ことばの研究 さん・くん・ちゃん/NHK放送文化研究所
こんにちはmakokonです。毎日LLMと話していて、LLMが自然な会話を実現するためのエージェントを開発していると「こんな言葉つかいが今は一般的なのかなあ!?」と思うことが多々あります。調べてみようと思っても、インターネット上には言葉の使い方を説明するサイトはたくさんあるのですが、その信頼性を判断する事ができません。
真実ではなくても、一定以上の国民の理解が得られる言葉つかいくらいは、ある程度の確信が持てる情報を知りたいと思っています。
今日のテーマは、敬称(さん・くん・ちゃん)の使い分けです。具体的には、ニュースでよく見る「警察では〇〇〇〇(ちゃん・くん・さん)が事件に巻き込まれたとみて,捜査しています。」はどれが適当なのだろうかという問題です。
様々な調査と討論を重ねながらも結論に至りきれない様子が見えます。最終的な結論が出るのかどうかはわかりませんが、会話アプリを開発する立場としては、その時時の社会情勢を踏まえた判断を以下に組み込むかが重要ですね。
紹介 NHK放送文化研究所 通称文研
今回の資料を提供いただきましたNHK放送文化研究所(通称文研)ですが、どのようなところなのでしょう。
より豊かな文化の創造をめざして時代と向き合う、社会と向き合う
文研とは、「豊かな放送文化を創造する」ための研究機関であり、このために必要な調査研究を行っています。昭和21年から設立され、調査研究業務は番組制作とならばNHKの本来業務だそうです。
公共放送の“確かな軸”としての文研にご注目ください。
子どもの敬称(さん・くん・ちゃん)
意味の解釈がわかれる語の扱いについて
今回の資料は、第1465回放送用語委員会(東京)2023年6月9日子どもの敬称(さん・くん・ちゃん)
意味の解釈がわかれる語の扱いについて〔意見交換〕
議題1:子どもの敬称(さん・くん(君)・ちゃん)
この議論の内容は、新しい『NHKことばのハンドブック』に反映させる予定(だった)そうです。第3版はまだ出ていないのかかな。
なぜ、子どもの敬称について議論するのか
この議論の必要性については、主に2つの観点があります。
敬称が3つあるので使い分けなくてはいけない。
「さん」「くん」「ちゃん」という3種類の敬称があり、それぞれ使用される状況やニュアンスが異なるため、適切な使い分けについて検討する必要があります。
敬称の使い方が、現場によって異なっていて混乱している。
敬称の使い方が人によって異なり、混乱が見られます。たとえば、
国語辞典やハンドブックによって使い分けの説明が異なっている。
放送現場や、新聞、通信社などでも、性別や年令などによって指示する敬称が異なり、意見が別れている。
最近の動向
使い分けにおける、最近の動向があります。
NHK言葉のハンドブック第2版
原則は「さん」あるいは「氏」
学生や未成年者(男)には「君」を使っても良い
学齢枚の幼児には「ちゃん」をつける
ただし、各種条件により使っても良い場面は異なる
多くの新聞社
小学生の男の子には、原則「くん」
または、「くん」と「さん」どちらも使う
毎日新聞社 https://salon.mainichi-kotoba.jp/archives/
52589「くん」は使わない(ジェンダー的な公正さ)
男女問わず、
小学校入学前は「ちゃん」
小学校入学後は「さん」
地方紙の一部
「さん」にといつする動き
共同通信者 記者ハンドブック
基本は、「ちゃん」は小学校入学前
小学生も事件の被害者など特別なケースでは適宜「ちゃん」を使用しても良い
などなど、多くの取り決めがあるものの、統一されていない。
男の子の敬称についての調査
調査概要
テレビやラジオのニュースで男の子の名前に付け
る敬称として,「ちゃん」「くん」「さん」のどれが最
もふさわしいと思うかの調査を行った。
調査の年齢区分は、4つの年齢区分ごとに質問した。
「4 歳から小学校入学前(6歳くらいまで)」
「小学1 ~ 2 年生(6 ~ 8 歳 )」
「小学 3 ~ 4 年生(8~ 10 歳 )」
「小学 5 ~ 6 年生(10 ~ 12 歳 )」の4つ
この調査は、現在(2023年2月)と過去(2015年3月)の2回行われている
質問
調査結果
男の子の敬称に関する調査結果について、傾向を説明します。
男の子の敬称は、年齢が上がるにつれて「ちゃん」から「くん」、そして「さん」へと変化していく傾向があり、近年では特に「さん」の支持が増加しているという状況です。
全体的な傾向として、「くん」が最も支持されています。特に小学生の間では、「くん」が広く使われていることがわかります。
