『角打ちの夕べ』
「まだ明るいうちから冷たいのをクァッとやるのがね、いいですよね」
この角打ちでAさんと肩を並べるようになったのはほんの半年ほど前
どちらともなしに声をかけ、話が弾んだ
訊けば歳もほど近い
若い頃苦労したこと
訳あって身よりがないこと
郷里にはもはや未練がないこと
身上も似通っていた
気付けば、数十年来の親友のように酌を交わした
もう働くこともない日々
いっぽうでアルコール以外の刺激も期待できない毎日
新しい友人が出来たことに私はちょっとした充実感を覚えていた
酔いがまわり、初夏の風を感じたせいか
私は一緒にハワイにでも行かないかと提案をした
唐突なことを口にしてしまったが
いつものように
笑うとなくなってしまうほどの細い目でニコニコと
Aさんは応えてくれた
「あぁ私ね、マエがあるんですよ、だからね、すぐ外国にはいけない」
塀の中にいたそうだ
娑婆に出たのは
去年の冬
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