米陸軍教範「マルチ・ドメイン・オペレーション」(MDO)
本文は、米陸軍の「多領域任務作戦」(2018/12、陸軍・TRADOCパンフレット525-3-1)で訳文ある(DeepL翻訳を校正・編集)。
米海兵隊の琉球列島へのミサイル配備計画は、「遠征前方基地作戦」(EABO)などで明らかになっているが、米陸軍のミサイル配備が、ある意味では海兵隊に先行して琉球列島に配備されようとしていることは、ほとんど知られていない。その戦略が、米陸軍の「マルチ・ドメイン・オペレーション」(MDO)である。
その始まりは、2014年「陸軍作戦コンセプト」(AOC)であり、以後2017年には「マルチ・ドメイン・バトル」(MDB)が発表されている(海兵隊・陸軍共同作戦計画)。これが、2018年からは、陸軍単独の「マルチ・ドメイン・オペレーション」(MDO)へと発展した。
この構想の中で編成されるのが、マルチドメイン・タスクフォース「多領域任務部隊」(MDTF)であり、米陸軍は、このMDTFのもと、「マルチドメイン戦闘団」を最小限2個新設する計画である。新設される1個隊は、太平洋地域へ配備される計画であり、ここ数年、このプランに基づく米陸軍と陸自との共同演習が頻繁に行われている。
琉球列島ミサイル要塞化計画の全貌を把握するためにも、この米軍のミサイル配備の背景となっている、「マルチ・ドメイン・オペレーション」(MDO)の全容の把握が必要である。
●「マルチ・ドメイン・オペレーション」(MDO)
序文 陸軍参謀総長より
米国の敵は、デザート・ストーム、イラキ・フリーダム、エンデュアリング・フ リーダム作戦において、米国の作戦を綿密に研究してきた。彼らは、米国の戦争方式を よく知っており、米国が、統合・連合作戦、技術的優位、グローバル・パワー・プロジ ェクション、戦略・作戦・戦術的機動、効果的な統合射撃、規模に応じた持続性、任務指揮主導権を重視する戦争方式に秀でていることを知っているのである。 同時に、人工知能、極超音速、機械学習、ナノテクノロジー、ロボット工学など の新しいテクノロジーが、戦争の性格を根本的に変えようとしている。
これらの技術が 成熟し、その軍事的応用がより明確になるにつれ、その影響は、複合戦力の時代の幕開 けとなった機関銃、戦車、航空の統合以来の戦場を一変させる可能性を持っている。
ロシアや中国のような戦略的な競争相手は、軍事ドクトリンや作戦の分析に新し い技術を合成している。彼らは、宇宙、サイバー、空、海、陸のすべての領域で、多 層的なスタンドオフを通じて米国と戦う能力を展開している。我々が直面している軍事 的問題は、作戦の一貫性を維持するために、すべての領域で何層ものスタンドオフを打 ち負かすことである。 従って、米国の戦争方式は進化し、適応しなければならない。
「多領域作戦におけ る米陸軍」(2028 年)は、我々の教義の進化における最初のステップである。
このテキストは、米陸軍が統合軍 の一部として、将来どのように敵に軍事的に対抗し、侵入し、統合を解き、攻略してい くかを記述している。 このテキストは最終目的地ではなく、継続的な議論、分析、開発のための基礎を提供 することを意図している。
私たちは、戦争遂行方法のあらゆる側面を検証し、将来の戦 場において統合部隊をどのように実現するかを理解しなければならない。また、潜在的 な敵の能力と目標を理解しなければならない。それが、戦法を変え、将来必要となる戦 力を構築する方法である。それはまた、抑止力を最大限に高め、必要であれば将来の戦 争に勝つ方法でもある。
このテキストに書かれているマルチドメイン作戦のコンセプトを読み、研究し、解剖 してほしい。皆さん一人ひとりが、私たちの進化と未来の軍隊の構築の一部であり、 皆さんからの批判的なフィードバックを求めている。私たちは、さまざまなウォーゲ ームや演習からのフィードバックを受けて、約12カ月後に新たな反復版を発行するつも りである。私たちは、二番煎じが許されない職業において、未来の陸軍の成功のための礎を築いている。皆様のご協力により、私たちは、アメリカの陸軍が、現在および 将来において、いつでも、どこでも、どの領域においても、敵を撃破するための準備、 致死性、および覚悟を確実にすることができる。 Army Strong!
マーク・A・ミリー
序文 米陸軍訓練教練司令部総司令官より
陸軍の専門家としての私たちの任務の1つは、将来の武力紛争の問題を深く明確に考え 、その紛争を抑止し、必要であれば戦って勝利するための陸軍を構築し準備できるよう にすることである。
将来を考えるとき、わが陸軍の課題は明確である。大国間競争の新時代において、わが国の敵は、政治、軍事、経済の各領域で重層的なスタンドオフを駆使し、米国をパートナーから引き離すことによって、紛争に至らずとも戦略目標を達成 しようとする。
紛争が起きれば、敵は陸、海、空、宇宙、サイバースペースのすべての領域で何層ものスタンドオフを採用し、米軍と同盟国を時間、空間、機能の面で引き離して、我々を打ち負かそうとするだろう。 もし彼らが成功すれば、統合軍に作戦上の優位性を与え、攻撃的な軍事能力を可能にす る戦略的な奥行きを失う危険性がある。国家として、われわれは米国本土からパワーを 投射し、統合軍の行動をグローバルに統合する能力に依存している。敵はこの能力を破 壊し、米国の戦略的優位性を損なおうとしている。
これは、21世紀に出現した米国の安 全保障、パワー、影響力に対する最大の挑戦である。競争において敵の狙いをうまく阻 止し、紛争において敵に勝つためには、米国の戦争方式を進化させなければならない。
マルチドメイン作戦における米陸軍 2028 コンセプトは、レイヤー・スタンドオフの問題を解決するための一連の解決策を提案し ている。
この問題を解決するための中心的な考え方は、武力衝突に至らない範囲での競争において、抑止と 優勢のために戦争の全領域を迅速かつ継続的に統合することである。抑止が失敗した場合、陸軍の編隊は統合軍の一部として活動し、敵の反アクセスおよび領域拒否システムに侵入してこれを解除し、その結果生じる自由な作戦行動を利用して敵のシステム、編隊、目標を撃破し、わが国の戦略目標を達成し、得られた利益を統合して、米国、同盟 国、パートナーにより有利な条件で競争に復帰させるのである。
そのためには、陸軍の兵力と作戦を3つの中核的な考え方に沿って進化させる必要がある。改正された戦力態勢は、戦略的距離を移動するための位置と能力を兼ね備えている。
多領域陣形は、敵に複合的なジレンマをもたらすために、すべての領域にわ たる能力にアクセスし、それを利用する能力、耐久力、能力を有する。収束は、時間 、空間、能力を超えて、すべての領域を迅速かつ継続的に統合し、敵を圧倒することを 実現する。
これらの原則を支えるのは、すべての戦闘エシュロンにおけるミッション・ コマンドと統制のとれたイニシアティブである。 明日に勝つためには、統合軍の一部として陸軍を組織し統合する方法を進化させなけれ ばならない。
これを実現するため、私たちは
(1)未来への方位を示す戦いのコンセ プト(2028年マルチドメイン作戦における米軍)を引き続き改良する。
(2)このコン セプトに関連し、戦力開発への統合アプローチと同期した包括的な陸軍近代化戦略を策 定する。
(3)陸軍の教義、組織、訓練、資材、指導・教育、人事、施設、政策において迅速かつ非線形の解決を図る。
このコンセプトは戦争遂行に関するもので、その中心は「アメリカン・ソルジャー」で ある。米国陸軍の243年の歴史を通じて、米国人兵士の気概、創意工夫、イニシアチブ が、平和、競争、武力紛争におけるわが国の成功の最前線に立ってきたのである。 コンセプトとして、これは最終的な答えではない。私たちは、作戦、演習、実験 から、また他の軍、同盟国、パートナー、さらには敵対国から学びながら、このコンセ プトを改良し、更新していくことになる。このコンセプトを教義と実践に発展させ ることで、陸軍の採用、訓練、教育、作戦、そして絶え間ない改善と変化の方法が明ら かになり、現在そして将来にわたって、米軍がいかなる戦場でも、いかなる敵に対して も抑止、戦闘、勝利できるようにすることができるのである。
計画概要
1. 目的 マルチドメインバトルからマルチドメインオペレーションへ
TRADOC パンフレット 525-3-1, The U.S. Army in Multi-Domain Operations 2028 は、以前に MultiDomain Battle で説明した考えを発展させたものである。
「2028 年のマルチドメイン作戦における米軍」は、「マルチドメインバトル:21 世紀の複合兵器の進化」 で説明した考え方を発展させたものである。
このテキストは、「国家防衛戦略の非機密な要約」で定義された統合軍の主要任務である「競争と紛争の両方における中国とロ シアの侵略の抑止と撃退」に陸軍がどのように貢献するかを説明する。
マルチドメ イン作戦における米陸軍のコンセプトは、中国やロシアのような脱工業化、情報化 国家 の軍隊がもたらす具体的な問題に対する詳細な解決策を提案している。
このコンセ プトは中国とロシアに焦点を合わせているが、その考え方は他の脅威にも適用でき る。
2. 問題
a. 新たな作戦環境
敵はすべての領域、電磁スペクトル(EMS)、情報環境を争っており、米国の優位は保証されていない。小規模な軍隊は、殺傷力が増し、動きが激 しくなった戦場で戦う。国民国家は、政治的、文化的、技術的、戦略的に複雑な環境の中で自らの意志を貫くことがより困難になり、近隣諸国は武力紛争下でより容易に競争し、抑止がより困難になっている。都市化率の劇的な上昇と都市の戦略的重要性から、作戦は密集した都市部で行われる ことになる。
中国やロシアのような敵対勢力は、こうした傾向を利用して、時間的( 平和と戦争の区別があいまい)、領域的(宇宙とサイバースペース)、地理的(現在 は国土を含む戦略支援地域に拡大)に戦場を拡大し、戦術、作戦、戦略上のスタンド オフを起こしてきた。
この文書では、ロシアがペーシングの脅威として機能する。
実際、ロシアと中国は、 それぞれ異なる能力を持つ別の軍隊であるが、その能力をまとめて方向付けるには、 十分に類似した方法で活動すると評価されている。
b. 競争状態にある中国とロシア
中国とロシアは、継続的な競争状態において、米国 の同盟、パートナーシップ、決意を分断することによって、武力紛争に訴えることな く目的を達成するために、作戦環境の条件を利用する。外交・経済活動、非従来型戦争、情報戦(ソーシャルメディア、虚報、サイバー攻撃)、通常兵力の行使または威嚇を統合することによって、スタンドオフを生み出そうとするのである。
中国とロシアは、国や同盟の中に不安定さを作り出すことによって、政治的分離を生じさせ、その結果、戦略的曖昧さが友好的な認識、判断、反応の速度を低下させる。 こうした競争的な行動を通じて、中国とロシアは武力衝突の閾値以下の目標を達成で きると考えている。
c. 武力衝突における中国とロシア
武力紛争において、中国とロシアは、米軍とパー トナー軍に容認できない損失を迅速に与え、米国が効果的に対応できるよりも早く、 数日以内に作戦目標を達成するように設計された反アクセスおよび領域拒否システム を幾重にも使用することによって、物理的スタンドオフを達成しようとする。過去 25 年間、中国とロシアは、武力紛争における時限的かつ領域連合的な作戦アプローチを 採用する 統合軍の予測可能性が高まるのに対抗し、空戦を「分断」する体系的アプローチに投 資し、これを開発し てきた。
その結果、反A2/ADシステムは、時間、空間、機能において統 合軍の諸要素を分 離させる戦略・作戦上のスタンドオフを生み出している。さらに、中国とロシアはこ うしたA2/ADシステムを改良し続け、関連する技術と技 術を他の国家に広めている。統合軍は、こうした動きに追いついていない。統合軍は 、航空・海軍の優位を前提とした、予測可能なアプローチに基づく連続的な作戦を可 能にする、比較的無防備な環境での作戦のために設計されている。
3. マルチドメインオペレーションを行う
a. 中心的な考え方
陸軍は、統合軍の一部門として、競争に勝つために多領域作戦を行う。
必要な場合、陸軍は敵のA2/ADシステムに侵入してこ れを解除し、その結果生じる作戦の自由を利用して戦略目標を達成し(勝ち)、有 利な条件で競争への復帰を余儀なくされる。
b. マルチドメイン作戦の信条
陸軍は、中国とロシアの作戦が競争と紛争にもたらす 問題を、相互に関連する3つの考え方、すなわち、改正された戦力姿勢、マルチドメイ ン陣形、収束を適用することによって解決している。
改正された戦力態勢とは、位置と戦略的距離を越えて機動する能力を組み合わせたものである。多領域編隊は、敵対 勢力との戦闘空間において、複数の領域にわたって活動するために必要な能力、性能 、耐久性を備えている。
収束とは、すべての領域、EMS、情報環境における能力を迅 速かつ継続的に統合し、領域横断的な相乗効果と複数の攻撃形態によって敵を圧倒す る効果を最適化し、任務指揮と統制されたイニシアチブによってすべてを可能にする ことである。
この解決策の3つの原則は相互に補強し合うもので、すべてのマルチドメ イン作戦に共通するが、その実現方法はエシュロンによって異なり、特定の作戦状況 によって異なる。
c. 多領域作戦と戦略目標
統合軍は、競争、武力紛争、および競争への復帰において 、敵を倒し、戦略目標を達成しなけれ ばならない。競争において、統合軍はパートナーに向けられた強制、非従来型戦争、 および情報戦に対抗するため、積極的な関与を通じて競争空間を拡大させる。これら の行動は同時に、エスカレートを抑止し、敵対者が「戦わずして勝つ」試みを打ち破 り、武力紛争に速やかに移行するための条件を整えるものである。
武力紛争において衝突が起きた場合、統合軍は、複数の領域からの効果を決定的な空間で最適化し、敵の戦略的・作戦的なA2/ADシステムを突破し、敵の軍事システムの構成要素を解体し、 政治的結果に有利な状況を作り出す戦略・作戦目標を達成するために必要な行動の自 由を活用する ことで、侵略を打ち負かす。
競争への復帰において、統合軍は、戦力の再生と米国の 戦略目標に沿った地域の安全保障秩序の再確立を可能にするために、獲得したものを 統合し、さらなる紛争を抑止する。
d. 多領域にわたる問題と解決策
これらの戦略目標を達成するために、陸軍は統合 軍やパートナーの一員として、またパートナーとともに、5つの作戦上の問題を解決 しなければならない。
(1) 地域を不安定化させる敵の作戦を撃退し、暴力の拡大を抑止し、万一、暴力が 拡大した場合には、武力紛争への迅速な移行を可能にするために、統合軍はどのよう に競争するのだろうか。
これまで米軍は、文化的、法的、政策的な理由から、武力紛 争以下の競争ではしばしば消極的な姿勢に終始してきた。競争を成功させるには、陸軍が領域(宇宙やサイバースペースを含む)、EMS、および情報環境において積極的に関与することが必要である。
陸軍は、米国に有利な条件での紛争を抑止し、紛争の 閾値以下に競争空間を拡大しようとする敵の努力 を打ち負かし、統合軍が武力紛争に迅速に移行できる条件を整えることにより、統合軍と省庁間が競争 における主導権を獲得し維持することを可能にするものである。陸軍の態勢、能力( 必要な権限を含む)、多領域作戦を実行する態勢は、敵のエスカレーションを抑止し 、敵の情報戦や非通常戦に対抗し、武力紛争の脅威で米国のパートナーを威圧する敵 の努力を弱め、紛争発生時の状況を設定するものである。
敵の通常戦力が代理人に提 供する支援を拒否または制限することで、米国のパートナーは自国を不安定にする企 てにより容易に対抗することができる。武力紛争で勝利する能力を示すことで、米国 を弱い、あるいは不屈のパートナーとして描く敵対者のシナリオに対抗することがで きる。このような行動により、統合軍が武力紛争に迅速に移行するための有利な環境 が整う。
(2) 統合軍はどのようにして、支援地域の奥深くまで敵のA2/ADシステムを浸透させ、戦略的・作戦的な機動力を可能にするのか?
武力紛争の場合、 陸軍は敵の長距離システムを無力化し、敵の機動部隊に対抗し、戦略上および作戦上 の距離から機動することによって、敵のA2/ADシステムに即座に侵入する。
多領域編隊は、統合軍やパートナーとの能力を結集し、敵の長距離システムを迅速に攻撃する。前方展開部隊は、複数の領域で敵の攻撃に即座に 対抗する。前方展開部隊は、敵の長距離監視・偵察能力を低下させ、欺瞞、分散、防 護を併用することで、通信回線を維持することもできる。総兵力全体の能力を適切に バランスさせることで、結束力のある完全な能力を備えた前方展開部隊と、戦略的に 適切な期間内に展開可能な遠征能力を提供する。
(3) 統合軍は、作戦・戦術上の機動性を確保するために、どのように敵のA2/ADシステ ムを深層部で統合解除するのか?
