いくら各部門の業績を見えるようにしても、個人の評価を数値化して定性評価から定量評価にしたとしても、
昇給、昇格、異動などの「人事」に関わる決定事項までは、そのプロセスが明確化されていることはそんなにないのではないだろうか?
これぞまさに鶴の一声のような気もするし、夜の飲みニケーションで決まっているような気もする。
まぁ、会社を信じられなくなる要因の大きなひとつだ。
同じ会社に長く勤めていると、どうもこういうところが曖昧になってくる。
「会社のやること、マネジメントの決めることは大体想像がつくよ」
「あぁ、今回の決定はあれね。うんうん、そうするしかないよね」
判った気になってくる。
実際、業務に関わる部分ではおおむね外れていない。
ところがどうだろう。人事に関することになると途端に裏切られる。
特に自分に関係のあるようなことだとなおさらだ。
そこではじめて気付く。
「会社ってやっぱり理不尽だったんだ」
自分で興した会社でない限り、
自分が役員の1人でない限り、
(いや役員であっても、株主の力が強い場合だと理不尽だと感じることはありそうだぞ)
そんなことは当たり前の話だ。
20年以上経って、この言葉が重く突き刺さってくる。
「会社なんてそもそも理不尽なものなんですよ。
だから、気に入らなければさっさと辞めちゃえばいいんです」
<了>
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