「ちゃん」の支持は、年齢が上がるにつれて減少しています。幼い子どもには「ちゃん」が使われることが多いものの、小学校入学後にはあまり使われなくなります。
「さん」の支持は、学年が上がるにつれて増加しています。小学校高学年になると、「さん」がより多く使われるようになることがわかります。
回答者の年代別に見ると、30代・40代では他の年代よりも「さん」を支持する傾向が強いです。特に小学校入学前の男の子に対しては、70歳以上が「ちゃん」、30代・40代が「さん」を支持する傾向がみられます。
過去の調査と比較すると、「ちゃん」の支持が減少し、「さん」の支持が増加しているという傾向がみられます。これは、社会的な変化やジェンダーに関する意識の変化が影響していると考えられます。
過去の調査では小学校入学前は「ちゃん」の支持が最も多かったのに対し、今回の調査では「くん」が「ちゃん」を上回っています。これは、小学校入学前の男の子に対しても「くん」を使うことがより一般的になってきていることを示唆しています。
これらの結果から、男の子の敬称は年齢によって使い分けられる傾向があることがわかります。また、社会的な変化や意識の変化によって、「さん」を使うことがより一般的になってきていると言えるでしょう。
同じ調査をLLMに対しても行ってみた(makokonしらべ)実はこれをやりたかった
せっかくなので、現在のLLMの意見を聞いてみました。
対象のLLMは手元にある、OpenAI、google、anthropicから適当に選びました。
プロンプト:
回答(選択のみ)
面白いですね。googleは「さん」推し、anthropicは「くん」推しでした。。OpenAIはo1-preveiwのみ「さん」でした。
新しい(学習においてだが)モデルが「さん」になるというよりは、知識の選択に各社の設計が含まれているのかもしれません。オープンソースモデルで、年代別にチェックしてみたら面白いかもしれないですね。(環境が用意できたら試してみよう)
gpt-4o くん
gpt-4o-mini くん
o1-preview さん
gemini-1.5-pro さん
gemini-1.5-flash さん
gemini-2.0-flash-exp さん
gemini-2.0-flash-thinking-exp-1212 さん
claude-3-5-sonnet-v2:0 くん
claude-3-5-haiku-v1:0 くん
claude-3-opus-v1:0 くん
回答(選択理由付き) LLMが考察
それぞれのLLMの理由付き回答です。
興味があれば読み込んでいただいてもいいですが、これもLLMに考察してもらいました。
claude-3-5-sonnet-v2.0の考察
各LLMの回答を分析すると、以下のような興味深い傾向が見られます:
回答の二極化
「くん」派:GPT-4、Claude系
「さん」派:Gemini系、o1-preview
設計思想の違い
GPT-4とClaude系は伝統的な日本の言語慣習に重点を置いており、男の子に対する一般的な敬称として「くん」を選択
Gemini系は報道倫理や客観性を重視し、より形式的で中立的な「さん」を推奨
学習データの時期による影響
より最近のモデル(Gemini系)は、現代のメディアの傾向を反映し、より配慮的な表現を選択
従来型のモデルは伝統的な言語使用に基づいた判断をしている
回答の根拠付け
Gemini系:事件報道という文脈、被害者への配慮を重視
Claude系:一般的な言語習慣、年齢による使い分けを重視
GPT-4:バランスの取れた判断基準を示している
これらの違いは、各企業の価値観や開発方針、学習データの違いを反映していると考えられます。また、最近のモデルほど社会的配慮や報道倫理を意識した回答を示す傾向があります。
gemini-1.5-proの考察
LLMの回答は「くん」と「さん」に分かれました。この違いは、設計思想と学習データの違いに起因すると考えられます。
「くん」派(gpt-4o, gpt-4o-mini, Claude-3系)
設計思想:より自然で、一般的な日本語表現を重視していると考えられます。日本の文化や慣習を反映した学習データで訓練されているため、日常会話に近いニュアンスを捉えています。特にClaudeは、日本の報道における慣例を明示的に学習している可能性があります。
学習データ:日本のニュース原稿や一般的な会話データなどを多く含んでいると推測されます。
「さん」派 (Gemini系, o1-preview)
設計思想:丁寧さ、フォーマルさ、および中立性を重視していると考えられます。そのため、年齢や性別に関わらず、誰に対しても使える「さん」を選択する傾向があります。特に被害者への配慮を理由に挙げているGeminiは、倫理的な側面を強く意識している設計思想が窺えます。