統合軍は、敵のA2/ADシステムを解除して、敵の敗北を促進する必要がある。
スタンドオフ能力、残存能力の再統合阻止、作戦の自由を可能にする。
エシュロンの 陸軍部隊は、敵の長距離システムを撃破し、敵の中距離システムの無力化を開始するために、領域横断的な砲撃を行う。コンバージェンスは、敵を刺激し、観察し、攻撃するために、すべての領域、EMS、情報環境にわたる能力の使用を最適化する。収束 はまた、敵の脆弱性を攻撃するための複数の選択肢を統合軍に提供することで、敵の 長・中距離 システムの隠蔽と防御の試みを複雑にさせる。
統合軍、陸軍、および提携軍の機動部隊は、敵の中距離システムをさらに刺激し、敵の機動部隊を固定または孤立させるた めに作戦行動と欺瞞を実行する。
(4) 近接・深層作戦領域で敵を撃破し、作戦・戦略目標を達成するために、統合 軍はどのように機動の自由を活用するのであろうか。
陸軍は近接・深度作戦領域において、敵の指揮系統 の弱点及び防空・対地射撃への依存度を利用し、敵の撃破を完成させる。陸軍は欺瞞 と他領域との融合により、敵の防衛力を物理的、仮想的、認知的に孤立させ、友軍が オーバーマッチと有利な戦力比を達成できるようにする。
統合軍は、米軍の作戦目標 を達成するまで、戦術的な反アクセス・領域拒否システムを分解し、さらなる活用を 可能にすることを継続する。
(5) 統合軍はどのように再競争し、利益を強固にし、持続的な成果を生み出し、 長期的な抑止のための条件を整え、新たな安全保障環境に適応しているのであろうか 。
陸軍は、米国の政策立案者に政治的優位をもたらす重要な地形と住民の支配を維持 することで、獲得したものを統合し、新たな安全保障環境を有利にするための条件を 整備する。
陸軍は、持続的な成果を得るために地形や住民を物理的に確保すること、 パートナーや統合軍の能力を再生し、領域や情報空間を越えて積極的に関与すること によって長期的抑止の条件を整えること、そして新しい安全保障環境に戦力構成を適 合させることの3つを同時に行うことで成果を集約していくのである。これにより、米 軍が地域の軍事構造を再生し、信頼できる抑止力を提供し続けるための時間を確保す ることができる。
4. 陸軍への影響
a. 複合武器作戦の強化された幅広いニーズ
新たな作戦環境と中国・ロシアがもた らす課題、特に政治的・軍事的対峙を生み出す能力から、統合軍は決定的な空間にお ける統合部隊機動と効果集中の実証済みの原則を適用することが求められている。し かし、陸軍はこれらの統合能力をより包括的に(より早く、より多く、より低い 階層で)、新たな方法で(より速く、より敏捷に)適用しなければならないという考え方が異なるのである。
多領域編隊は、敵システム内の重要な構成要素と脆弱性を刺激 し、確認し、攻撃するための新たな手段を統合軍に提供する。陸軍はまた、地形の掌 握、敵部隊の撃滅、友好的な住民の安全確保という伝統的な任務を引き続き遂行する 。陸軍は、すべての領域、EMS、および情報環境からの能力を結集することにより、 友軍の能力が低下しても、敵を圧倒する能力を保持する。
b. エシュロンでの活動
陸軍は、5つの領域(空、陸、海、宇宙、サイバースペー ス)すべてと情報環境、EMSにわたって情報活動、機動活動、攻撃活動を行うエシュ ロン編成で、多領域作戦を実施する。
エシュロンにおける陸軍のフォーメーションの能力は、複数の方法と順序で能力を収 束させることができ、統合軍司令官に敵にさらなる複雑さを押し付ける選択肢を提供 する。
部隊のエシュロンは、紛争初期に敵の反アクセス・領域拒否システムのスタン ドオフ範囲内に前方配置された部隊の孤立を防ぎ、A2/ADシステムの 範囲外からの部隊による戦略・作戦行動を可能にする。そして、陸軍部隊によるエシ ュロンでの作戦行動により、統合軍は複数のジレンマと集団効果で中国・ロシアの軍 事システムを圧倒し、作戦行動の自由を可能にする優位の窓を作り出すことができる 。
c. クロスドメイン能力を収束させる
収束には、単一領域の代替案と比較して、2 つの利点がある。領域横断的な相乗効果によってオーバー マッチが生じ、複数の攻撃形態によって領域横断的に重層的な選択肢が生まれ、味方 の作戦を強化し、敵 に複雑さを押し付けることができる。クロスドメイン能力を収束させる能力によって 、統合軍は中国とロシアのシステムの脆弱性を刺激し、見抜き、攻撃し、スタンドオ フを作り出す彼らの努力を打ち負かすことができるのである。
現在、統合軍は領域連合ソリューションの一時的な同期化によって能力を収束させて いるが、将来はニアピアの 脅威に対して、ミッション・コマンドと規律あるイニシアティブによって可能になる 多領域能力の継続的かつ 迅速な統合を実施しなければならないだろう。
d. 人間の潜在能力を最大限に引き出す
陸軍は、指導者、兵士、チームの選抜、訓 練、教育を通じて、マルチドメイン陣形を構築し、維持する。マルチドメイン能力を活 用するためには、技術的・専門的な専門知識を幅広く、深く兼ね備えた指導者や兵士を 集め、維持し、雇用することが必要である。陸軍は、こうした質の高い人材を最大限に 活用し、曖昧さや混乱の中で活躍できる信頼できる専門家チームに統合するために、慎 重に人材管理を行う必要がある。陸軍の最も価値ある能力である指導者と兵士の回 復力を高めるには、マルチドメイン作戦をその強度、厳しさ、複雑性のすべてにおいて 実行できるよう、彼らを訓練、教育、装備し、支援する必要がある。
e. 陸軍の必要な能力セット
マルチドメイン作戦における米陸軍のコンセプトは 、陸軍が以下のように統合軍内のクロスドメインオプションに貢献する能力を開発ま たは向上させることを求めている。
(1) 中国やロシアの攻撃的な作戦に対抗し、武力紛争への拡大を抑止するため、 地理的・陸軍全体の戦力態勢を調整すること。
(2) パートナーの能力と相互運用性を構築し、基地とアクセス権の確立、装備と物 資の事前配置、準備的な情報活動、EMSとコンピュータネットワークのマッピングな どの活動を通じて、戦域を設定することにより、作戦環境を準備することである。 (陸軍資材近代化優先順位:陸軍ネットワークによる支援)
(3) 中国やロシアが仕掛ける非通常戦や情報戦が巧妙化する中、それを打ち破るためのパートナーや同盟国の能力・体制を構築する。
(4) 作戦上または戦略上特に重要な都市部の理解と能力を高めることで、競 争と紛争に備えた作戦環境を整える。
(5) 戦略支援地域から深部作戦地域まで、迅速な戦力投射、多領域作戦、独立作 戦を支援するために必要な、信頼性、機動性、応答性の高い維持能力を提供する精 密兵站を確立すること。(陸軍資材近代化の優先事項によりサポートされている。 陸軍資材近代化優先事項:将来の垂直上昇、陸軍ネットワーク)
(6) 通常、紛争時に確保される、または上位組織への必要な権限や許可を確立し 、競合状態での活動や紛争への迅速な移行を効果的に行う。
(7) 殺傷効果と非殺傷効果の精度、速度、同調を高める戦術と能力の開発を通じ て、あらゆる 階層で密集した都市地形で多領域作戦を実施する能力を向上させること。(陸軍資材近 代化の優先事項によりサポートされる。長距離精密射撃、次世代戦闘車両、陸軍ネッ トワーク、兵士の殺傷能力)。
(8) 中国やロシアの偵察、攻撃、統合兵器、非通常戦能力による脅威を伝え、それ に対抗するクロスドメインの行動を通じて、信頼できる米国の情報物語を支援すること 。
(9) 各階層の指揮官と幕僚が、すべての領域、EMS、情報環境における戦闘を可 視化し、指揮できるようにし、決定的な空間において、組織と外部の能力を収束させ ること。そのためには、統合軍全体の能力をより迅速に収束させる新たなツール、訓 練パラダイムの転換、人事・人材管理慣行の変革が必要である。また、陸軍の陣形が 、国家、統合、商業、サービス機関のリポジトリやライブラリから、あるいは収集資 産から直接、利用可能なすべての情報をシームレスに、かつ圧倒的な時間で活用する ための訓練、人員配置、装備を備えていることも必要である。 (10) 中国やロシアの多層的で相互に補強し合う軍事力やシステムの特定の脆弱性 を攻撃する能力を収束させることができるマルチ・ドメインのフォーメーションやシ ステムを統合軍司令官に提供する。
これは、統合軍全体に存在する能力にアクセスし 、それを活用する手段と能力を持つ指揮官と幕僚を作り出すことを意味する。(陸軍兵 器近代化の優先事項によって支えられている。長距離精密射撃、次世代戦闘車両、将 来の垂直上昇、兵士の殺傷力)。
(11) 耐久性に優れ、激戦の作戦環境でも活動でき、他の統合軍やパートナーから 容易に孤立することがなく、独立した機動と領域横断的な射撃が可能なシステム、リー ダー、兵士を有する多領域編成を統合軍司令官に提供することである。そのためには、 システムと陣形の持続可能性を高め、厳しい環境と条件下で効果的に活動し続ける指導 者と兵士が必要である。(陸軍資材近代化の優先事項によりサポートされている。長 距離精密射撃、次世代戦闘車両、将来の垂直上昇、陸軍ネットワーク、航空・ミサイル 防衛、兵士の殺傷力)。
(12) 合同演習、訓練、情報交換、その他のプレゼンス活動を通じて、米国の安 全保障へのコミットメントをパートナーに明確に示すことにより、利益を統合する 。
(13) 陸・空・海上の能力を宇宙・サイバースペース・EMSでの作戦で可能にし 補完することで、敵にジレンマをもたらす優位の窓の開放と活用を支援し、劣化・ 混乱・拒否された作戦環境での友軍作戦遂行能力を保護すること。
(14) マルチドメイン作戦を遂行するためのスキルと専門知識を持つ、質の高い、 身体的に健康で精神的にタフな兵士を引きつけ、保持し、最大限に活用すること。 多領域作戦を成功させるには、陸軍内部、残りの統合軍、および同盟国やパート ナーとともに、これらの能力を十分に開発し、訓練し、実践することが必要である。
*2018年11月27日(木 軍事作戦 2028年 マルチドメイン作戦における米軍
スティーブン・J・タウンゼント アメリカ陸軍司令官総監督 参謀本部副本部長(G-6)
歴史
本書は、米陸軍訓練教練司令部(TRADOC)パンフレット525-3- 1を大幅に改訂したものである。The U.S. Army Operating Concept(米陸軍の作戦コンセプト)に代わるものである。「複雑な世界で勝つ」、「マ ルチドメインバトル」を置き換えるものである。〝21st 世紀に向けた複合兵器の進化 〟というコンセプトである。
概要 このパンフレットは、「国家防衛戦略」の未公表の要約に定義されている統合軍 の主要任務である「競争と紛争の両方における中国とロシアの侵略の抑止と撃退」に 陸軍がどのように貢献するかを説明している。
適用性 この文書は、陸軍省(DA)のすべての活動(教義、組織、訓練、資材、指導 ・教育、人員、施設(DOTMLPF)能力を開発する)に適用される。それは将来の戦 力開発の指針となり、統合能力統合開発システム・プロセスに情報を提供する。また 、陸軍の能力開発プロセスを支援し、DOTMLPF内の将来戦力に関連する支援コンセ プトを開発するための概念的基盤として機能する。
提案者 この文書の提案者は、陸軍能力統合センター(ATFCED)概念開発・学習部門長(950 Jefferson Avenue, Fort Eustis, VA 23604- 5763)である。
改善提案 ユーザは、コメントや改善案を提出することができる。
コメントは DA Form 2028 を用いて Director, ARCIC (ATFC-ED), 950 Jefferson Avenue, Fort Eustis, Virginia 23604-5763 宛に提出することができる。
変更の概要 TRADOCパンフレット525-3-1 マルチドメイン作戦における米軍 2028
●「マルチ・ドメイン・オペレーション」(MDO) 目次
第1章 はじめに
1-1.目的
米国陸軍訓練教練司令部(TRADOC)パンフレット 525-3-1, The U.S. Army in Multi-Domain Operations は、『国家防衛戦略』の機密扱いでない要約で定義された統合軍の主要任務、すなわち競争と衝突の両方において中国とロシアの侵略を抑止し打ち負かすことに陸軍がいかに貢献しているかを説明している。
マルチドメイン作戦における米陸軍は、中国やロシアのようなポスト工業化、情報化国家 の軍隊が提起する特定の問題に対する詳細な解決策を提案している。このコンセプトは中国とロシアに焦点を合わせているが、その考え方は他の脅威にも適用できる。こ のコンセプトは、2028年の陸軍を描いているが、その時点では、記述されている能力 のいくつかは、全軍に完全に配備されていないかもしれない。
1-2.方法論と組織
米陸軍の多領域作戦のコンセプトは、陸軍がすべての領域、電磁スペクトル(EMS) 、情報環境、エシュロンでどのように戦うかを説明するものである。このコンセプト は、広範な分析、ウォーゲーム、実験、および他軍や統合参謀本部との協力に基づい ている。第2章では、中国とロシアの対アクセス・領域拒否システムの特徴、能力、脆 弱性について、競合・紛争時の状況を説明する。第3章では、軍事的問題を説明し、マ ルチドメイン作戦(MDO)の教義を詳細に説明し、次に5つのマルチドメイン問題を解決するための応用について詳細に説明している。第4章では、MDOの当面の意味を まとめ、今後のコンセプト開発の道筋を述べている。
1-3.マルチドメインバトルからの主な変更点
a. 競争と紛争のより広い範囲と現代戦の本質的な共同の性質をよりよく反映するために、タイトルは「The U.S. Army in Multi-Domain Operations」に変更された。
b. 米軍のモスル調査と北大西洋条約機構(NATO)の都市化プロジェクトからの知見により、新たな作戦環境の説明の修正、ソリューションの改良、新しい密集した都市地形の付録が提供された。
c. 戦争ゲーム、シミュレーション、統合戦力評価、合同・多機関連携から得られた知見は、中国とロシアのシステム、MDOの理念、必要な能力に関する精緻な記述に反 映されている。
d. 機能的なコンセプトの開発、さらなる実験、戦力開発の基礎としてのMDOの 適用について、より詳細な情報を提供していまる。
第2章 運用の背景
2-1.新たなオペレーション環境
a. 統合運用環境2035 は、当面の間、米国の国益は、持続的な無秩序と国際規範を争う国家の両方からの挑 戦に直面すると予測している。このコンセプトは、こうした課題のうち、2番目の課題に取り組むものである。統 合軍は、国際規範を争う敵対勢力に競争あるいは武力紛争で対応する際、相互に関連 する次の4つの特徴によって形作られる新たな作戦環境で作戦を実施することになる。
敵はあらゆる領域、EMS、情報環境で争い、米国の優位は保証されない。小規模な軍 隊は、殺傷力が高まり、超活発になった戦場で戦う。国民国家は、政治的、文化的、 技術的、戦略的に複雑な環境の中で自らの意思を押しつけることがより困難となる。 これらの特徴は、敵対者、特に中国やロシアのようなニアピアの脅威が、時間的(平 和と戦争の区別があいまい)、領域的(宇宙やサイバースペース)、地理的(今や国 土にまで拡大)に戦場を拡大し、戦術的、作戦的、戦略的スタンドオフを作り上げる ことを可能にする。
b. 新たな作戦環境のもう一つの重要な特徴は、その都市的特性である。都市の戦略的重要性は、陸軍が密集した都市地形で作戦を実施しなければな らないことを示唆している。この環境の物理的・人口的密度は、物理的、認知的、および作戦上 の明確な特性を生み出す。これらの要因の累積効果は、与えられた物理 的または時間的空間内で要求される作業の数を増やし、 司令官や幕僚が考慮しなければならない戦術、作戦、戦 略上の変数を増加させ、戦争の摩擦を悪化させることにな る。
密集した都市部での作戦は、持続的な無秩序への対 応と、規範の争いへの対応とが考えられる。後者の場合、敵は密集した都市部の地形 を利用 して優位に立ったり、統合軍の強みを弱めたりする。
c. 国際規範に異議を唱える可能性の高い国家の中で、中国とロシアは最も有能であ ることが証明されている。したがって、このコンセプトの焦点は中国とロシアである 。
以下に述べるように、中露両国は、やや異なる手段ではあるが、作戦上および戦略 上の対峙という同じ効果をもたらす能力とアプローチを追求している。本コンセプト は、戦略・作戦構成を整理する目的で、中国とロシアのコンセプトと戦力開発が、陸 軍が近中期的にロシアの問題を解決し、中・長期的に中国が開発する変化に適応する ために十分類似していると仮定している。
したがって、この文書では、中国とロシアの両方がスタンドオフを起こすためのアプ ローチを説明するが、技術的および戦術的な目的のために、現在のペースメーカーと してのロシアを使用する。
(1) ロシアは、近い将来、米国とその同盟国に軍事的に挑戦する意図と最も効果 的なシステムおよびコンセプトの組み合わせを実証している。グルジア、ウクライナ 、シリアにおけるロシアの行動は、米国とそのパートナーとの関係を分断する意図と 、武力紛争の閾値以下で戦略目標を追求する能力を示している。
ロシアは非従来型戦 争と情報戦を駆使して、あいまいさを助長し、敵の反応を遅らせるようなシナリオを 広めている。過去10 年間、ロシアは、統合軍が紛争地域に進入するのを拒否し、既成事実による攻撃の条 件を整えることを目的とした、反アクセスおよび領域拒否の能力・システムへの投資 を増やしてきた。
(2) 中国は、やがて米国の最も強力な競争相手となるためのビジョンと戦略的深み を備えている。ロシアとは異なり、中国は独立したマイクロエレクトロニクス産業や 世界をリードする人工知能の開発プロセスなど、今後10~15年の間に現在のロシアの システムをオーバーマッチさせるに十分な経済と技術基盤を持っている。中国は、世 界規模で力を発揮するために、世界クラスの軍備を急速に構築している。将来、中国 は統合軍にとって概念的な脅威となるだろう。
この仮定に関連するリスクは、中国が 能力開発を加速させた場合に、概念的に適応する能力を確保するために、継続的に評 価されることになる。
d. 中国やロシアが政治的・軍事的なスタンドオフを起こそうとするのは、統合軍が すべての領域、EMS、 情報環境を支配する能力に挑戦しているためである。スタンドオフが成功すれば、こ れらのニアピアの競争相手に、米国とその同盟国を犠牲にして目的を追求する戦略的 自由を与えることになる。彼らは、連携する国家および非国家主体とともに、同盟国やパートナーに対する 米国の安全保障を損なうことで、世界秩序にますます挑戦するようになる。脆弱な断 層線国家は、武力衝突を伴わない中国とロシアの攻撃作戦の主要な標的であり、それ らは米国の決定的な反応を引き起こさないように計算されたものである。
中国とロシ アの明白な軍事行動への迅速な移行によるエスカレーション能力は、米国とパートナ ー諸国が対応を準備する前に主導権を握り維持する手段を提供するものである。
e. このような新たな作戦環境の中で、中国とロシアは、政治的・軍事的にさまざまなA2/ADシステムを採用し、競争と紛争におけるスタンドオフを 作り出している。
競争においては、中国とロシアは、外交・経済活動、非通常戦、情報 戦、地域の社会的・民族的・国家的緊張の利用、通常兵力の実際の使用または威嚇など を組み合わせて、米国の同盟とパートナーシップを分断しようとする。中国とロシアは 、国家や同盟関係に不安定さをもたらすことで、政治的分離を生じさせ、戦略的曖昧さ をもたらし、友好的な認識、判断、反応の速度を低下させる。武力紛争では、中国とロ シアはA2/ADシステムを採用して、戦略的・作戦的なスタンドオフを作り出し、統合軍の要素を時間、空間、機能において分離する。
f. 新たな作戦環境と脅威は、統合軍の現在の戦場に対する理解を適応させる必要が ある。敵は戦場を4つの方法で拡大してきた。時間(フェーズ)、領域、地理(空間と 深さ)、そしてアクターである。
敵は、「武力紛争以下」の行動と「紛争」の区別を 曖昧にし、米国が伝統的に「戦争」と見なすものよりも短い戦略目標の達成を可能に してきた。彼らは、宇宙、サイバースペース、電子戦、および情報を作戦の重要な構 成要素とすることで、戦場を拡大してきた。また、潜在的敵対者は、マルチドメイン 能力の効果が地理的・時間的制約を受けにくく、陣形が「接触」している範囲を拡大 するため、戦場を地理的に拡大している。
最後に、彼らは目的を追求するために、代 理人やサロゲートを含む「非伝統的」アクターをますます多く利用するようになって いる。
2-2.ロシアは武力紛争以下の競争において目標を達成する
a. ロシアは、米国と友好国を政治的に引き離し、同盟国の協調的な対応を制限し、 標的国を不安定化させようとするもので、競争関係にある。この任務を遂行するため 、ロシアは国家・地区レベルの能力、情報戦(ソーシャルメディア、虚報、サイバー 攻撃)、非通常戦を駆使して戦略目標を達成するための協調キャンペーンを展開する 。
ロシアは、通常戦力の存在と態勢を活用して、こうした取り組みを積極的に支援す るとともに、武力紛争に迅速に移行する能力を示している(「スナップ・ドリル」な ど)。また、通常戦力は、統合軍の空・宇宙での行動の自由と遠征機動能力を脅かす ため、この態勢はロシアにエスカレーションの優位性をもたらす。このような競争的行動を通じて、ロシアは米国との武力衝突の危険を冒すことな く目的を達 成することを目指している。
b. 国家・地区レベルの能力
ロシアの国家および地区レベルの能力は、米国本土を危 険にさらし、遠征作戦を脅かす。 (1) ロシアの国家レベルの情報、監視、偵察(ISR)資産は、固定拠点(司令部、 通信、重要インフラ、戦力投射施設)の標的情報を収集し、予測可能な味方の作戦パタ ーンを探知し、味方軍の態勢の変化を監視している。宇宙ベースの偵察、特殊作戦部隊 (SOF)と同調者、オープンソースの収集、地上ベースの信号傍受プラットフォーム、 これらのセンサーと司令部を結ぶ通信ネットワークが、国や軍管区レベルで保持される 最も重要なISR能力である。
核兵器やその他の大量破壊兵器(広範なサイバースペース 攻撃を含む)は、米国の国土、同盟国やパートナー、友軍を脅かしている。
(2) ロシアは、隣接する国家、地域の同盟国、米国本土に対して積極的かつ持続的 な監視を行っている。統合軍の情報収集・伝達、制空権管理・維持、戦力投射施設な ど、迅速な対応を可能にする米国の能力に着目している。ロシアの監視は、弾道ミサ イル、巡航ミサイル、攻撃型サイバー、SOFの直接行動部隊による長距離攻撃を可能に する。これらの攻撃能力は、ロシアの条件に従ってエスカレーションをコントロール することを支援することで、競争におけるロシアの情報物語を支えている。国家・地 区レベルの ISR 能力は、ロシアが競争において攻撃作戦を継続するために必要な戦力の相関関係を達 成したかどうかを判断することを可能にする。また、国家・地区レベルのISR能力によ り、通常兵力を迅速に武力紛争に移行させることができる。
c. 非従来型戦争
ロシアのSOF、地元の準軍事組織、活動家は、特定の地域や住民 の支配を分離することにより、標的とする政府を不安定にするために非通常戦を行う。 ロシアの非通常戦活動は、代理人や活動家のネットワークに、テロ、破壊活動、不安定 化させる犯罪活動、偵察、情報戦、直接行動による攻撃など、さまざまな作戦を実施す る権限を与えている。これらの行動は、情報物語に物理的な裏付けを加えるものである 。
非通常戦能力は、偵察と、米国のパートナー領土内の地形および住民の一部に対する 影響力または支配力を行使する能力によって、通常兵力を支援する。
d. 情報戦
ロシアの情報戦は、情報物語と情報戦能力から構成されている。情報戦は、国家レベ ルの能力および非通常戦と通常戦の活動と連動し、それらによって支援される。 敵対勢力は、国内および海外の聴衆に影響を与えようとする。 情報戦は、しばしば、他の偵察、非通常戦、および通常戦の活動を支援するサイバー 偵察・攻撃行動を伴う。情報戦は、攻撃的なサイバー能力を用いて、友好国や民間の コマンド・ネットワークを無効化、監視、または偽装することで、破壊的なものにな りうる。
情報戦の形態としてますます一般化しているのが、「虚偽の情報」である。 これは、有償の「トロール」や自動化された「ボット」によって配信されるでっち上 げのストーリーを、疑いを持たない市民がソーシャルメディアやその他の手段を通じ て増幅し、視聴者を混乱させたり関心をそらしたりするものである。このような情報戦は、政治的な認識、判断、反応を妨げたり遅らせたりするために、あ いまいさを作り出す。
e. 通常戦力
ロシアは、統合軍とそのパートナーに関して、戦力の有利な相関関係 を作り出すために、通常戦力を競うように配置する。演習、デモンストレーション、お よび「スナップ・ドリル」は、部隊の即応性を高め、国家および地区レベルの ISR 能力が収集・分析するための友好的な反応パターンを刺激する。ロシアの通常戦力は、 限られた警告で既成事実の攻撃を行う能力を有していることが実証されている。
ロシアの地対地ミサイル、長距離地対空ミサイル(SAM)、対抗空間、および統 合軍地上部隊は、統合軍が効果的に対応する前に、米国のパートナーを物理的に孤立さ せ、前方に配置された守備を破壊できる位置にある。このような局地的な軍事的優位は 、ロシアの強さを示す情報を支え、通常兵力を秘密裏に支援することで非通常戦を直接 的に、あるいは友軍の対応を制約するエスカレーションの優位性を提供することで間接 的に支援する態勢を整える。
f. 競争におけるロシアのシステムの概要
ロシアの競争における行動の重心は、情報 戦、非通常戦、および通常戦力の緊密な統合にある。すべての要素を協調的に用いる ことができるため、ロシアにはエスカレーションの優位性があり、味方の反応があれ ば、より強力な反応が返ってくる危険性がある。競争の中で、最も極端なエスカレー ションは武力紛争への移行であり、通常戦力による既成事実化攻撃を行う能力を持つ 敵が有利となる。この場合、通常戦力による既成事実化攻撃が可能な敵が有利となる 。既成事実化攻撃が可能であることは、ロシアの情報シナリオに信憑性を与えること になる。
情報戦と非従来型戦は、地域の安全保障の不安定化に寄与するが、ロシアの すべての戦略目標を達成するためには、それだけでは十分ではない。通常戦力による エスカレーションの優位性は、情報戦と非通常戦を補完し、ロシアが競争において主 導権を維持することを可能にする。
2- 3.武力紛争中のロシア
統合軍を切り離し、戦略的・作戦的なスタンドオフを実現する
a. ロシアの通常戦力は、米軍とパートナー軍に許容できない損失を与え、米国が効 果的に対応する前に数日以内に作戦目標を達成するよう設計された、A2/ADシステムの層を構築することによって、物理的対峙関係をさらに強化しよ うとするものである。これらの戦力は、米国本土の深部から作戦地域まで、全領域で 活動する偵察によって可能になる。大規模な偵察コンプレックスによって強化された これらの脅威は、戦場の深さ全体にわたって同時攻撃を行うことができる。
ロシアの システムは、戦略上および作戦上の距離から遠距離システムを使って友軍の遠征作戦 を阻止し、中・近距離システムから直接・間接射撃を行い、前方に展開した友軍を孤立 させて破壊することによって、時間、空間、機能において統合軍を分離するように設計 されている。
b. 長距離射撃システム
(1) ロシアの地上軍編成では、長距離射撃システムは味方のISRから慎重に隠さ れ、重層的な防空網によって十分に保護される。大陸地域では、短距離弾道ミサイル (SRBM)と長距離SAMが軍事的対峙を生み出す重要な要素であり、長距離多連装ロ ケットランチャー(MRL)、攻撃的サイバー、カウンタースペース、非通常戦によ って補完されている。
敵の長距離システムは、SOFやスパイネットワーク、宇宙ベー スシステム、無人航空機システム(UAS)、地上センサーで収集した情報を利用する 。
(2) ロシアの長距離システムの射程は、戦場を支援地域へと拡大する。紛争になれ ば、敵は米国の指揮・維持能力を狙い、友軍の航空・海上優勢と偵察・攻撃・戦略揚 力を低下させる。長距離の運動攻撃能力は、陸軍の前方展開部隊、前置装置、軍需品の在庫も標的にす る。ロシアの攻撃的電子戦(EW)、対空間、攻撃的サイバー能力は、味方の宇宙ベー スの偵察・通信プラットフォームを妨害、偽装、悪用、破壊し、効果的なミッション 指揮とISRを妨げる。敵 長距離攻撃能力は、輸送網、エネルギー生成・分配システム、防衛産業基盤など、軍 事作戦を支える民間のインフラや資源に対しても使用されることになる。
c. 中距離と近距離のシステム
(1) ロシアの地上連合軍では、中距離システムが射撃の大半を担っている。長距 離システムと統合できる高度な中距離レーダーとSAMは、味方航空隊に大きな脅威を 与える。標準的なMRLと大砲が大量に発射する火力は、敵の機動部隊と接近する前に 破壊される可能性があり、味方地上軍にとって最大の危険となる。ネットワーク化さ れたマルチ領域偵察部隊は、敵の中距離射撃を可能にするために深く展開される。
これらの部隊 は、多数の地上観測チーム、無人航空システム、レーダー、信号傍受ユニットで構成 される。さらに、敵は攻撃的なサイバー、SOF、宇宙基地、空爆、海上戦能力を投入 し、連合軍の地上機動部隊を主戦場とするときにこれを強化することができる。中・ 短距離防空は、味方の航空監視能力、航空攻撃、攻撃航空、近接航空支援を、局所的 にリスクを高めて活動するか、スタンドオフの範囲から効果を低下させることを余儀 なくさせ、厳しく制限している。
(2) 中距離システムが作り出すスタンドオフの中で、敵短距離システム(地上機動 部隊)が機動して重要な地形を占拠し、敵の長・中距離射撃システムを防御する防御 陣地を作り出す。攻撃面では、敵短距離システムが味方部隊を見つけて固定し、長・ 中距離砲撃で破壊するように設計されている。防御態勢に入ると、ロシアの複合武器 地上編成はカモフラージュ、隠蔽、デコイを使い、統合軍の監視と偵察を打ち負かす 。
d. 非通常戦
非通常戦の活動は、武力紛争におけるロシアの通常兵力を、偵察、直接 行動による攻撃、および利得の強化の支援で支援する。非通常戦能力は、偵察と直接行 動を行うことにより、友好的な支援地域を攻撃する際に重要な役割を果たす。
e. 情報戦
ロシアの通常戦力、国家・地区レベルの戦力、および非通常戦力は、情 報戦を可能にし、その力を増大させる。この情報戦略は、友好国の指導者、住民、お よび軍隊を標的とする。友軍の意思を損なわせるロシアの情報シナリオの効果は、ロ シアの通常戦力の成功によって大きく高まる。
f. 国家・地区レベルの能力
国家・地区レベルの能力は、偵察、統合軍の戦略・作戦 行動の撹乱、意図的な反撃の阻止を行い、武力紛争におけるロシアの通常戦力を支援 する。核戦力、情報戦、サイバー能力、巡航ミサイル、宇宙基盤プラットフォーム、 特殊作戦チームなどは、ロシアに、ほとんどの通常戦力の射程外である米国やパート ナーの国土を脅かすさまざまな選択肢を与えている。ロシアは、通常戦力が目的を達 成した後、戦域を孤立させ、統合作戦に移行するためにこれらの能力を使用(または 使用すると威嚇)する。
g. 紛争下でのロシアのシステムの概要
ロシアの長距離・中距離射撃システムは、武 力紛争における作戦の中心的な存在である。これらのシステムは、既成事実の攻撃を 成功させるためのスタンドオフを作り出す。ロシアはこれらのシステムを、再生が困 難で米国の作戦・戦略目標達成に不可欠な司令部、航空機、訓練された戦闘部隊など 、友軍の高価値の能力を破壊するために使用している。こうした友軍の高価値の能力 を破壊することは、ロシアの情報伝達を強化し、ロシアに有利な政治的条件で作戦上 の利益を強化するための時間と空間を作り出すことになる。
2-4.競争、武力紛争、競争への復帰におけるロシアの統合オペレーション a. ロシア軍は武力紛争中に統合作戦を開始し、競争状態への復帰後もこれを継続す る。統合作戦の間、ロシアは軍事力を再生し、再配置する一方、紛争で得た政治的利益 を維持する。統合軍とパートナーが軍事的優位を得た状況で統合作戦が行われる場合、 ロシアの核システムの使用または威嚇は、その利益を維持するための重要な要素となる 。
b. 情報戦略は、競争への復帰期におけるロシアの統合作戦の主要な取り組みである 。情報シナリオは、持続的な軍事力のイメージを投影しながら、獲得した利益を正当 化する。その裏付けとして、非通常戦、通常戦、治安部隊が敵地での支配を拡大し、 反対意見を排除し、友好的な情報シナリオが住民や自軍に届かないようにする。ロシ アの残存する偵察能力は、米国およびパートナー国の領域で活動を続けている。ロシ アの地上部隊は、味方のSOFや非正規兵力を破壊することで、領土の支配を可能にす る。
c. 大量破壊兵器は、競争への復帰の際に軍事的スタンドオフを提供し、ロシアが軍 事力を再生・再配置し、利益を固めることを可能にする。大量破壊兵器、情報戦、非 通常戦、代理人を組み合わせることで、ロシアは通常戦力が著しく低下しても、競争 への復帰時に統合軍との戦いを継続することができる。この立ち回りは、敗走する敵 軍に再編成のための時間と空間を与え、統合軍が作戦上の軍事的優位性を発揮できる 範囲を限定する。
2-5.システム上の脆弱性と依存関係
a. ロシアの軍隊は、統合軍の作戦、戦力態勢、能力を変更することで攻略可能な パターンと脆弱性を示している。
(1) 情報戦(サイバーで実現)と通常兵力を、暴露されたときに米国とその同盟 国を引き離すのではなく、活性化させるような方法で使用する。
(2) 戦術の急速な変化や複雑性に適応することが困難な高度に集中化され た指揮統制構造によって部隊を組織し、運用する。
(3) 精鋭部隊や重要な統合防空システム(IADS)、火器システムの高い消耗を 受け入れることができない。
(4) 射撃システムを守るため、地上からの航空優勢を達成することに依存する。
(5) 限られた数の長距離攻撃システムと有効な弾薬に依存する。 (6) 部分的または全体的に米国に友好的な領土と住民の中で活動する。したがっ て、修正主義勢力は、競争において制約されたアクセスの自由に直面し、紛争にお いて争われることになる。
(7) 宇宙関連資産の再構築能力は限定的である。
b. 中国とロシアの軍隊は強力だが、MDO が利用しようとする弱点もある。中露両国は、現在の統合軍のよく知られたパターン 、態勢、能力に対して有効な、相互に支援し合 うシステムを導入している。統合軍の作戦パターンと戦力態勢を変更することで、既 存の能力と能力の格差を緩和し、中ロの作戦上の不足を利用する機会を作ることがで きる。中国とロシアの軍隊は、重要な能力について、これまでも、そしてこれからも 、有限の能力を有し続ける。統合軍がこれらの重要な能力を破壊または打ち負かす能 力を実証すれば、中国とロシアが競争において目的を達成し、武力紛争で成功し、ま たは統合作戦に効果的に移行するのを防ぐことができる。
2-6.作戦環境におけるその他の脅威
マルチドメイン作戦における米軍のコンセプトは、中国やロシア以外の脅威にも適用 される。北朝鮮とイランも、地域の安全保障を不安定にすることで戦略的目標を達成 するために、政治的・軍事的な対立を生み出そうとしている。北朝鮮とイランは、軍 事的な対立を作り出すために、中国やロシアのA2/AD能力を直接的に使用したり、さらに拡散させたりする場合がある。さらに、これらの国 は独自に開発した能力または戦略を用いて、スタンドオフを引き起こす。したがって 、統合軍は、こうした脅威やその他の将来の脅威に対して、独自の文化的、地理的、 軍事的状況 に適合した MDO を採用することになる。
2-7.多領域作戦(MDO)への影響
本章で述べた現在の脅威と新たな脅威に共通するのは、政治的曖昧さと統合軍の戦略 態勢と作戦予測可能性を利用したスタンドオフを生み出す様々な手段を用いて、米国 に挑戦する意図と能力があることである。現在の統合軍と陸軍の概念的枠組みは、ス タンドオフの問題を考慮していない。また、政策立案者の競争空間を拡大するために 、近接敵対勢力に対して武力紛争の閾値以下で競争する必要性を認めていない。こう した脅威に対抗するには、あらゆる領域、EMS、情報環境からの能力を統合し、競争 と武力紛争の両方で幅広い問題への解決策を提示する作戦コンセプトが必要である。
第3章 MDOを実施する
3-1.軍事的な問題
a. 陸軍は、統合軍が武力紛争以下で中国やロシアと競争し、彼らのA2/ADシステムを貫通・解除し、最終的に武力紛争で彼らを倒し、 利益を固め、競争に復帰できるようにする。このためには、どうすればいいのでしょうか。
b. 包括的な軍事問題を解決するためには、陸軍部隊は中国とロシアが競争と紛争 で提起する5つの問題に対処する必要がある。
#1 統合軍は、地域を不安定化させる敵の作戦を打ち負かし、暴力の拡大を抑止し、万一 、暴力が拡大した場合には、武力紛争への迅速な移行を可能にするために、どのよう に競争するのか。
#2 統合軍は、戦略・作戦行動を可能にするために、支援地域の深さ全体にわたって敵の 反アクセスおよび領域拒否システムをどのように貫通させるか。 #3 統合軍は、作戦・戦術を可能にするために、どのように深海部の敵の反アクセス・領域 拒否システムを崩壊させるか?