学習データ:フォーマルな文章や、多様な文化圏の言語データを学習している可能性があります。そのため、日本語特有の微妙なニュアンスの習得が不十分かもしれません。
結論として
現状の日本の報道では、幼い男の子には「くん」を使う事例もまだ見られますが、「さん」を使うケースが増えており、年齢に関わらず「さん」で統一する方向に向かっているという見方もあります。LLMの回答の違いは、この過渡期の現状を反映していると言えるでしょう。
各LLMの開発メーカーは、それぞれの設計思想に基づき、学習データを選択・調整しています。そのため、同じ質問に対しても異なる回答が生成されることは避けられません。ユーザーは、LLMの特性を理解した上で、出力された情報を批判的に評価する必要があります。
gpt-4oの考察
この質問に対する各LLMの回答の違いは、LLMの設計思想、学習データの傾向、および報道における敬称の理解に基づいています。
回答の違い
「くん」を選んだモデル(gpt-4o, gpt-4o-mini, Claude 系)
これらのモデルは、ニュース文脈においても「くん」が子供や未成年の男性に対する適切な敬称であると判断しています。「くん」を選ぶ背景には、日常的な使用法や「くん」が公式な文脈でも使われる場合があることに基づいています。「さん」を選んだモデル(Gemini 系統)
これらのモデルは、ニュース報道のフォーマルさや中立性を重視し、未成年でも敬意を示す「さん」を適切と判断しています。特に「ニュースの文脈では性別や年齢に関わらず『さん』を使うべき」という方針を学習していることが伺えます。
考察
設計思想
「くん」を選んだモデルは、日常使用や慣例を重視した設計思想が伺えます。これにより、一般的な文脈での自然な選択肢を提案しようとしています。
「さん」を選んだモデルは、フォーマリティや中立性を優先する設計思想が反映されています。Gemini 系は特に報道のルールや倫理観に基づいた判断を重視しているようです。
学習データの影響
「くん」を選んだモデルは、一般的な会話や報道文脈の実例として「くん」が使われるケースを多く学習していると推測されます。
「さん」を選んだモデルは、報道機関の中立的な表現や倫理的配慮を重視する文献を多く学習している可能性が高いです。
学習のタイミング
モデルが更新された時期における社会的な議論や慣例も影響している可能性があります。例えば、近年の報道倫理に関する議論が「さん」を選ぶモデルの判断に影響を与えた可能性があります。
結論
回答の違いは、設計思想の違い(自然さ vs フォーマリティ)と学習データの偏り(慣例 vs 報道倫理)によるものです。ニュース文脈での敬称選択は地域や文化、状況に依存するため、どちらの回答も一概に正誤を決めるものではありません。しかし、特に報道重視の文脈では「さん」を選ぶ方がより一般的かつフォーマルな選択と言えるでしょう。
各LLMの理由付き回答
gpt-4o
この場合、最もふさわしい敬称は「くん」です。
選定理由:
ニュースにおいて、男の子の名前に敬称を付ける際、「くん」は一般的に用いられます。「ちゃん」は親しい関係や幼児に対して使われることが多く、公式なニュースでは適さないと考えられます。「さん」は大人や性別を問わず用いられますが、小さな男の子に対しては「くん」がより適切です。
gpt-4o-mini
最もふさわしい敬称は「くん」です。
選定理由:
「くん」は、男の子や若い男性に対して使われる敬称であり、親しみを持ちながらも適切な敬意を示す表現です。「ちゃん」は主に女の子に使われるため不適切であり、「さん」は一般的な敬称ですが、よりカジュアルな文脈では「くん」がより自然です。
o1-preview
最もふさわしい敬称は「さん」です。
理由:ニュースでは、年齢や性別に関係なく、敬意を示すために「さん」を用いるのが一般的です。
gemini-1.5-pro
さん
選定理由:事件のニュースにおいては、被害者への配慮とフォーマルさを優先するため、「さん」が最も適切です。未成年であっても、事件報道では「さん」を用いるのが一般的です。
gemini-1.5-flash
さん
選定理由:ニュース報道では、事件に巻き込まれた被害者を尊重する表現を用いる必要があるため。年齢が不明な場合、「さん」が最も適切な敬称となる。gemini-2.0-flash-exp
最もふさわしいのは 3. さん です。
選定理由:
ニュース原稿では、対象者が未成年であっても、原則として「さん」を使用します。「ちゃん」は親愛の情を込めた表現であり、ニュースの客観性・中立性を損なうため不適切です。「くん」は親しみや同輩意識を表すため、これもニュースでは適切ではありません。報道では、年齢に関わらず「さん」を使用するのが一般的です。
gemini-2.0-flash-thinking-exp-1212
最もふさわしい敬称は 3. さん です。
選定理由:
ニュース報道という公的な場であり、事件に巻き込まれた未成年者に対して、敬意と客観性を示す必要があるため、「さん」が最も適切です。「ちゃん」は親愛の情が強すぎ、「くん」はややくだけた印象を与えるため、報道には不向きです。
claude-3-5-sonnet-v2:0
回答: 2. くん
選定理由:
ニュースにおける男の子への敬称は、一般的に「くん」が標準的です。
「ちゃん」は幼い子どもや親しい間柄で使用される informal な呼び方で、ニュースの公式な場面には適していません。
「さん」は成人に対して使う一般的な敬称であり、子どもに使用するのは不自然です。
報道の現場では、未成年の男子を「くん」と呼ぶことが慣例として定着しています。
このため、ニュース報道における男の子への敬称としては「くん」が最もふさわしいと判断されます
.claude-3-5-haiku-v1:0
回答:2. くん
選定理由:
報道における男の子の名前には「くん」が最も適切です。「ちゃん」は幼い子供や女の子に、「さん」は大人に使用される敬称のため、ニュース文脈では「くん」が最も自然で中立的な呼称となります。特に子供や若い男性を指す場合、「くん」は標準的な敬称として使われます。
claude-3-opus-v1:0
くん
選定理由:
ニュースで男の子に敬称をつける場合、一般的に「くん」が最もふさわしいと考えられます。「ちゃん」は幼い子どもに対して使われることが多く、「さん」は大人に対する敬称として使われることが一般的です。一方、「くん」は、子どもから青年くらいまでの男性に対して広く使われる敬称であり、ニュースの文脈においても最も適していると言えます。
呼び分けについての調査
質問
調査結果概要
この調査では、男子小学生と女子小学生を「くん」「さん」で呼び分けることについて、どのように思うかを質問しました。
全体としては、「このとおりでよい(「さん」に統一しなくてよい)」と答えた人が約5割と最も多い結果となりました。つまり、現状の「男の子は『くん』、女の子は『さん』」という呼び分けを支持する人が多いことがわかります。
しかし、「『さん』に統一するのがよい」と答えた人も3割近くおり、男女で敬称を使い分けることに否定的な意見も一定数あることが示されました。
「どちらともいえない」と答えた人も2割強おり、この問題について明確な意見を持っていない人も少なくないことがわかります。
年代別に見ると、30代で「『さん』への統一を支持する人が他の年代よりも多く、特に30代女性では半数以上の人が「『さん』への統一を支持」しています。このことから、若い世代ほど、男女の敬称を統一することに賛成する傾向があると言えるでしょう。
この調査結果は、子どもの敬称の使い分けについて、意見が分かれていることを示しています。現状の呼び分けを支持する人が多い一方で、「さん」への統一を求める声も無視できない状況です。特に30代を中心に、ジェンダー平等への意識の高まりから、敬称の統一を支持する傾向が見られます。
当日の放送委員の意見から雰囲気を見出す。
「さん」、「くん」の使い分けについて
「さん」、「くん」を使い分けている現状から「さん」への統一の流れは各委員共通の認識を持ちながらも、時期の問題や現場への対応から意見がまとまらない様子が見えます。
つまり、委員の間でも意見が分かれており、それぞれの立場や考え方に基づいて議論が交わされました。「さん」への統一を支持する意見がある一方で、現状の使い分けを支持する意見も根強く、すぐに結論を出すのは難しいという状況が読み取れます。長期的にこの問題をみていく必要があり、社会の変化に合わせて柔軟に対応していく必要があるという認識で一致したと考えられます。
また、放送現場の委員からは、現状では取材に応じて判断しているという意見や、「さん」に統一することに違和感を覚えるという意見も出ており、現場の実情を踏まえた上での検討が必要であることが示唆されています。
「ちゃん」の使用に関する意見
小学生に「ちゃん」を付ける例として、「痛ましい事件や事故に巻き込まれた場合」という例示は、演出過剰なイメージを与える可能性があるため、考え直すべきという意見がありました。
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