#4 統合軍は、近接・深部機動領域における敵の撃退を通じて、その結果得られる機動力 の自由度をどのように活用し、作戦・戦略目標を達成するのか。 #5 統合軍はどのように再競争し、利益を強固にし、持続的な成果を生み出し、長期的な抑 止力の条件を整え、新たな安全保障環境に適応していくのか。
3-2.中央の考え
陸軍は、統合軍の一員として、競争に勝つためにMDOを実施する。必要な場合、陸軍は敵のA2/ADシステムに侵入してこれを解除し、その結果生じる 作戦の自由を利用して戦略目標を達成し(勝ち)、有利な条件で競争への復帰を強制 する。
3-3.MDOの理念
a. MDO は、修正された戦力態勢、多領域編成、および収束という 3 つの信条を組み合わせて適用することで、5 つの問題を解決する。
この考え方は相互に補強し合うものであり、すべての MDO に共通するものであるが、その実現方法はエシュロンによって異なり、特定の作戦状 況によって異なる。この原則、特に調整された戦力態勢と収束を採用することで、競 争や武力紛争時に中国やロシアに対抗するため、統合軍のグローバルな統合も可能に なる。
b. 修正された戦力態勢
修正された戦力態勢とは、能力、配置、および戦略的距離 を移動する能力の組み合わせである。また、遠征部隊の戦場を設定することで、大規 模戦闘作戦において友軍が迅速に主導権を握ることができる。これらの任務を達成す るには、戦略的環境の指示に応じて適応・変化する、さまざまなタイプの部隊(前方 展開部隊(米軍とパートナー、通常戦力とSOF)、遠征部隊(陸軍と統合部隊と能力) 、国家レベルのサイバー空間能力、宇宙ベースプラットフォーム、攻撃能力)の動的 混合が必要である。
総力戦の能力を適切にバランスさせることで、戦略的に適切な期 間内に展開できる、結束力のある、完全な能力を備えた前方展開部隊と遠征部隊が得 られる。また、これらの部隊は、すべての領域、EMS、および情報環境、特に競争に おいて活動するための適切な権能を必要とする。
統合軍は、敵対勢力に対して、迅速 かつ予測不能に、さまざまな兵力と能力の組み合わせを提示する ことができ、米国の競争空間を拡大し、敵対勢力が地域的優位を達成する能力を複雑 化することによって、侵略 を抑止することができる。
紛争が発生した場合、修正された戦力態勢を適用すること で、即応部隊と能力を適切に組み合わせ、戦闘行動に迅速に移行し、敵のA2/AD(反アクセス ・領域拒否)システムを数日以内に侵入・解除し、その結果生じる自由な機動力を利用 して、数カ月ではなく数週間で敵を撃退できるようにする。
(1) 前方展開部隊
前方展開部隊は、陸軍の前方展開および交代制部隊と能力セット で構成される。前方展開部隊には陸軍の幅広い能力が含まれるが、競争と武力紛争へ の移行における役割のために特に価値があるのは、作戦指揮、情報、射撃、維持、治 安部隊支援、文民、心理作戦、SOFである。前方展開部隊はまた、以下の能力を強化する。
危機や紛争時に遠征軍が確立するのが難しい指揮統制、情報、標的、サイバー スペースなどの既存の構造に統合することで、パートナーとの相互運用性を高めるこ とができる。
陸軍前方展開部隊の存続は、重要な戦闘、維持、防護、任務指揮能力を 備えた統合戦略機動が可能になるため、統合軍の動的運用の基礎となる要素である。
(2) 遠征軍
陸軍遠征軍は、敵の偵察、長距離射撃、宇宙、およびサイバースペ ース能力と接触しながら、米国または他の地域から戦略的距離を越えて機動する準備が整った編成である。
空路で展開する部隊は、装備を持参するか、あらかじめ配 置された装備を引き出し、警戒態勢に入ってから数日から数週間以内に戦闘態勢に 入ることができる。
海路で展開する遠征軍は、数週間以内に戦闘態勢に入る。
遠征軍は、前方展開部隊がいない場合、あるいは追加的な作戦線を開くために、共同強 行作戦を実施しなければならないこともある。紛争時、遠征軍が争点となる通信線 に沿って展開する速度と効果は、前方展開部隊、予備役部隊、他国軍、およびパー トナーの準備と支援に大きく左右される。
(3) 国家レベルの能力
国家レベルの能力には、情報、サイバースペース、宇宙ベ ース、および通常、戦域レベルより上位で管理される一部の運動論的攻撃能力が含ま れる。これらの能力は、前方展開部隊と遠征部隊を、独自の効果、グローバルな到達 力、および物理的な移動をほとんど、あるいはまったく必要としない迅速な実行力に よって補完するものである。これらの資源は希少であり、その使用により予期せぬ結 果を招く可能性があるため、政策立案者はその使用に関する権限や許可を保持するこ とがある。これらの資源を使用するために必要な広範な準備は、米軍が特定の脆弱性 を特定する詳細な情報を開発し、必要な権限を獲得または要求する準備をし、国家レ ベルの能力を使用する訓練をする、競争の中で始めなければならない。
(4) 権限
すべての領域、EMS、および情報環境で活動するために、陸軍の最も低 い適切なエシェロンは、アクセス、監視、および雇用という 3 つの大分野で調整された権限を必要とする。
競争においては、陸軍は競争と紛争の双方で活動できる地理的領域と軍・民間 のネットワークに アクセスし、そこに存在する必要がある。
武力紛争においては、陸軍は、特に競争か ら紛争への迅速な移行を支援するため、電子攻撃、サイバースペースおよび宇宙での 攻撃的措置、殺傷攻撃などの能力を使用する権限を持たなければならない。
競争と紛 争のいずれにおいても、サイバースペース領域と情報環境で活動する権限は、MDOを 可能にするために、より早く、より低いエシュロンに付与されなければならない。前 方展開本部は、必要な調整を行い、必要な権限を事前に取得するための障壁を低くす ることで、競争と武力紛争への移行の両方で成功を収めることができるようにする。 また、陸軍の戦力提供者としての役割、特に計画中および臨時の予備 部隊、編制、司令部への通知と動員のための権限に焦点を当て、個別に対応した権限 を付与する必要がある。
c. マルチドメインフォーメーション
マルチドメイン陣形は、複数の領域で活動す るために必要な弾力性を生み出す能力、能力、持久力の組み 合わせを持っている。陸軍のすべての編隊は、ある程度までマルチドメイン能力を備 えていなければならない。
マルチドメイン陣形は、独立した作戦を実施し、クロスド メイン射撃を行い、人間の潜在能力を最大化することができる。弾力性に最も重要な 資材は、高度な防護システム、シグネチャの低減、敵の妨害に強い冗長な通信チャネ ル、複数の維持ネットワーク、強固な機動支援能力と能力、多層防空、多層偵察、お よび多領域隠蔽能力である。弾力性に最も寄与する非物質的要素は、敵の行動を考慮 した柔軟な計画、紛争時の陣形再編能力、意図に沿った作戦が可能な指導者と幕僚、 小規模で分散し、相互訓練を受けた本部である。このような複合的な要因によって、 陸軍のあらゆる 階層の陣形とシステムが、ニアピアの敵との戦闘空間で攻勢と防御の両方の作戦を実 施するために必要な弾 力がもたらされるのである。
(1) 独立した作戦を行う。
多領域編隊は、戦域作戦の意図の範囲内で、争いのある 環境での作戦を継続することにより、独立した作戦を行う。独立機動とは、作戦環境の制約の下で活動する能力、能力、権限のあるイニシ アティブを有する編隊を意味する。多領域編隊は、隣接部隊や支援部隊との連絡を回 復するまで、自らを維持し保護する有機的な能力を有している。多領域編隊は、視覚 ・電磁シグネチャーの低減、敵の妨害に強い冗長な通信チャネル、物流需要の低減、 医療支援の強化、複数の維持ネットワーク、強固な機動支援能力と能力、多領域隠蔽 能力などの能力により、その機能を発揮できる。特に旅団、師団、軍団は、通信線が 大きく分断されているにもかかわらず、数日間にわたって攻撃活動を維持するために 、有機的な任務指揮能力、ISR能力、持続能力を必要としている。
(2) 領域横断的な砲撃を行う。
領域横断的な射撃能力は、指揮官に選択肢を提供 し、敵のA2/ADシステムによる一時的な機能分離を克服するための統 合軍内の弾力性を構築することができる。
多領域編隊は、近代化された防空・ミサイ ル防衛と長距離地上砲撃能力を超えて、航空システム、高度防護システム、重層防空 ・偵察、EW装置、マルチスペクトルセンサー融合弾、サイバー空間・宇宙・情報関 連能力を通じて、クロスドメインな砲撃能力を発揮することが可能である。
領域横断的な砲撃には、それを使用するために必要なISR能力が含まれるが、これは、自前の 能力と外部資産へのアクセスとの混合で構成される。クロスドメイン射撃は、将来の 空と地上のプラットフォーム、通信ネットワーク、データ処理(スピードと量)の機 動性と致死性の必要な進歩と結合して、クロスドメイン機動の能力を提供する。
(3) 人間の潜在能力を最大限に引き出す。
陸軍は、指導者と兵士の選抜、訓練、 教育を通じて、マルチドメイン陣形を構築し、維持する。パフォーマンス科学は、兵士や下級指導者が認知的、身体的、感情的に最高の状態で 作戦に参加することを可能にする。人間のパフォーマンスの状態と変化を監視するバ イオテクノロジー・センサーは、指揮官の部隊に対する理解を高め、作戦のテンポと 強度に関する意思決定に情報を提供し、部隊が体力と精神力を維持・再生するのを支 援する。人工知能と高速データ処理によって実現したマン・マシン・インターフェー スは、人間の意思決定を速度と精度の両面で向上させる。
マルチドメイン能力を活用 するためには、技術的・専門的専門知識の幅と深さを兼ね備えた指導者と兵士を集め 、訓練し、維持し、雇用することが必要である。陸軍は、こうした質の高い人材を最 大限に活用し、曖昧さや混乱の中で活躍できる信頼できる専門家チームに統合するた めに、慎重に人材管理を行う必要がある。陸軍の最も価値ある能力である指導者 と兵士の回復力を高めるには、MDOをその強度、厳しさ、複雑性のすべてにおいて実 行できるよう、彼らを訓練、教育、装備し、支援する必要がある。
d. コンバージェンス(収束)
収束とは、すべての領域、EMS、情報環境における 能力を迅速かつ継続的に統合し、領域横断的な相乗効果と複数の攻撃形態を通じて、敵 を圧倒する効果を最適化することであり、ミッション・コマンドと統制のとれたイニシ アティブによって実現される。統合軍は現在、領域連合ソリューションのエピソード同 期化を通じて、能力を収束させている。しかし、近い将来の脅威に対する作戦では、決 定的な空間において領域横断的な優位を得るために、多領域の能力を継続的かつ迅速に 統合することが必要になる。
決定的空間とは、時間と空間(物理的、仮想的、認知的) において、領域横断的能力の活用を完全に最適化することで、敵に対して著しい優位性 を生み出し、作戦の結果に大きく影響する場所である。コンバージェンスは、決定的な 空間における敵の脆弱性を攻撃するための複数のオプションを統合軍に提供することで 、敵がその重心を隠蔽・防衛しようとする試みを複雑化させる。多領域の編隊は、敵の システムの脆弱性に対して能力を適用するために、競争と紛争時にエシュロンでコンバ ージェンスを活用する。
(1) それは、領域横断的なシナジーの創出と、領域横断的なオプションの積み重ね により、友軍の作戦を強化し、敵に複雑性を与えることである。コンバージェンスに より、マルチドメイン能力が刺激的なシーストライクやシーストライクの組み合わせ で結集され、敵のシステムを混乱、劣化、破壊、分解させるか、優位の窓を作り、味 方のイニシアティブの活用を可能にするのである。
(a) クロスドメイン・シナジー
クロスドメイン・シナジーの原理は、複合武器作戦を発展させたものである。相補的 な効果を組み合わせることで、敵の行動能力を複雑化し、個々の部分の総和よりも大 きな全体効果を生み出す。シナジーは、利用可能な資源から最大の効果を得るために、すべての領域 、EMS、情報環境から能力を最適化する。ほぼ同規模の敵に対しては、領域横断的な シナジーがなければ、統合軍はオーバーマッチを達成するた めの十分な能力を持たない。
(b) オプションの重ね合わせ
複数の収束方法を重ねることで、友軍指揮官に 選択肢を与え、敵に複雑さを与える。追加的な選択肢を設けることで、友軍は予期せぬ方法で敵の脆弱性を狙い やすくなり、単一の視界や攻撃方法への依存を回避することができる。また、重層的 なオプションは、敵が対応しなければならない様々な脅威を敵に突きつけることにな る。これらの収束の組み合わせが友軍にとって比較的単純である限り、結果として敵 の指揮統制システムに正味の複雑さを押し付けることになる。
(2) 作戦指揮
任務指揮は、陸軍がほぼ同数の敵との戦場で作戦を展開する上で、 依然として不可欠な要素である。敵は味方の通信と計画を混乱させるため、任務指揮 を拡大し、サービスや他のパートナー の境界線を越えた主導的かつ動的な協力を可能にしなければならないが、これにはあ る程度の リスクが伴う。これは、ある程度のリスクや付随的コストを承知の上で、利用可能な 領域横断的能力を十分に統合し、決定 的に重要な効果を達成することを可能にする動的協力である。司令官は、これまで異 質だった陣形や能力が、互いに機会を認識したとき、または戦場の展開に対応して行 動できるよう、任務指揮に有利な条件を意図的に作り出し、育成しなければならない 。
(3) エシュロンでの収束
多領域のフォーメーションと調整された戦力配置が収束 を可能にする。収束の原則はエシュロンに関係なく適用されるが、特定の要件に基づ いて変化する。
(a)戦域軍
戦域軍は前方展開部隊である。この軍隊は、省庁間のアクセスを可 能にし、戦場を設定し、遠征作戦を可能にし、統合基地、ノード、およびネットワーク を保護する。戦域軍は、戦闘指揮部、統合幕僚監部、陸軍本部と戦力態勢を調整し、作 戦・戦術の収束のための条件を整える。戦域軍は戦域内の全陸軍を代表して攻撃的空間 制御能力を収束させる。戦域軍はまた、陸軍の主要なエシュロンとして、統合および複 合情報環境作戦を支援するための能力を収束させる。
(b) 野戦軍
野戦軍は、近接した脅威が存在する地域における前方展開部隊であ る。戦域軍の作戦負担を軽減し、明確な作戦地域内で特定の脅威に対して集中的に対 抗できるようにする。戦場の情報準備(IPB)を行い、パートナーやSOFを有効にし、 敵の侵略を阻止し、紛争への移行を管理することによって、競争の中でキャンペーン を推進する。2個以上の軍団を指揮する能力もある。
野戦軍は、敵の長距離システムに 対して、他の構成部隊の司令官に長距離射撃を提供する。競争においては、敵の攻撃 を阻止するために、欺瞞、能力の選択的な発揮、他の能力の隠蔽を監督し、不確実性 を創出する。また、パートナーとの多領域相互運用のための集中的な計画と準備を通 じて、収束のための選択肢を生み出すのも野戦軍である。
野戦軍は敵の長距離地上砲 火を破壊する能力を収束させ、武力紛争への移行時に軍団司令部が存在しない場合は 、中距離システムの標的化と無力化を支援することになる。競争と紛争において、野 戦軍は国家レベルの能力を自軍または下級部隊の作戦に収束させる責任を負う陸軍の 部隊である。
競争と紛争において、野戦軍は国家と戦場の情報収集資産からの大量の データを分析し、作戦上の地上目標を支援するためにセンサーを特定の狙撃手にリン クさせる責任を負っている。野戦軍の情報化部隊は、任務に応じて組織され、作戦環 境に応じた編成が行われる。
(c) 軍団
軍団は遠征軍である。軍団は、長距離システムの敗北と中距離システ ムの無力化を支援することによって、複数の敵の複合兵器を同時に形成する。また 、2個以上の師団とイネーブラを指揮する。軍団は、統合軍司令官が指定した地域内の すべての敵の長距離システム(防空、対艦、長距離地上射撃)に対する能力を収束さ せ、軍団が複数領域の指揮統制を担当する場合は他の部門を支援する陸軍能力を提供 する責任がある。
軍団は、その作戦地域内の敵の中距離射撃陣形に対する能力を収束 させる。軍団は、敵の中距離システムに対するものであれ、師団または旅団の作戦を 支援するものであれ、大量の共同射撃を収束させる責任を負う陸軍の部隊である。軍 団はまた、作戦・戦術目標を達成するために、国家・劇場レベルの攻撃的サイバース ペースを他の能力と融合させる。軍団は、資源を配分し、師団の作戦を順序立てて、 それを欺瞞に組み込むことによって、下層部での収束のための条件を整える。競争と紛争が発生した場合、軍団は情報分析を行い、国家、地域、組織のISRコレクションを 収束させ、戦術的な地上目標を支援する。
(d) ディビジョン
師団には、前方展開部隊と遠征部隊がある。師団は独立した 作戦を可能にし、遠征作戦を行い、複数の旅団戦闘チームと可能な旅団を指揮し、近 接地域で形成された敵軍を撃破する。航空、射撃、EW、機動支援、複数旅団の作戦を 集結し、中距離射撃システムを破壊または無力化した連合軍(または類似の編成)に 対して優位な位置を占めることができる。師団は、副次的な取り組みであれば、合同 または陸軍の砲撃を補強するために、マルチドメインの指揮統制能力を有している。
主戦場となる師団が、大量の航空出撃、大量の海軍攻撃、数個の旅団による地上砲撃 を割り当てられた場合、この規模の能力を集約するために軍団の支援が必要となる。 上層部の援助があれば、師団は国家レベルの攻撃的な宇宙戦力を機動計画に収束させ ることができる。師団は、限られた量の国家または劇場レベルの情報源を、自軍のISR に収束させる分析能力を持っている。
(e) 旅団
旅団は、有機的なISR、機動、および射撃能力を、限られた量の航空、 機動支援、EW、統合射撃、および攻撃的宇宙 能力に収束させている。すべての旅団はマルチドメイン能力を備えているが、地形制 御を担当する旅団は、その広範な任務セットを可能にする収束を図るため、高レベル のクロスドメイン有機能力を必要とする。
旅団は通常、上記のように師団、軍団、野 戦軍を通じて、情報、EW、サイバースペース、および宇宙機能にアクセスする。旅 団は収束と領域横断的な作戦を実行し、敵を見抜き、孤立させ、機動し、そして保護 することで主導権を握り、任務を遂行するために優位な位置を占める。旅団は、限ら れた量の国家または劇場レベルの情報源を、自軍のISRに収束させる分析能力を有し ている。
f. 多領域指揮統制
サービス、省庁間、および多国籍パートナー間の相互運用性は 、MDO を実行するための重要な要素である。マルチドメイン指揮統制とは、相互運用性を実 現・活用するために設計された収束、マルチドメイン陣形、任務指揮を支える、統合 ・連合資材、プロセス、権限の組み合わせである。 効果的なマルチドメイン指揮統制には、弾力的な技術アーキテクチャ、柔軟な指揮関 係、およびマルチドメイン統制手段が必要である。
弾力性のある技術的アーキテクチ ャは、作戦の重要な瞬間に、本部、部隊、航空機、船舶の間で重要な情報を受け渡す ための接続性を提供する。柔軟な指揮関係により、機能部門やエシュロン間でマルチ ドメイン能力およびフォーメーションを迅速に再配置し、収束を図ることができる。 また、柔軟な指揮関係により、エシュロン間の迅速な任務編成や強化射撃・能力の再 組織を通じて、有利な戦力比を作り出すことができる。多領域統制策は、部隊が意図 の範囲内で領域横断的な作戦を実行するための最大限の自由度を与えることにより、 任務指揮の枠組みを構築するものである。また、多領域統制策は、エシュロン間の調 整を容易にする。隣接部隊、および共同パートナー技術的アーキテクチャが崩壊した場合、柔軟な指揮関 係と複数領域の統制手段が、任務指揮を可能にする要素となる。
3-4.MDOと戦略目標
a. マルチドメイン作戦における米軍は、国家防衛戦略で明示された米国の戦略目標 、特に競争と紛争における中国とロシアの抑止と打倒を達成するために考案された作戦レベルの軍事概念である。
この概念はまた、陸軍の4つの永続的な戦略的役割、すなわち紛争の防止、安全保 障環境の形成、大規模地上戦闘作戦での優勢、利益の統合の遂行を支援するものであ る。これらの戦略目標は、陸軍が 3-1 章で述べた 5 つの複合領域問題を解決することを必要とする。
以下の節では、MDO がこれらの問題のそれぞれをどのように解決するのかを説明する。
第 3 節では、武力紛争に至らない範囲での侵略の撃退と紛争抑止を競うという第 1 の問題につい て述べる。
3-6 では、2 番目の問題として、敵のA2/ADシステムを突破し、紛争時の戦略・作 戦操 作を可能にすることを取り上げている。
第3- 7節は、作戦・戦術行動を可能にするために、敵のA2/ADシステムを 戦場で解除するという第3の問題を扱っている。
セクション3- 8は、敵を倒し、米国の戦略目標を達成するために、作戦の自由を活用するという第4 の問題を扱っている。
セクション3- 9は、利益を強化し、競争空間を拡大し、政策立案者が紛争を解決できるようにするた めの再競争という最終的な問題を扱っている。本節の残りの部分では、これらの作戦 上の問題を解決することが、どのように戦略目標の達成につながるかを説明する。
b. マルチドメイン能力を持つ統合軍は、3つの異なる方法で友好的な戦略目標を達成 し(勝ち)、敵対者を打ち負かすことができる。
戦略目標を達成するための好ましい 方法は、エスカレーションを抑止し、敵対者の不安定化努力 を打ち負かす効果的な競争である。抑止が失敗した場合、2つ目の方法は、前方展開部 隊と遠征部隊を組み合わせて、数日以内に敵の目標を否定し、数週間以内に相対的に 有利な作戦上の地位を獲得し、許容できる持続可能な政治的結果をもたらすことであ る。
どちらの側も短期間の紛争で目的を達成できない場合、第3の方法は、長期間の戦 争で敵を打ち負かすことである。この3つの方法は相互に関連している。必要であれば 長期戦に勝利する意志と能力は、敵対勢力に、武力紛争以下の競争では既成事実を達 成できず、目的も達成できないことを納得させるために不可欠な要素であるからであ る。
既成事実の攻撃を拒否する能力と態勢を示すことは、ひいては競争における統合 軍の強さの立場を作り上げる。
陸軍は、攻撃的な敵対者を撃退し、政治指導者にでき るだけ多くの選択肢を提供して、断固とした競争を通じて抑止し、必要な場合には、 武力紛争を有利な条件で遂行・終了させて、新たな競争に速やかに復帰させるための3 つの方法それぞれにおいて不可欠である。
c. 競争する。
統合軍は、戦略目標を達成するために敵の努力を破ると軍事的エスカ レーションを抑止することによって、競争において成功する。それはの要素を採用するための複数のオプションを通じて、政策立案者のための競争空間を拡大することに よってこれを行う。
陸軍はこの努力に不可欠な役割を果たし、領域(宇宙とサイバースペースを含む)、E MS、情報空間において積極的に関与している。競争や紛争で勝利する能力を示すこと は、米国を弱い、あるいは不屈のパートナーとして描く敵のシナリオに対抗するもの である。
武力紛争下で効果的に競争する能力と、武力紛争の拡大に対応する能力の組 み合わせは、強者の地位を築き、紛争が発生した場合に有利な条件を設定する。この 強者の立場は、非通常戦や情報戦を通じて敵の強制に対抗する統合軍、省庁間、およ びパートナーの努力に有利な環境を提供する。敵の代理人は通常戦力からほとんど、 あるいは全く支援を受けないため、米国のパートナーは自国を不安定にする企てに容 易に対抗することができる。
武力紛争の抑止と非従来型戦争および情報戦の撃退を組 み合わせた持続的な効果は、競争キャンペーンにおいて、敵に予測不可能性をもたら し、さらなる友好的選択肢を生み出し、それによって政策立案者の競争空間を拡大さ せる。
d. 侵入し、統合を解除し、活用する。
武力紛争が発生した場合、陸軍の前方展開部 隊と遠征部隊は、調整された戦力配置、マルチドメイン陣形、敵の深部攻撃と直ちに 戦うための収束を組み合わせることにより、侵略の迅速な撃退を可能にする。陸軍の 長距離射撃は、統合マルチドメイン能力と融合して、敵のA2/ADシス テムを貫通・解除し、統合軍の戦略・作戦行動の自由を可能にする。
戦域内では、陸 軍は敵のA2/ADシステムの重要な構成要素、特に長距離防空・射撃システ ムに対して、多領域にわたる能力を最適に活用するために能力を収束させる。敵の長 距離システムに対する収束は、最初の侵入を可能にする。これにより、機動が打撃を 、打撃が機動を可能にする空対地統合作戦への素早い移行の条件が整う。
近接・深度領域におけるMDOは、射撃、機動、欺瞞を組み合わせて、敵の防衛力を物理的、仮想 的、認知的に孤立させ、友軍が局所優勢と有利な戦力比を達成することを可能にする ものである。
陸軍は、敵のA2/ADシステムに侵入し、その統合を 解除し始めた後、敵の脆弱な部隊やシステムを利用して敵軍を撃破し、友軍の作戦目 標を達成する。陸軍は、統合軍の一員として、与えられた戦略目標を迅速に達成し( 勝利)、獲得した戦果を統合する。
e. 再競争する。
陸軍は、主導権を確保し、すべての領域、EMS、情報環境における 作戦連絡を維持することで、紛争後の戦略的利益の統合に貢献する。このアプローチ により、米国とそのパートナーにとって有利な軍事的・政治的条件が維持されること になる。特に核保有国との武力衝突の後では、敵は戦場にかなりの通常軍事力を保持 している。したがって、陸軍は通常戦への復帰を抑止すると同時に、敵が戦略的優位 のために内部の混乱を利用するのを防ぐため、秩序を回復するためにパートナー軍を 支援しなければならない。 競争の連続体にまたがるこれらの機能は、政策立案者の競争空間を拡大し、戦略目標 を可能にし、主導権を確保する。
3-5.競争するMDO
競争することで競争空間を拡大する
a. 複合領域問題その1
統合軍は、地域を不安定化させる敵の作戦を打ち負かし、暴 力の拡大を抑止し、万一、暴力が拡大した場合には、武力紛争への迅速な移行を可 能にするために、どのように競争するか。
b. 競争における成功は、米国に有利な条件での紛争の抑止、武力紛争の閾値以下に 競争空間を拡大しようとする敵対者の努力への対抗、そして武力紛争への迅速な移行 を可能にするという3つの重要な目的を達成するものである。
過去には 米軍は、文化的、法的、政策的な理由により、武力紛争以下の競争において、しばし ば消極的な姿勢に終始してきた。
多領域作戦における米軍のコンセプトは、米国の利 益を守り、紛争を抑止し、必要な場合には、統合軍が武力紛争に迅速に移行するため の最も有利な条件を作り出すために、統合軍、特に陸軍が積極的に競争に参加するこ とが重要であることを強調している。
c. 陸軍は、合同、省庁間、および多国籍チームの一員として、地域の安全を不安定 にしようとする敵の試みを打ち負かし、相互に補強し合う一連の行動を通じて武力紛 争を抑止することにより、成功裏に競争することができる。野戦軍は、戦場の詳細な戦術的・作戦的な情報準備を行い、前方プレゼンスを可能にし遠征軍は、敵の奇襲攻撃を即座に撃退することができる。
陸軍はパートナーや統合軍 と連携し、敵の偵察に対抗するとともに、敵の意思決定過程に不確実性をもたらす欺 瞞を行う。
前方展開部隊はまた、パートナーに助言者と能力を提供し、パートナーの 能力と能力を持続的に高めることで、敵の非通常戦作戦の撃退に直接的、間接的に貢 献する。
これらの部隊は、必要な権限により、サイバースペースやEMS能力を含む様 々な手段で、情報空間に積極的に関与する。
最後に、戦域軍と野戦軍は、信頼できる 抑止力を示すために、通常戦のための集中的な準備を行う。戦域軍は、統合軍のダイ ナミックな運用を可能にするために戦域を設定する。野戦軍は、統合軍とパートナー が競争から紛争に迅速に移行できるよう、「作戦を設定」する。
d. インテリジェンスと対敵偵察を行う。
競争において、野戦軍は敵の作戦・戦術シ ステム、および作戦環境と市民ネットワークの他の側面に対する収集と分析を調整す る。その後、野戦軍は配属された統合軍と陸軍の遠征軍に情報を伝達し、敵のシステ ムと統合軍と陸軍の作戦が行われる可能性の高い分野に精通させる。野戦軍はまた、 対偵察と欺瞞によって、敵の偵察に対抗する主な責任も負っている。これらの行動を 総合すると、統合軍は武力紛争に迅速に移行することができ、敵対者が奇襲攻撃によ って目的を達成できるかどうか、不確実性を作り出すことができる。
(1) 軍事能力に対する理解を深める。
現代の軍事装備は複雑であるため、戦術的ま たは技術的な弱点を特定し利用するために、数カ月から数年にわたる集中的な情報収 集と分析が必要である。野戦軍は主に、敵の指揮統制や長距離システム(IADS、SRB M、長距離MRL)、中距離システム(中距離SAM、MRL、大砲)を詳細に理解するた め、戦域や国家レベルの能力と連携している。敵軍が米国のパートナー国の領土付近 で作戦行動や「スナップ演習」を行う場合、野戦軍は有機的かつ割り当てられたISR( 空中ISR、高高度ISR気球、電子情報能力など)を配備して技術情報を磨き、敵の作戦 パターンと特定の部隊や能力ごとの採用方法を理解する。また、野戦軍は敵対国に隣 接するパートナー国の領域で訓練や再保証作戦を活用し、敵のISR能力を刺激し分析す ることで情報収集の機会を作ろうとする。
(2) 作戦環境と市民ネットワークを分析する。
前方展開部隊のすべてのエシュロ ンは、敵対勢力によって脅かされている友軍地域の地形解析と慣熟を行う。この作業 により、統合軍司令官が戦術の実行と作戦計画のために、3次元の複合領域環境を詳細 なレベルで視覚化できるようにするために必要な情報が構築される。都市部の密集し た地形では、人間、社会、インフラの詳細を理解するために、さらに準備的な情報活 動が必要となる。野戦軍はIPBを、紛争時に戦略上・作戦上の重要性を持つ可能性が高 い都市部を選んで集中的に行う。
(3) 欺瞞を行う。
競争において、戦域および野戦軍は、主に調整された戦力態勢を 動的に変化させることにより、欺瞞を行う。これらの行動は、敵対者が戦場の友軍の 能力と能力を判断する努力を困難にすることを目的としている。演習、訓練、警報は 特定の能力を示すために行われるが、部隊の配置や段階、EMSやサイバースペースの シグネチャの使用、作戦のパターンや方法について敵対者を欺く機会も提供する。こ れらの行動は予測不可能性を生み出し、敵の偵察活動を複雑化させ、その資産を危険 にさらす可能性を高める。また、敵のサイバー偵察に対抗するため、データの暗号化 、ネットワークアクセスの制限、デコイデータを使用する。
(4) 対偵察の実施
野戦軍は、主にパートナーである治安部隊や省庁間パートナーを 通じて、対偵察作戦を実施・調整する。
パートナーの治安部隊は一般に、敵の秘密諜 報活動に対抗するための権限、能力、現地の専門知識を有している。したがって、野 戦軍の主な役割は、対偵察作戦でパートナーの治安部隊を支援することである。これ らの行動は、敵対者の競争における努力の戦術的有効性と、競争から武力紛争に迅速 に移行する能力を低下させる。
e. 敵の情報戦および非通常戦の撃退を可能にする。
陸軍は、能力の提供、権限の 拡大、支援作戦の実施を通じて、敵の情報戦や非通常戦の作戦を打ち負かすための 共同・パートナー作戦を支援する。 (1) 情報環境作戦(IEO)を実施する。
統合軍は、領域(サイバースペースを含む )およびEMSを横断する情報空間に積極的に関与することで、競争におけるイニシア チブを獲得する。戦域軍は統合軍司令官の IEO を支援するために、軍の行動とメッセージを収束させるが、すべての 階層は政策と司令官の意図を支援するために情報空間に関与している。この任務を達 成するためには、情報、サイバースペース、および EMS 能力へのアクセスを可能にし、通常は紛争時や上位の 階層に留保される適切な権限と許可を与え、狭い制限的な指令ではなく、意図として 表現された政策指針を下位の 階層に与えなければならない。
これにより、前方展開部隊は敵の情報戦作戦に対抗し 、その矛盾を暴くために、積極的に独自の行動を取り、メッセージを使用することが できる。しかし、陸軍は主に、米国のパートナーに対する決意とコミットメントを強 化し、紛争に対する信頼できる抑止力としての能力を示すことで、戦略的物語に貢献 する。
(2) 非正規戦を実施する。
戦域および野戦軍は、統合軍司令官に地域を理解した多 領域編成を提供することにより、統合、省庁間、およびパートナーの非正規戦キャンペ ーンを可能にする。敵対者が代理人を使用する場合、陸軍は主にパートナーの間接的な 支援を通じてこれを撃退するが、単独行動を通じて直接支援することも可能である。特 殊作戦部隊と治安部隊支援旅団は、パートナー軍を支援する。
持続的なパートナーの能力を構築し、アドバイザーや能力を提供することで、不規則な 戦争への取り組みが可能になる。
f. 信頼できる抑止力を実証する。
戦域全体を形成し、野戦軍の作戦地域外の侵略に 対処することで、野戦軍は近接敵の軍事陣形やスタンドオフ能力に対する作戦を設定 することができる。信頼できる抑止力を提供するため、野戦軍は敵の現地軍事的優位 性を低下させるよう戦力態勢を調整し、奇襲攻撃に耐えられるようマルチドメイン陣 形を採用し、奇襲攻撃を阻止するために前方展開、統合、国家レベルの能力を集結さ せる能力を実証する。具体的には、陸軍は敵対者を抑止するために、競争において次 の4つの能力を発揮しなければならない。
(1) 共犯者攻撃を即座に拒否する能力
野戦軍は、前方展開部隊、遠征部隊(航 空展開資産・陣形、前置装置)、および国家レベルの部隊を混合して用いることによ り、数週間以内に敵の共犯者攻撃を拒否することができなければならない。
(2) 反アクセスシステムおよび領域拒否システムを貫通する能力
陸軍の長距離射 撃を前方に展開することにより、統合軍は敵の長距離システム(IADS、SRBM、長距 離 MRL、および指揮統制)の無力化を直ちに開始し、数週間の作戦を支援するのに十分 な弾薬を戦地に備蓄しておくことができるようにしなければならない。
(3) 戦略的および作戦的な作戦を実施する能力
陸軍の遠征部隊は、通信線の争奪 にもかかわらず、作戦地域に戦略的および作戦的な機動力を発揮する能力を構築し、実 証しなければならない。
(4) MDO を支援する能力
陸軍は、統合軍が紛争時の作戦テンポを決定し維持するのを容易にするため、戦力態勢を調整し、多領域編隊を実戦配備しなければならない。これらの 任務を確実に遂行するために、戦域と野戦軍は指揮統制機構を確立し、相互運用性を 確保し、前方展開部隊を維持・保護する。
(a) 指揮統制機構を確立する
競争において、野戦軍は前方展開部隊、統合軍 の他の要素、およびパートナーとの計画を立てることで、紛争の初期から致死的およ び非致死的効果を収束させる準備をする。この準備には、必要な複数領域の指揮統制 構造、柔軟な指揮関係、および能力を収束させるための物理的・仮想的な統制手段の 整備が含まれる。正確で統合された効果は、密集した都市部での作戦に不可欠である が、他の環境、特に化学、生物、放射性物質、核(CBRN)の影響を受ける地帯での 作戦も円滑に進めることができる。
(b) 相互運用性を確保する
前方展開部隊は、残りの統合軍、および、可能な限 り多国籍パートナーや関連省庁間パートナーとの相互運用性を完全に確保しなければ ならない。相手国との相互運用性が低い場合、陸軍は教義上、またはリエゾンセルな どのアドホックな組織手法により、MDOを統合する。相互運用性を高めることは、能 力を高め、統合軍司令官の選択肢の幅を広げることになる。
(c) 前方展開部隊を維持し保護する
作戦支援地域は、敵の長距離射撃(弾道ミ サイル、巡航ミサイル、特殊作戦、攻撃的宇宙空間、サイバー攻撃)にもかかわらず 、戦力を維持・創出する能力、能力、耐久力を有していることを確認する。野戦軍は 、敵の弾道ミサイル、長距離MRL、防空、サイバー攻撃にもかかわらず、戦力を維持 ・創出するために必要なマルチドメイン陣形を戦術支援区域と近接区域に確実に保有 させる。
戦域軍は、重要な指揮・統制・兵站ノードの保護、硬化、分散を通じて、弾 力性を生み出す。また、作戦・戦術支援地域全体で、複数の海・空の入港地と通信路 を計画・調整する。
d. 結論から言うと競争における MDO陸軍は、統合軍の一員として、武力紛争の閾値以下で敵の作戦を撃破し、暴力の 拡大を抑止することで、ほぼ同数の敵に対抗している。陸軍のすべての 階層は、情報空間への積極的な関与を通じて米国の政策と目標を支援し、委任された 権限と許 可、意図に基づく指導、情報、サイバー空間、EMS における統合および国家レベルの能力 へのアクセスによって可能になる。
友軍の情報戦略は、既成事実化された攻撃と敵対 者の作戦目標を拒否する実証された能力によって支えられている。競争において実証 された能力は、敵の情報戦の作戦を弱体化させ、敵の意思決定プロセスに複雑さと不 確実性を生じさせる。最も重要なことは、競争に積極的に参加することで、敵の戦力 と能力に関する強固な作戦評価を確立し、統合軍が武力紛争に迅速に移行し、侵略に 対して直ちに攻撃的な対応を取れるようにするための作戦を設定することである。
続く3つのセクションでは、スタンドオフを突破し、A2/ADシステムを解除し、その結果生じる行動と作戦の自由を利用するための行動 を詳述している。順を追って説明するが、各セクションの行動は時間的、空間的に様 々な程度で重複している。 近接した敵はシステムや陣形を適応、再編、再構成する能力があるため、友軍は侵入 と統合を同時に行い、優位の窓を完全に活用するための作戦を続ける。
3-6.武力紛争時のMDO戦略・作戦上のスタンドオフを貫通する
a. マルチドメイン問題その2
戦略・作戦行動を可能にするために、統合軍は作戦 枠組みの深さ全体にわたって敵のA2/ADシステムをどのように 貫通させるか?
b. 統合軍は、敵の長距離システムを即座に無力化し、全領域、EMS、情報環境にお ける敵機動部隊と競合し、戦略・作戦機動を行って、戦略・作戦スタンドオフの突破 を可能にするために、積極的に競争に参加することを活用する。
敵の長距離システム を無力化することで、友軍の通信回線への脅威を軽減し、戦略・作戦行動を可能にする。同時に、前方展開部隊は、敵の長距離・中距離システムの範囲内で活動すること により、「内側から」敵のスタンドオフの打破を開始する。これらの取り組みにより 、敵の攻撃に効果的に対抗し、戦略・作戦上の距離から作戦地域内への統合部隊の部 隊移動の自由度を高め、決定的な空間において敵の長・中距離システムの崩壊を可能 にする。
c. 敵の長距離システムを無力化する。
競争期間中の広範な準備のおかげで、前方に 配置された陸軍の射撃・防空部隊は、武力紛争への移行中に敵の長距離A2/ADシステム(弾道ミサイル、巡航ミサイル、長距離IADS)の無力化に直ちに着手する。
(1) 陸軍と軍団は長距離砲兵部隊を採用し、敵の長距離システムを無力化するた めに統合・連合能力を統合する。
これらの 階層における火砲隊は、統合軍司令官に対して、近接、深層機動、作戦深層火砲の各 領域に対応するクロスドメイン火砲を提供する。他のマルチドメイン能力との組み合 わせで、これらの射撃は敵の統合防空・長距離射撃システムを無力化し始める。
これ は、宇宙や高高度監視、あるいは低視程の航空プラットフォームから優先度の高い敵 の遠距離 システムの標的情報を受信し、数分以内にこれらの高ペイオフ標的を攻撃することに よって達成される (パラグラフ 3-7.d および 3-7.e に、敵の遠距離システムがどのように識別され攻撃されるかの詳細が記述され ている)。
(2) 地上からの長距離砲撃は、統合軍に冗長な攻撃手段を提供し、敵にさまざま なジレンマをもたらす。
長距離対地射撃は、点状防御を圧倒し、より広い地域の目標 を攻撃する能力を備え、(情報により数分以内に)即応性のある攻撃能力を提供する 。長距離対地射撃は、敵が有効な対抗手段を持たない多くの異なるシステムに対する 複数の形態の攻撃に同時に対応せざるを得ないため、敵の防御を複雑化させる。
陸軍が提供する機動性の高い分散型長距離射撃システムは、敵の反撃、偵察、照準も複雑 化させる。陸軍の長距離射撃システムと他のマルチドメイン能力を組み合わせること で、統合軍は敵の長距離システムを無力化するための努力の速度と規模を増大させる ことができる。
d.敵機動部隊に対抗せよ
前方展開部隊は、敵機動部隊による敵の攻撃に直ちに対抗 する。戦力構成と情報・警報の量に応じて、近接戦闘地域の前方展開部隊は、一個旅 団から紛争前に空輸で展開された前方展開部隊、ローテーション部隊、遠征部隊の全 師団に至るまで様々な強さになり得る。攻撃された場合、近接地域(敵が奪取しよう としているパートナー地域)の前方展開部隊は、パートナー部隊と連携して、敵に損 失を与え、作戦目標の達成と利益の統合を遅らせることができる。
前方展開部隊とパ ートナーは、敵の攻撃とその能力について理解を深めるため、有機および統合のISRを 重層的に使用する。また、近接地域での敵の情報を迅速に低下させるため、対抗偵察 活動も実施する。統合軍司令官は、前方展開部隊を支援するために統合射撃と国家レ ベルの能力を用いて、近接領域で敵の目標を拒否し、現場軍はIEO緊急事態計画を実行 して、情報環境における主導権を迅速に獲得する。
(1) 階層型ISRで見る
近接戦区の米軍とパートナー軍は、敵部隊の配置を決定す るため、階層化されたISRネットワークを採用する。重層的なISRネットワークは、敵 が味方のISR資産に対抗する能力に対する冗長性を提供し、重層的な収集と伝達を容易 にする。
(a) 層別収集計画
前方展開師団と旅団は、その有機的な地上偵察とUASを使 用して、当面の戦術的状況を展開する。野戦軍は主に、戦術支援地域の前方端から 展開される有機高高度監視と統合ISR能力に依存し、低観測性の有人・無人航空機、 宇宙監視、サイバー空間情報によって補完される。野戦軍はまた、遠隔・自律型セ ンサー、人的情報、友軍特殊作戦部隊の重複システムからなる、競争時代にパート ナーと共に開発した既存の情報・監視・偵察ネットワークも利用する。
(b) 処理と伝達
野戦軍は標準および非標準の通信手段を用いて、情報を迅速に 処理し、近接領域の機動部隊および戦術支援領域の維持・保護部隊に伝達する。野戦 軍は情報を分析し、弾力性のある低密度のデータ形式を使用して、敵の重大な妨害や 通信妨害の攻撃を軽減し、一刻を争う戦闘情報を師団と旅団に伝達する。また、野戦 軍はセンサー・トゥ・シューター・リンクを確立し、下位の作戦を支援するために領 域横断的な射撃ができるようにする。
(2) 近接地域での敵の情報の有効性を低下させる。
前方展開部隊とパートナーは敵 の情報能力を標的とし、敵の収集計画を複雑化させ、複数のレベルで資産の再配置を余 儀なくさせる。師団と旅団は、有人・無人の航空ISRに対する防空、カモフラージュ、 デコイを組み合わせて、敵の戦術的ISRを低下させる。戦術的欺瞞計画は敵の情報収集 を複雑にし、敵に地上攻撃を調整させることができる。戦域軍は、重要な時間や空間に おいて機動部隊を支援するために、積極的な対空間ISR対策を師団や旅団と調整する。
近接領域における敵のISR能力の低下と再配置により、敵はISR資源を支援領域の友軍 の目標から転用させ、戦略・作戦上の機動が可能になる。
(3) 敵の目標を拒否する。
前方展開機動部隊とパートナー国の通常部隊は、特に密 集した都市部の地形で防衛の利点を生かし、敵軍を萎縮させて速度を落とし、友軍の 遠征部隊の到着を可能にする。陸軍部隊は、敵の前進を遅らせ、その作戦を複雑にす るために、競争中の準備を活用して友好都市部を硬化させる。
師団と旅団は、通信事 情が悪化しても、支援地域(次項参照)からの共同・陸軍のマルチドメイン能力と連 携して、有機的なクロスドメイン機動(主に射撃と防空、師団が存在する場合はEWと 航空)を駆使する。
野戦軍は3つの可能性タスクを達成することにより、近接地域での 戦闘を形成し、師団と旅団を支援する。
(a) 支援地域と国家レベルの能力からの共同戦火を収束させる。
野戦軍(また は軍団)は、長距離砲撃で敵機動部隊と戦い、マルチドメイン統合能力を調整するこ とにより、近接地域で師団と旅団を支援する。
野戦軍(または軍団)は、近接地域で 優先度の高い目標(IADS、SRBM、長距離MRL、指揮統制)を特定し、目標を攻撃す るか、師団または旅団に情報を伝達し、自らの目標を設定させる。支援地域から近接 地域内の優先度の高い目標を攻撃する主な手段は、当初は長距離砲撃を行う戦域・作 戦火器司令部である。これらの高優先度目標を攻撃する。
冗長な通信手段、柔軟な指揮関係、通信の劣化に耐えるように設計されたマルチド メイン制御手段を通じて、各階層におけるマルチドメイン指揮統制の弾力性を必要とす る。
野戦軍(または軍団)は、敵の長距離射撃を無力化する永続的な要件と、近接地域 を防衛し機動作戦を実行する師団や旅団を直接支援することのバランスをとっている。
(b) クローズ・エリアでの欺瞞を用いる。
野戦軍は、敵に戦術的な予測不可能 性をもたらし、敵の致死的および非致死的効果の近接領域での完全な集結を防ぐため に、競争で開発された欺瞞計画を使用する。また、特にサイバースペースやEMSにお いて、現実の能力、誇張された能力、偽りの能力が混在している状態を敵に提示する 。師団や旅団は、敵が米国やパートナーの計画にアクセスできたとしても、部隊、兵 站、多領域指揮統制ノードの複数の可能な場所に偵察資産を分散させなければならな いため、防御のための複数の選択肢を持つことで近接領域での欺瞞を実行する。
(c) 情報環境を争奪する。
統合軍は野戦軍を通じ、友好国の政治的意思を強化し 、敵の情報戦の目標を拒否するため、信頼できる説得力のあるメッセージでIEO緊急時 計画を実行し、直ちに情報環境に対抗する。これらの計画には、民間のメディアやエ ネルギー・ネットワークの混乱など、予測される戦時状況に基づく準備済みのメッセ ージや伝達方法が含まれる。近接戦闘地域の司令官は、特に敵の前進と遠征軍の急速 な到着に対抗する友軍の成功に関する画像とメッセージで主導権を握る機会を利用し 、国民の認識を形成して情報環境における統合軍司令官の作戦を強化するために、そ れを野戦軍に普及させる。
d. 戦略的・作戦的距離を越えた作戦行動。
戦略上および作戦上の距離を越えて作戦 を実行することは、友軍の戦闘力を高め、敵のA2/ADシステムを 崩壊させ、その結果生じる作戦の自由を利用するための条件を設定する。
陸軍遠征軍 は、敵の攻撃から数日から数週間以内に、共同戦略輸送と前置装備を使用して、複数 の地点から戦域に進入する。
合同強行軍作戦は、こうした行動を可能にするために、 追加の作戦ラインまたは最初の進入地点を開くために採用されることがある。前方展 開部隊と国家資産は、敵の長距離監視と偵察を低下させ、敵の通信線攻撃の有効性を 低下させる。作戦地域では、戦域軍と野戦軍は、敵のISR収集をさらに複雑にする欺瞞 計画を実行し、陸軍前置兵器(APS)を保護・硬化し、複数の経路に沿って分散した 陣形で展開・維持することにより、支援地域全体で敵の攻撃の効果を緩和する。
(1) 敵の長距離ISRを劣化させる。
戦域および野戦軍は、作戦・戦術支援区域を 標的とする敵の長距離ISRシステムを劣化させる責任を負う。両領域において、友軍 は全領域、EMS、情報環境にわたる敵の長距離偵察を撃退または劣化させる。
(a) 敵のSOFと人的情報(HUMINT)に対抗する。
ホスト国の防諜、軍事、国内 安全保障部隊は支援地域の敵のSOFとHUMINTネットワークに対抗するための主要な手 段を提供する。戦域・野戦軍の防諜・人的情報資産は、敵国と協力して脅威の情報評 価を作成し、敵国の取り組みを可能にするために、情報および航空、信号情報、EW、 サイバー空間資産などのイネーブラーを提供する。治安部隊支援旅団、SOF、文民業務 部隊も、敵のSOFやHUMINTに対抗するために必要な強固な関係に貢献している。
(b) 敵の宇宙ISRに対抗する。
戦域軍の迅速な行動により、敵の主要な長距離監 視手段を奪い、作戦支援区域における味方の生存能力を大幅に向上させる。武力紛争 への移行中、戦域軍はその有機的能力または統合能力の調整を通じて、戦域内のすべ ての地上軍に対して攻撃的空間および反空間制御を提供する。戦域軍は調整部隊であ るが、旅団レベルまでの下位部隊は、重要な資産や動きを保護するために必要な宇宙 能力の使用を必要とする時間および空間のポイントを特定する責任を負う。敵の宇宙 監視に積極的に対抗することは、作戦支援区域では特に重要である。なぜなら、多数 の潜在的目標が広い地理的範囲に広がり、敵の戦略偵察とHUMINTの能力を超えてい るからである。敵の宇宙ISR能力を効果的に打ち消すことで、敵は戦略偵察部隊でより 多くのリスクを受け入れるか、商業宇宙監視にシフトするかのどちらかを選択する。 これらの行動はいずれも、利用可能な脆弱性を生み出す。
(c) 敵のサイバーISRに対抗する。
戦域・野戦軍は、支援地域の兵力を維持・展 開するための重要なシステムを保護するために、サイバースペース防御チームを指揮 する。そのためには、戦域のネットワーク、特にパートナーの商業、民間、政府、軍 、連合のシステムとリンクしている輸送と維持の機能についての詳細な知識が必要で ある。陸軍は、敵のサイバー偵察と攻撃に対して、欺瞞と罠で対抗し、敵のサイバー チームに偽の友好的なシステムを何度も提示し、混乱を引き起こす。
(2) 支援地域における敵の攻撃の影響を緩和する。
戦域および野戦軍は、戦略・作 戦行動を遂行する遠征部隊の受け入れを可能にするため、支援地域における敵の攻撃 の影響を緩和する。支援地域の多領域部隊は、敵に囮や移動した目標に資源を使わせ たり、一瞬の機会を逃したり、重要度の低い目標に重要な能力を使わせたりするため に、欺瞞を使用する。APS は、遠征部隊の迅速な統合と戦闘力の発生を可能にするために保護され、硬化されて いる。支援地域の陸軍部隊は、重要な展開と維持能力を混合クラスターに分散させる ことで弾力性と冗長性を構築し、他の方法では割り当てられない航空・ミサイル防衛 レーダーと発射装置、航空監視、および他の特殊保護能力による残存保護を獲得する ことができる。
(a) 作戦・戦術支援領域では、欺瞞を用いる。
戦域および野戦軍は、それぞれ の領域で敵のISRを複雑にするために欺瞞を行う。近接地域での欺瞞と同様に、支援 地域での欺瞞計画では、敵の監視と偵察を分散させるために複数の手段を用い、本 物、偽物、偽物を混合して提示する。
作戦の予測不可能性を高めるために、能力を誇張する。敵のマルチドメイン偵察に効 果的に対抗するため、友軍の欺瞞計画はすべてのドメイン、EMS、情報環境にわたっ て首尾一貫していなければならない。
(b) 陸軍前置弾着艦(APS)の保護と硬化。
APSサイトは、調整された戦力態 勢の重要な構成要素である。硬化した APS サイトは、特に巡航ミサイル攻撃に対する防御を提供する。しかし、APSサイトの 主な防御策は、遠征軍に装備品や物資を迅速に支給する能力である。そのためには 、保管されている装備品を高い即応性レベルで維持し、指定遠征軍と迅速な配備手 順をリハーサルし、大規模な地上戦闘作戦で即時採用できるよう重要物資や弾薬を 備蓄しておくことが必要である。
(c) 展開と維持の分散。
戦域軍は、複数の分散したルートで展開と維持を実行す る。陸軍の遠征部隊は、統合戦略輸送を利用して母国やその他の地域から展開し、戦域 内の複数の地点に到着し、複数のルートで前進し、敵の反アクセスおよび領域拒否シス テムの範囲内で分散した戦術的集合地域を占める。
航空部隊は、戦術支援地域と作戦支 援地域、または師団編成の場合は戦術支援地域と近接地域の間で基地を分割して使用す る。航空機と部隊は、戦術支援地域と近接地域の分散した厳しい場所のネットワークを 通じてローテーションする。維持は、前方展開部隊によって運営される分散した補給ノ ードを通じて分配される現地調達品と事前配置された物資の複数の供給源を利用する。
航空、地上、電子戦闘システムの集中的な維持管理は、戦闘ダメージの評価と修理を含 め、作戦支援区域の低脅威環境で行われる。陸軍は冗長な維持インフラを前方に配置し 、精密な兵站支援を計画・準備し、現役部隊と予備部隊の適切なバランスにより追加の 遠征能力の利用可能性を確保する。
d. 結論 貫徹する。
統合軍は、敵の長距離システムを即座に無力化し、全領域、EMS 、情報環境における敵機動部隊と戦い、戦略的・作戦的機動力を発揮することにより 、戦略的・作戦的スタンドオフを貫徹する。
侵入の鍵は、陸軍の長距離砲撃によって 可能となる決定的な空間における敵の長距離システムの無力化である。これらのシス テムの無力化は、友軍が近接領域で敵の攻撃に対抗し、遠征軍が戦域で戦略的作戦行 動を行うための条件を作り出す。この初期侵入により、敵の目標を否定し、友軍の戦 闘力を高め、軍団は決定的空間における敵の長距離システム(高位IADS、SRBM、長 距離MRL)と中距離システム(中位IADS、標準MRL、自走砲)の統合解除を開始で きるようにする。
3-7.武力紛争時のMDO
敵のA2/ADシステムを崩壊させる。
a. マルチドメイン問題その3
:統合軍は、作戦・戦術上の機動性を確保するために 、いかにして敵のA2/ADシステムを深海部で統合解除するのだろうか?
b. 敵のA2/ADシステムを解除するためには、敵の長距離システム を撃破し、敵の中距離システムを無力化し、敵の中距離システムの解除を開始するための作戦行動を行うことが必要である。
これらの行動は個別のフェーズではなく、前節3-6で述べた侵入や3- 8で述べた搾取の実行と重なる。統合解除の取り組みに不可欠なのは、統合軍が敵の残 存するA2/ADシステムを視認・刺激し、攻撃できるよう、複数の領域を通じて情報を継続的に改良することである。
この情報により、野戦軍は侵入から始まっ た無力化の上に、敵の長距離システムの撃破が可能になる。また、中距離システム( MRLと大砲)の初期無力化を開始し、友軍地上部隊の作戦行動を可能にする。
作戦行 動は、残存する敵中距離砲火を刺激し、敵機動隊を固定・孤立させ、友軍機動部隊に 有利な戦力比を発生させることで統合解除を完了させる。統合解除の結果、機動部隊 は決定的な空間において迅速な搾取を行い、敵を撃破できる状態になる。
c. 敵のA2/ADシステムに関する情報を精緻化する。
陸軍は近接・深部作戦領域における情報収集・分析の基礎を提供する。陸軍と軍団は、 無人センサー、特殊作戦部隊、人的情報、高高度監視からなる重層的なISRネットワー クを引き続き使用する。友軍の情報収集は当初、友軍の航空・地上機動部隊の敵との 接近を阻む各複合軍の数十の長距離システム(中距離IADS、SRBM、長距離MRL)の 位置を特定することに重点を置いている。統合解除作戦が進むにつれて、敵の中距離 システムの最も重要で脆弱な要素を特定することに焦点が移っていく。
敵は重要なシ ステムをカモフラージュ、隠蔽、欺瞞で保護しているので、野戦軍や軍団は目標にな る情報を得るために複数の種類のセンサーを集中させなければならない。すべての 領域、EMS、情報環境にわたる能力を集約する鍵は、大量の分析能力と、人工知能に よって可能になったセンサーとシューターのリンクであり、自動的なクロスキューと ターゲット認識によって敵の欺瞞と隠蔽を複雑化させるものである。
統合解除に必要 な情報の精緻化は、相互に関連する5つのシステムに依存している。
(1) 広域監視。
野戦軍と軍団は、作戦上および戦術上の情報要求に対応できる、戦 場の奥行き全体にわたる持続的な広域監視を必要とする。敵は能動的(ジャマー、ダ ズラー)、受動的(デコイ、カモフラージュ)の両方の手段でこの能力を低下させよ うとする。したがって、持続的な広域監視には、敵の対抗策を複雑にするために、宇 宙ベースと高高度システムを混合した冗長性が必要である。陸軍と軍団は、分析能力 と容量、通信とデータのインフラ、大量のデータを処理し、利用し、普及させる権限 を持っているため、持続的な広域監視を行う主要な部隊である。
(2) 貫通型偵察。
第5世代戦闘機をはじめとする浸透型統合航空偵察は、持続的な 広域監視を手がかりに標的を迅速に収集する。このため、これらの航空機と地上端末 との弾力的な通信を行い、野戦軍や軍団の情報にアクセスする必要がある。
(3) スタンドオフの監視と偵察。
合同および陸軍のスタンドオフの空中監視と偵察 は、以下を識別するシグネチャーに焦点を当てることによって、収集の努力を補う。 優先度の高い敵システム、特にIADSのための電子情報を、迅速に処理し、この情報を 発信して、儚い標的を攻撃する(数分以内)。
(4) 消耗型監視・偵察。
統合および陸軍の消耗型監視・偵察(低コストUAS、砲 撃型および空輸型無人センサー)は、他の形態の情報によって導かれた目標位置を改 良し、また敵の防空を刺激して別のセンサーによる収集を可能にする手段も提供する 。
(5) 人的ネットワーク。
特殊作戦部隊とその人的情報ネットワークは、優先度 の高い目標に関する情報を提供し、この情報を標準的でない通信システムを通じて 、現場の陸軍や軍団のSOF調整チームに広める。
d. 敵の長距離射撃システムを撃破する。
野戦軍の戦域射撃指揮所における陸軍の長距離射撃陣形は、必要に応じて軍団の作戦射撃指揮所によって強化され、他の統合能力 と融合して敵長距離システム(SRBM、中位IADS、対艦ミサイル、長距離MRL)の破 壊または制圧にあたる。
野戦軍は、敵の長距離システムに対する多領域指揮統制の責 任を与えられた場合、友軍の航空部隊および地上部隊を標的とする敵システムに対し て、統合および陸軍の能力を複数の確認攻撃または刺激確認攻撃の組み合わせに収束 させる。統合軍が射撃の組み合わせを多く提示すればするほど、敵はそのすべてに 対抗したり、軽減したりすることは不可能であると判断し、重要なシステムを維持するために発射速度を落とす可能性が高くなる。これによって、敵のシステムを刺激し たり、見たりすることは難しくなるが、統合軍の機動 の自由をもたらすという大きな効果が得られる。
敵に受動的で慎重な姿勢を取らせる ことで、友軍は作戦の主導権を握り、敵の対接近・領域拒否システムを崩壊させ始め る。
(1) 長距離射撃システムを刺激する。
敵の長距離システム(IADSレーダーなど) を刺激することで、米軍とパートナー軍に有利な戦術条件下で探知と破壊のために可 視化する。陸軍は、欺瞞または攻撃的行動によって刺激を与える。欺瞞による刺激は 、友軍の航空機、車両、またはコマンドノードのシグネチャを模倣したデコイを使用 する。攻撃的行動による刺激では、機動や航空・海軍・地上戦と連携したサイバース ペース攻撃を行う。
敵の長距離システムを刺激する能力の多くは統合されたものであ るが、軍団が敵の長距離システムに対する作戦を指揮統制する場合、それらを採用す る能力と権限を有していなければならない。
(2) 長距離射撃システムを参照。
敵の長距離システムを識別する主な方法は、広 範で持続的な宇宙ベースまたは高高度監視で、大量のデータを分析するために人工知 能または他のコンピュータ支援技術を採用した野戦軍または軍団の分析セルにデータ を迅速に配信することである。この組み合わせにより、軍事・民間からの何千ものシ グネチャで溢れ、敵のカモフラージュ、隠蔽、欺瞞の試みで複雑化した「雑然とした 戦場」で優先度の高い目標を識別することができる。もうひとつの「見る」方法は、第5世代戦闘機、サイバー能力、SOFとHUMINTチーム、あるいは砲撃型または空中投 下型のUASセンサーで、その先端を「見る」ことである。
他の情報源によって特定され、信頼性は高いが忠実度の低い場所を提供する。刺 激と同時に敵の長距離システムを見るには、ターゲットとその予想される反応に合わ せたセンサーが必要である。例えば、対砲兵レーダーや赤外線センサーを搭載した高 高度ISRバルーンが、囮の味方司令部に向けて発射される敵の長距離MRLを感知する。 センサーの種類に関係なく、刺激と感知を融合させるには、敵の反応から優位に立て る時間が短いため、迅速な分析と情報伝達(数分以内)が必要である。
(3) 長距離射撃システムを攻撃する。
統合軍は、敵の長距離システムを守る点状防 御を克服するために、領域横断的なシナジーを生み出す。敵の長距離システムに対す る陸軍の主な攻撃能力は、長距離精密射撃(LRPF)である。これは、深層機動領域と 深層射撃領域で確認された敵目標を攻撃するための、最も低コスト、低リスク、かつ 最も即応性の高い方法である。
LRPFは、アクセスするために敵の防衛力を抑制する必 要がなく、正確な交戦時間が不明な場合に備えて発射準備ができ、広い範囲にわたっ て機会目標を交戦することができる。しかし、LRPFは飛行時間が長いため、静止して いる目標への攻撃に最も適している。海上攻撃やスタンドオフの空爆(空中発射巡航 ミサイル等)は、LRPFに近い特性を持つ。
第5世代航空機は、移動する目標や、航空機 とパイロットが改善できる信頼性の高いが忠実度の低い位置データを持つ目標を交戦 させる主要な手段である。陸軍は、統合軍が敵の長距離システムを刺激し、確認し、 攻撃することを持続的に可能にすることで、A2/ADシス テムの統合を解除する最初の重要な作業を行うことになる。
e. 敵の中距離射撃システムを無力化する。
野戦軍が敵の長距離砲システムを制圧ま たは撃破するのに対し、軍団は敵の中距離砲システム(自走砲と標準MRL)の撃破に 重点を置く。この作業は作戦行動(次節)と同時に行われ、軍団は必要に応じてこの2つの間で 資源を移動させる。軍団の作戦火器司令部は、陸軍と統合された複数の確認攻撃の組 み合わせを収束させることにより、敵の中距離火器を破壊する。敵は各連合軍に数十 の長距離システムを持っているが、数百の中距離システムを持っている。長距離シス テムと比較して、大量の中距離システムを攻撃するには、より迅速に、より大規模に 実行できる、より単純な収束方法が必要である。長距離システムで必要とされるよう に綿密に計画された刺激的なシーストライクの組み合わせによって個々の敵レーダ ー、バッテリー、大隊を刺激するのではなく、軍団はより単純で素早く反復可能なシ ーストライクの組み合わせを作って敵の中距離システムを無力化するのである。
この アプローチにより、敵の中距離射撃陣形は3つのジレンマに直面する。それは、危険な 機動部隊を支援し米軍の射撃により破壊される危険を冒すこと、移動して発見され破 壊される危険を冒すこと、または不活性なまま機動部隊を支援せず、最終的に出し抜 かれるか孤立する危険を冒すことである。
(1) 中距離射撃システムを参照する。
軍団は、反撃戦の期間中(数日間)に広範 囲をカバーする敵の中距離システムを見るために、複数のセンサーを使用する。こ のような長期の間、敵は単一の監視・偵察方法に対抗するため、軍団は複数の重層的 なセンサーを移動しながら提示し、敵の対抗を複雑にする必要がある。敵の中距離砲 撃システムを事前に識別するための軍団の主要システムは、持続的で広範な高高度または宇宙基盤のサーベイランスを行う。友軍と交戦中の敵の発砲を確認するための主要なシステムは 、対戦車レーダーである。地上偵察、無人・有人航空システム、EW・信号情報ユニッ ト、SOF、宇宙、サイバー空間偵察部隊が、これらの主要システムを補強する。敵の長 距離システムとは対照的に、敵の長距離システムは、よく隠れているがほぼ静止して いる目標を発見するために大量のデータを処理する能力が必要である。中距離射撃シス テムの検出は、MRLの大隊砲撃で大きなシグネチャを作成するため簡単だが、目標 が移動する前に攻撃するには、高速処理と決断が必要である。
(2) 中距離射撃システムを攻撃する。
軍団は、敵の中距離砲撃システムに対して 、統合および陸軍の能力を収束させる。多数の移動式システムを破壊するには、セン サーを特定の攻撃形態に直接リンクさせることで、単純かつ迅速な収束が必要である 。航空ISRは空爆や地上戦の合図に、対戦車レーダーや持続的な広域高高度監視は地上 戦の合図に、無人UASは攻撃航空や地上戦の合図になる。軍団が比較的単純な空・宇 宙・地上の能力を層状に組み合わせて使用できるため、味方の行動を大幅に複雑化さ せることなく、敵の指揮統制システムをより複雑化させることが可能である。友軍の 機動部隊が中距離システムの射程内に近づけば、師団の射撃はこれらの攻撃努力に貢 献し、特に行軍目標や決定的な空間に影響を与えることができる敵の中距離システム に対する攻撃に貢献する。
f. 作戦行動を行う。
作戦行動は、敵のA2/ADシステムの崩壊を 完了させる。
野戦軍は長距離システムの撃破を継続するが、一部の能力を近接地域の 高価値目標の特定に移行させ、それらを攻撃するか、またはそのデータを軍団に迅速 に伝達し、作戦を支援させる。軍団は中距離システムの無力化を継続し、支援地域を 通過する師団と旅団を近接地域へと誘導する。敵は隣接するユニット、マルチドメイ ンイネーブラー、または上位組織からの友軍機動部隊の支援を遮断し、孤立させよう とする。友軍の機動部隊は、このような戦闘環境での作戦を想定し、独立した作戦を 実行し、意図に基づいたシナジーを実践する準備をする。
(1) 作戦行動は、敵の長距離システムを撃破し、敵の中距離システムを無力化し た後に行われるのが理想的である。
しかし、これらの重要なシステムを保護するた めに、敵は受動的であるが、時間的または空間的に重要な場所で友軍の機動部隊と 交戦できる日和見的な姿勢でシステムを使用することができる。従って、軍団と師 団は近接領域で部隊を機動させ、敵の中距離システムを刺激するために重要な地形 の占領や敵の機動部隊の孤立を脅かさなければならないかもしれない。
(2) 近接戦場における軍団及び師団は、敵機動部隊(統合軍またはそれに準ずるも の)及びその中距離システムの重要な能力を固定するため、作戦上の欺瞞を用いる。 軍団と師団は物理的および仮想的な欺瞞を用い、敵の意思決定に不確実性を与え、部 隊または能力を位置から離し、または攻撃する友軍と比較して戦力比的に不利な状態 にする。また、敵が味方部隊の全容を把握するのを妨げ、決定的な空間の認知を遅ら せる。軍団はまた、敵の中距離システムを刺激し、多領域能力による攻撃を可能にす るために、欺瞞を用いる。
g. 結論 崩壊させる。
作戦行動を成功させることにより、敵の中距離システムを無力 化し、決定的な空間における敵のA2/ADシステムの崩壊を完成さ せることができる。また、決定的な空間において勢いのある十分な戦闘力を発揮し、 機会を利用できるようにすることで、近接・深部作戦領域における戦術的成功の条件 を整える。しかし、敵のA2/ADシステムの崩壊は、永久的な状態では ない。時間があれば、敵は戦術的な適応、再編成、限定的な再構成によってシステム を再生する。
近接敵のA2/AD能力を完全に崩壊させることは不可能 であるため、指揮官は敵の崩壊を完了させると同時に、その結果生じる行動の自由を さらに活用するために、優位性の窓を開拓し拡大する必要がある。
3-8.武力紛争におけるMDO
敵の目標を倒すために、作戦の自由を利用する。
a. マルチドメイン問題その4:
統合軍は、近接・深部機動領域における敵の撃退 を通じて戦略・作戦目標を達成するために、どのように機動力の自由を活用するの か。
b. 統合軍は、敵の反アクセス・領域拒否システムを解体することによって生じる自 由な機動力を活用し、敵の中距離システムを撃破し、短距離システムを無力化し、機 動によって敵の陸上部隊を孤立させ撃破する。搾取と機動は、敵のシステムの侵入と 統合解除を維持し、戦略目標の達成を可能にする。搾取のための条件は、決定的な空 間に焦点を当てたMDOによって達成される。
陸軍は、決定的空間におけるマルチドメ イン能力を最適に活用し、敵の下位要素を物理的、認知的、仮想的に孤立させること で敵の防御を解除し、友軍が有利な戦力比と決定的な戦術的成果を達成できるよう機 動する。都市の物理的、政治的、経済的、社会的、文化的重要性から、都市はしばし ば決定的な空間となり、敵の目標を否定するか、味方の目標を達成するために重要で ある。統合軍は、都市部の密集した地形でも、他のすべての地形と同様に、敵の作戦 計画を混乱させ、敵の戦略目標を否定し、最終的には友軍の戦略目標を達成するため に十分な軍事的優位を得るために、決定的な空間での行動を成功させるのである。
c. 敵の中距離システムを撃破せよ。
軍団は、敵の中距離砲を引き続き攻撃し、搾取 する。敵の中距離システムを攻撃するために使用される能力は、初期無力化(3- 7.e項参照)を達成するために使用される能力と同じである。しかし、最初の味方の成 功により、敵はこれらのシステムの使用を制限し、保護と生存性(例えば、より頻繁 な生存性移動、より大きな分散)に大きな努力を払うことにより、これらのシステム を維持しようとするようになるであろう。
軍団の射撃と師団の作戦の組み合わせは、 敵の戦術システムの中で最も危険な要素である中距離システムの敗北を防ごうとする この試みに打ち勝つ。師団の機動は敵に残りの中距離システムを使用させるが、軍団 の射撃はこれを撃破する準備が整っている。攻略が進むにつれ、友軍の機動による敵 の防御力の低下は、敵の火力・維持陣形を攻撃・蹂躙する機会を増やし、決定的な空 間での敵の中距離システムの撃破を完成させる。
d. 敵の短距離システムを無力化する。
全領域、EMS、情報環境(攻撃航空、UAS、 短距離防空、EW、対位置・誘導・タイミング、サイバースペース対策、射撃、機動部 隊など)の能力を結集して、敵の短距離システムを無力化する。部門は、宇宙制御と 宇宙ベースの能力について、戦域軍と調整する。師団は、師団の有機的な防空・航空 能力(UASを含む)を統合航空作戦と統合するために、野戦軍(陸戦軍として行動す る場合は軍団)と連携する。
すべての編隊は独自のサイバースペースを防衛するが、 上級戦術司令部(野戦軍または軍団)は、短距離で独自に発生する攻撃を無力化する ために、師団に追加のサイバー防衛チームを割り当てる。師団は EMS を管理する主要な部隊として、地上および航空ベースの EW 能力で下位の旅団を補強し、航空機動への支援を優先させる。師団は航空旅団をEWと 火力支援の両方で支援し、敵の防空を抑え、戦術的機会を利用できるようにする。敵 は相当数の短距離システムを保有しており、その無力化は作戦を可能にするために不 可欠である。
e. 陸上部隊を孤立させ、打ち負かすための作戦行動。
師団は、統合マルチドメイン 能力を利用し、旅団を決定的な空間で使用することにより、機動力の自由を利用する 。軍団は、統合および省庁間能力を集約する必要性が高まっているため、密集した都 市地形での機動支援において重要な役割を果たすことになる。戦術的に敵を圧倒する 陸上部隊は、統合軍が作戦の自由を活用する能力の基盤である。戦術的な圧倒は、適 応力があり積極的な指導者と、凝集力がありよく訓練された編隊で編成された兵士、 そして優れた機動性、防護、殺傷力を持つ航空機、戦闘車両、小部隊、個人の産物で ある。師団は、欺瞞と作戦を駆使して陣形レベルの戦術的優位性を活用し、決定的な スペースで有利な戦力比を作り出す。師団は、敵の通信、射撃、予備に対するマルチ ドメイン攻撃で、見る、欺く、操る能力を収束させる。この収束は、敵の陣形の物理 的、仮想的、認知的結束を破壊し、その敗北をもたらす。
(1) 見る。
師団と旅団は、有人・無人の航空ISR、地上偵察、EWの能力を駆使して 「見る」。これらの有機的能力は、軍団によって補完される。軍団は、下級部隊のた めに大容量のセンサー(例えば、宇宙ベースおよび高高度ISR)からのデータを分析し 、その情報を弾力性のある小容量のデータ形式に変換している。これにより、下級部 隊は、センサーを直接利用する分析能力や通信回線がなくても、これらの情報源にア クセスできるようになる。有機的な偵察と、統合および国家的な監視・情報へのアク セスの組み合わせは、指揮官に敵を感知するための新たな選択肢を提供し、保護、欺 瞞、孤立、機動に役立つ。
(2) 孤立させるための機動
師団は、航空・地上作戦、射撃、EW、欺瞞を統合して 、敵の要素を物理的、仮想的、認知的に孤立させる主要な責任を負う。さらに、師団 は攻撃的空間とサイバースペースを、戦域軍と野戦軍を通じてこれらの能力にアクセ スすることにより、敵要素の隔離に取り込む。師団の射撃指揮、戦闘航空旅団、およ び敵の通信線、予備軍、隣接部隊に向けられた協調的な航空阻止は、機動部隊を物理 的に孤立させる。
師団の地上・空中EW能力は、攻撃的な宇宙・サイバー空間能力と 連携し、特に偵察と射撃に重点を置いて敵の指揮統制システムを混乱させることによ り、敵を事実上孤立させることができる。友軍は、機動、地形の巧みな利用、主導権 の獲得、敵の予備軍や隣接部隊を固定するための欺瞞を組み合わせることで、物理的 および仮想的な孤立を達成することができる。物理的、仮想的、認知的孤立の組み合 わせは、機動が活用できる有利な戦力比を生み出す。
(3) 機動力
師団は機動部隊の基礎となる部隊である。師団は旅団と旅団戦 闘団を指揮し、機動、射撃、救急活動、航空支援などの基本的なマルチドメインコン バージェンスを実行する。師団は旅団を同時に使用して、領域横断的な射撃と独立し た機動で敵を圧倒し、または攻撃作戦の期間を延長するために順番に使用する。旅団 は有機的な火力、ISR、航空機との通信能力により、上級司令部から一定期間隔離され てもこれを達成することができる。旅団は、EW、中規模航空作戦、サイバー攻撃、攻 撃的空間制御を作戦に組み込んでいる。
独立旅団は、72時間から96時間、攻撃作戦を 実施する能力を有する。師団とその旅団は、指揮官の意図の範囲内で戦術的機会を利 用し、決定的な戦術的成果を達成する。
(4) 密集した都市地形での作戦
密集した市街地は、作戦のテンポが遅くなりがちで 、大量の物資、イネーブラ、戦力を消費するため、友軍の作戦の自由を活用する上で 特に困難が伴う。密集市街地では、師団が機動力の基盤であることに変わりはないが 、特殊能力を結集し、多国籍および省庁間パートナーと連携するために、野戦軍や軍 団からのさらなる支援が必要になる。司令官が密集した都市部を迂回することを決め た場合、マルチドメイン能力があれば、仮想隔離、無人センサーの使用、および欺瞞 によって通信線の確保にかかるリスクとコストを削減することができる。他の例では 、統合軍は連合軍をマルチドメインの資産や能力で補強することで、連合軍を有効に することができる。
陸軍は、密集市街地が軍事的、経済的、または政治的価値により 決定的な空間となる場合、そこで戦うことになる。密集した都市地形は、サイバース ペースやEMSベースの武器を使用する可能性を高めるが、それらの能力を的確に使用 するための要件も高める。友軍や民間人を巻き添えにする可能性があるため、物理的 および仮想的な兵器の使用には、詳細な情報の準備、計画、指揮監督を必要とする。
f. 結論 搾取する。
搾取の成功は、戦略的目標の達成に有利な軍事的条件を作り出す 。迅速な作戦展開は、友軍の戦略・作戦コストを最小化し、敵のシステム再統合と占 領地での利得を強固にすることを阻止する。しかし、核兵器で武装したニアピアの敵 との紛争では、作戦展開は、政策、ロジスティックス、資源の制約の組み合わせで結 論づけられることになる。敵の通常戦力は著しく低下するが、敵は脅威を維持するた めの結束力と能力を保持する。政治的交渉が長引けば、敵は通常戦の脅威または限定 的再開を、非通常戦や情報戦と組み合わせて、外交的優位を獲得し、友軍の利益確保 を弱体化させようとするだろう。
しかし、友軍の戦略目標を完全に達成するためには、紛争から競争への復帰を成功さ せることが必要である。
3-9.競争への回帰でMDO
再競争で利潤を集約・拡大する
a. 複合領域問題5:
統合軍はどのように再競争し、利益を強固にし、持続的な成果 を生み出し、長期的抑止力の条件を整え、新しい安全保障環境に適応していくのか。
b. 統合軍とパートナーは、紛争で得た軍事的優位を維持し、それを基に再競争を行 う。
敵が核戦力を持つような作戦環境では、敵を打ち負かすことを望むのは無理な話 であり、何らかの形で競争と現状に復帰する方が現実的である。
地上軍が粘り強く存 在することで、敵が武力紛争に復帰して成果を覆そうとしなくなるまで、米国は成果 を強固にし、抑止力を継続することができるのである。すなわち、持続的な成果を生 み出すための地形と住民の物理的確保、パートナーと陸軍の能力を再生させることに よる長期的抑止のための条件設定、そして新たな安全保障環境への戦力態勢の適応で ある。
c. 持続可能な成果を生み出す。
競争への復帰において、野戦軍は作戦区域内の陸軍 通常戦闘部隊の全体指揮を保持する。これらの部隊の主要任務は、武力紛争中に達成 した敵に対する物理的・心理的優位を維持し、重要な地形と友好的住民を確保するこ とである。遠征隊が再展開する場合、野戦軍は敵の残存する中距離射撃に対して大量 の能力を収束させる役割を再開する。通常兵器の殺傷作戦は、競技復帰時の散発的な 衝突でも、武力紛争への復帰でも行われる可能性があるため、野戦軍は戦場の情報準 備を継続する必要がある。しかし、サイバースペースでの活動は、武力紛争時と同様 の高い強度で継続される可能性が高い。なぜなら、両軍が物理的に分離されても、ど ちらかがサイバースペースへのアクセスを放棄することは保証されないからである。
また、敵味方双方の民間人、軍、政府に影響を与えることで利益を確保しようとする ため、情報環境における作戦も継続される。民政活動は、重要なサービスと統治を再 確立するため、パートナー政府を支援する。同時に、戦域陸軍は、戦域陸軍の作戦地 域外の他の代理人に対する共同・多国籍非正規戦を支援し、戦域陸軍の作戦地域外で 敵の通常攻撃を抑止する同盟軍団または師団を支援する。こうした陸軍のエシュロン での取り組みを総合すると、獲得したものを迅速に統合し、抑止のための基盤を構築 することができる。
d. 長期的な抑止のための条件を整える。
陸軍とパートナーの能力を再生・拡大する ことで、長期的な抑止のための条件を整備する。前方展開陸軍は、パートナー軍との 相互運用性を高める手段として、紛争への復帰を抑止する防御的な計画・準備を行う 。また野戦軍は、紛争後の環境がもたらすあらゆる領域での相対的な機動自由、EMS 、情報環境を利用し、持続可能で有利な調整された戦力態勢のための条件を整える。 陸軍は、比較的短期間の作戦でも枯渇する弾薬備蓄を迅速に再生することで、抑止を 可能にする。陸軍は、軍事施設建設や軍事演習を支援する。
通常型および非通常型の脅威に対する自衛のためのパートナーの能力と能力を再生さ せる。
SOFと治安部隊支援部隊は、パートナーの能力を再生し、抑止力を強化するた めに不可欠である。敵の視点から見ると、統合軍と陸軍の行動は、強固な演習、サイ バー偵察、情報作戦を通じて示される侵略に対抗する能力の増大と持続を示すもので ある。これらを組み合わせることで、長期的な抑止力を更新し、そのための条件を整 えることができる。
e. 新たな安全保障環境に適応する。
紛争は地域の安全保障環境に大きな変化をも たらす。陸軍は、新しい安全保障環境が米国とそのパートナーにとって有利になるよ うに、持続的なプレゼンスを提供する。戦域・野戦軍は、パートナー、統合司令部、 陸軍省本部と連携し、調整された戦力態勢を新たな作戦環境に最適に適応させる。陸 軍は、攻撃作戦に即座に対抗し、迅速に更新する能力を保持する。予備役の編成によ り、陸軍のプレゼンスを拡大する一方、遠征準備態勢を再生することができる。
f. 競争への復帰。
武力紛争から競争への復帰を成功させることにより、統合軍は武 力紛争における作戦上の成功を戦略目標の達成につなげる。獲得した成果を統合し、 友軍を再建し、パートナーの能力を高めることで、武力紛争の再発を長期的に抑止す ることができる。さらに重要なことは、新たな安全保障環境にうまく適応することで 、米国の戦略的立場を全体的に向上させることである。
第4章 おわりに
a. マルチドメイン作戦における米軍のコンセプトは、中国やロシアのシステムを打 ち負かすことを可能にする、根本的に新しい方法で作戦を視覚化し、実施するよう、 陸軍の指導者に要求している。コンバージェンスは、陸軍が有能な敵に対抗し、敵の 軍事システムの脆弱性を攻撃することによって、たとえ数で劣っていても、敵のA2/ADシステムを突破し、統合を解除することを可能にするものであ る。しかし、その実現は容易ではない。
陸軍司令部は、マルチドメイン指揮統 制を実行するための技術的、知的、および教義的手段を備えるだけでなく、それを実 現するための厳格な統合・連合訓練も行わなければならない。
このようにして、陸軍 部隊は、すべての領域、EMS、および情報環境にわたって、意図に基づく相乗効果を 達成し、競争、浸透、統合解除、搾取、再競争を行うことができるのである。
b. 陸軍は MDO のために、すべての領域、EMS、情報環境にわたって情報、機動、打撃活動を行うエ シェロン(階層)型フォーメーションを組織する。 陸軍の編隊は、敵の軍事システムを破壊するために、複数の、あるいは予想外の方法 と順序で能力を移動させ、連携させることによって作戦を行う。陸軍によるこのよう なエシュロンでの作戦行動は、重要な空間において中国やロシアの軍事システムを圧倒する。
c. MDOは、陸軍に対し、統合軍に領域横断的な選択肢を提供するための能力を 、以下の方法で開発または改善することを求めている。
(1) 中国やロシアの攻撃的な作戦に対抗し、武力紛争への拡大を抑止するため、 地理的・陸軍全体の戦力態勢を調整すること。
(2) パートナーの能力と相互運用性を構築し、基地やアクセス権の確立、装備や物 資の事前配置、準備的な情報活動、EMSやコンピュータネットワークのマッピングな どの活動を通じて、戦域を設定することにより、作戦環境を準備する。(陸軍資材近代化優先順位:陸軍ネットワークによる支援)
(3) 中国やロシアが主導する非従来型戦争や情報戦がますます巧妙化して いることに対抗するため、パートナーや同盟国の能力・制度を構築する。
(4) 作戦上または戦略上特に重要な都市部の理解と能力を高めることで、競 争と紛争に備えた作戦環境を整える。
(5) 戦略支援地域から深部作戦地域までの迅速な戦力投射、MDO、独立作戦を 支援するために必要な、信頼性、機動性、応答性の高い維持能力を提供する精密兵 站を確立すること。(陸軍資材近代化の優先事項によりサポートされる。将来の垂直 上昇、陸軍ネットワーク)
(6) 通常、紛争時に確保される、または上位組織への必要な権限や許可を確立し 、競合状態での活動や紛争への迅速な移行を効果的に行う。
(7) 殺傷効果と非殺傷効果の精度、速度、同調を高める戦術と能力の開発を通じて 、あらゆる階級で密集した都市地形で MDO を実施する能力を向上させること。(陸軍兵器近代化の優先事項によりサポートされる 。長距離精密射撃、次世代戦闘車両、陸軍ネットワーク、兵士の殺傷能力)。
(8) 中国やロシアの偵察、攻撃、統合兵器、非通常戦能力による脅威を伝え、それ に対抗するクロスドメインの行動を通じて、信頼できる米国の情報物語を支援すること 。
(9) 各階層の指揮官や幕僚が、すべての領域、EMS、情報環境における戦闘を可 視化して指揮し、領域や組織間で能力を迅速にシフトして、中国やロシアの脆弱性に 対して戦闘力を集中できるようにすること。そのためには、統合軍全体の能力をより 迅速に収束させる新たなツール、訓練パラダイムの転換、人事・人材管理手法の変革 が必要である。
また、陸軍の陣形が、国家、統合、商業、および軍のリポジトリやラ イブラリから、あるいは収集資産から直接、シームレスかつ時間支配的に、利用可能 なすべての情報を活用するための訓練、人員配置、および装備を備えていることも必 要である。(陸軍近代化資材の優先事項によりサポートされている。陸軍ネットワーク 、兵士の殺傷能力)。
(10) 中国やロシアの多層的で相互に補強し合う軍事力およびシステムにおける特 定の脆弱性を攻撃するために、能力を収束できるマルチ・ドメインのフォーメーショ ンおよびシステムを統合軍司令官に提供すること。これは、統合軍全体に存在する能 力にアクセスし、それを活用する手段と能力を持つ指揮官と幕僚を作り出すことを意 味する。(陸軍兵器近代化の優先事項によって支えられている。長距離精密射撃、次世 代戦闘車両、将来の垂直上昇、兵士の殺傷力)。
(11) 耐久性があり、激戦の作戦環境でも活動でき、他の統合軍やパートナーから 容易に孤立することがなく、 独立した機動と領域横断的な砲撃を行うことができるシステム、リーダー、兵士を備え た多領域編成を統合軍司令官に提 供することである。そのためには、システムと陣形の持続可能性を高め、厳しい環境と 条件のもとで効果的に活動し続ける指導者と兵士が必要である。(陸軍資材近代化の優 先事項によりサポートされています。長距離精密射撃、次世代戦闘車両、将来の垂直上 昇、陸軍ネットワーク、航空・ミサイル防衛、兵士の殺傷力)。
(12) 合同演習、訓練、その他のプレゼンス活動を通じて、米国の安全保障への コミットメントをパートナーに明確に示すことにより、利益を統合する。
(13) 陸・空・海の能力を宇宙・サイバースペース・EMSでの作戦で可能にし補 完することで、敵にジレンマをもたらす優位の窓の開放と活用を支援し、劣化した 、混乱した、あるいは拒否された作戦環境での友軍作戦遂行能力を保護すること。
(14) MDOを実施するためのスキルと専門知識を持つ、質の高い、身体的に 健康で精神的にタフな兵士を引き付け、保持し、最大限に活用する。
d. 米陸軍の多領域作戦コンセプトは、実験を推進し、能力と教義の開発に情報を提供し、組織のトレードオフと戦力態勢の決定を組み立て、統合軍の一部として中国と ロシアのシステムを利用する敵対者を抑止する陸軍の能力を回復させるものである。
MDO は現時点では陸軍のコンセプトであり、他部隊やパートナーからの貢献により、パー トナーとともに近接敵に対して実施される共同作戦に対する陸軍の貢献と要件を記述 したものである。MDOの将来の開発では、他のシナリオで、統合軍やパートナーの関与をさらに強めながら 、本コンセプトで説明した作戦方法を検証することになる。
前提条件 A-1.ベースラインの仮定
a. 米陸軍は今後も専門的な全挺身部隊であり続け、将来のコミットメントを満たす ために陸軍のすべての構成員に依存する。
b. 陸軍は財政制約を調整し、中長期的(2020年から2040年)に国防戦略の要求を 満たすために必要な即応性、戦力構成、近代化のバランスを維持するのに十分な資 源を持つことになる。
c. 国家的緊急事態への緊急対応を除き、陸軍は合同チーム、省庁間チーム 、多国籍チームの一員として作戦を実施する。
A-2.基本的な前提条件
a. 敵対者は、武力紛争の閾値を下回り、米国が戦争と見なすほどではない手段や 方法で、米国の利益に挑戦してくるだろう。
b. 敵対勢力は、限られた戦略目標を捕捉し、数日から数週間のうちに獲得したも のを強化するために、限られた警告で地域キャンペーンによる武力紛争を行うこと ができます。
c. 精密誘導兵器、統合防空システム、サイバースペース兵器、対空兵器、その 他の技術の普及により、ますます多くの潜在的敵対者が、戦術、作戦、戦略レベ ルのすべての領域、EMS、情報環境において米軍と戦い、危険にさらすことがで きるようになった。
d. 米国とパートナーの政治当局は、抑止が失敗した場合、近接敵に対応し打ち負か すために十分な戦力態勢と即応レベルを承認し可能にする。
e. 米国とパートナー国の政府は、友軍が敵対者を抑止し打ち負かすための攻撃的な EMS、サイバースペース、宇宙、非通常戦、情報環境作戦と同様に、環境の作戦準備 を実施するための権限を提供する。
f. 米国およびパートナー国の政府機関、司令部、実戦部隊は、敵対者を抑止・撃退 する統合作戦を実施するために、サービス、政府機関、同盟国間の十分な相互運用性 を開発し、維持すること。
g. 米国も敵国も核兵器を使用しない。核兵器が使用されれば、戦略的背景が大きく 変化するため、異なる作戦アプローチが必要となる。(この仮定は、本コンセプトが核 兵器の脅威を無視することを意味するものではない。陸軍部隊は、あらゆる形態の攻 撃に対して弾力性を持たなければならない。さらに指揮官は、作戦計画を策定する際 に核攻撃の可能性を考慮し、統合軍がどこでどのように活動するかについて作戦上の 制限を受ける可能性のあるエスカレーションのリスクを考慮しなければならない)
付録B 主な要求能力
B1.はじめに
本付録は、本コンセプトに記載されているMDOを実施するために必要な能力 をリストアップしている。
B-2.必要な能力
a. 高度に競合する環境で MDO を実施するために、陸軍は、競合する中国とロシアの攻撃作戦を撃退し、武力紛争へ の拡大を抑止するために、地理的かつ陸軍のすべての部門で戦力態勢を調整する能力 を必要としている(支援:陸軍近代化優先課題)。(陸軍資材近代化優先事項によって サポートされる。長距離精密射撃)
b. 高度に競合する環境で MDO を実施するには、陸軍はパートナーの能力と相互運用性を構築し、基地とアクセス権の確立、装備と物資の事前配置、情報活動の準備、EMS とコンピュータ・ネットワークのマッピン グなどの活動を通じて戦場を設定し、作戦環境を準備する能力が必要である(陸軍の 近代化優先事項:陸軍 ネットワーク)。(陸軍資材近代化優先順位:陸軍ネットワーク)。
c. 陸軍は、高度に紛争化した環境でMDOを実施するため、中国やロシアが推進する非通常戦や情報戦がますます巧妙化する中で、パートナーの能力や能力を高め る能力を必要としている。
d. 高度に競合する環境で MDO を実施するために は、陸軍部隊は、作戦上または戦略上特に重要な選 択された都市部の理解と能力を高めることによって、 作戦環境を競合と紛争のために準備する能力を 必要とする。
e. 高度に競合する環境で MDO を実施するために、陸軍は、戦略的支援地域から深部作戦地域までの作戦を支援する ために必要な、階層的、機敏、かつ迅速な持続性能力を提供する精密なロジスティク スを必要としている。精密なロジスティクスを可能にするのは、予測分析ツールを 備えた持続性企業資源計画意思決定支援システムと、要求なしに補給したり優先順位 に基づいて物資を振り向けたりする能力、エシュロンの指揮官と物流担当者が閲覧で きるリアルタイムの共通運用画像、配送要件を最大50%削減し作戦時間と陣形の到達 範囲を拡大するための総軍全体での大幅な需要削減である。
f. 高度に紛争化した環境でMDOを実施するために、陸軍部隊は、競争下で活 動し、効果的に紛争に迅速に移行するために必要な権限と許可を必要とする。
g. 高度に競合する環境で MDO を実施するために、陸軍は、殺傷効果と非殺傷効果の精度、速度、および同調性を 高める戦術と能力により、すべての 階層で密集した都市地形で MDO を実施する能力を必要とする(陸軍の資材近代化の優先事項をサポート)。(陸軍資 材近代化の優先事項によりサポートされています。長距離精密射撃、次世代戦闘車 両、陸軍ネットワーク、兵士の殺傷能力)。
h. 高度に紛争化した環境で MDO を実施するためには、陸軍は、中国やロシアの偵察、攻撃、複合武器、非通常戦能 力による脅威を伝え、それに対抗するクロスドメイン行動を通じて、信頼できる米 国の情報物語を支援する能力を必要とします。
i. 陸軍が高度な紛争環境で MDO を実施するには、各階層の指揮官や幕僚が、すべての領域、EMS、情報環境での戦闘 を可視化して指揮し、領域や組織間で能力を迅速にシフトして中国やロシアの脆弱性 に対する戦闘力を結集できるようにする能力が必要である。
そのためには、統合軍全 体の能力をより迅速に収束させる新たなツール、訓練パラダイムの転換、人事・人材 管理手法の変革が必要である。また、陸軍の陣形が、国家、統合、商業、および軍の リポジトリやライブラリから、あるいは収集資産から直接、シームレスかつ時間支配 的に、利用可能なすべての情報を活用するための訓練、人員配置、および装備を備え ていることも必要である。(陸軍近代化資材の優先事項によりサポートされている。陸 軍ネットワーク、兵士の殺傷能力)。
j. 陸軍が高度な紛争環境で MDO を実施するには、中国やロシアの多層的で相互に補強し合う軍事力およびシ ステムの特定の脆弱性を攻撃する能力を統合軍司令官に提供できるマルチドメイン陣 形とシステムが必要である。これは、統合軍全体に存在する能力を考え抜き、アクセ スし、活用できる戦術的な陣形とリーダーを構築することを意味する。(陸軍兵器近代 化の優先事項によりサポートされている。長距離精密射撃、次世代戦闘車両、将来の 垂直上昇、兵士の殺傷力)。
k. 陸軍が激しい戦闘環境で MDO を実施するには、耐久性があり、困難な作戦環境でも持続でき、他の統合軍やパート ナーから容易に孤立することがなく、独立した機動と領域横断型の射撃を行うことが できるシステム、リーダー、兵士を備えた弾力性のある多領域陣形が必要である。
そ のためには、システムと陣形の持続性を高め、厳しい環境と条件のもとで効果的に活 動し続ける指導者と兵士が必要である。(陸軍資材近代化の優先事項によりサポート されています。長距離精密射撃、次世代戦闘車両、将来の垂直上昇、陸軍ネットワー ク、航空・ミサイル防衛、兵士の殺傷力)。
l. 高度に紛争化した環境でMDOを実施するためには、陸軍は合同演習、訓練、その 他の駐留活動を通じて、米国の安全保障へのコミットメントをパートナーに明確に示 すことにより、利益を強固にする能力が必要である。
m. 陸軍が高度な紛争環境で MDO を実施するには、陸・空・海上の能力を宇宙・サイバースペース・EMS での作戦で有効化・補完し、優位の窓の開放と活用を支援する能力が必要で、敵にジ レンマをもたらす一方、劣化・混乱・拒否された作戦環境での友軍作戦実施能力を保 護する必要がある。
n. 高度な戦闘環境でMDOを実施するためには、陸軍はMDOを実施するためのスキ ルと専門知識を持つ、質の高い、身体的に健康で精神的にタフな兵士を集め、保持し 、最大限に活用する必要がある。(以下付録略)
用語集略語
ADRPArmy doctrine reference publication(陸軍教義参考資料)
APS アーミー・プレポジション・ストック
DUT 密集市街地
EMS 電磁波スペクトル
EWelectronic warfare(電子戦)
FMfield マニュアル
HUMINT 人間の知能
IADS 統合防空システム
IEO 情報環境事業
IRC 情報関連能力
ISR 知能 、監視、偵察。
JAM-GC グローバルコモンズにおけるアクセスおよびマヌーバのための共同コンセ プト
JCEO エントリー活動のための共同 コンセプト
JCIC 統合キャンペーンのための共同コンセプト
JOAC 共同作戦アクセスコンセプト
JPjoint 出版
LRPF 長距離精密射撃
MDOM マルチドメインオペレーション
MDTF マルチドメイン・タスクフォース
MRL マルチロケットランチャー
NATON 北大西洋条約機構
SOF 特殊作戦部隊 サムシング・サーフ・エア・ミサイル
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ECtheater 有効化コマンド
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