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『そんな喜びが他にあるだろうか』
俺の仕事はこの場所で
疎ましがられているいっぽう
固定の客もいて
意外と人気があるわけ
やっぱりみんな
心地よく買い物したいんだな
スーパーのカートを
俺は有料で貸し出している
もちろんスーパーには
カゴといっしょに
手押しのカートが常備されていて
だけど俺は
それでは物足りない人のために
特別なクッション性を備えた持ち手
かつてない操作性を実現する車輪
なにより軽くしなやかなボディ
そんな買い物用カートを誂えて
スーパーの店先で
貸しているというわけ
そう
だから店側には当然ながら
疎ましがられている
でも俺の仕事を気に入って
毎日のように借りてくれる
お得意さんもいて
それでこのスーパーへ
一定数の集客があるんだから
お互いにハッピーだろう
疎ましい割に追い出さないのは
スーパーのほうもそれを
わかっているから
オートバイの職工だった俺は
まるでベルトコンベアに
自分が乗っているような
不安な気分に襲われて
あるとき退職した
妻には逃げられた
もちろん子供も連れて行かれた
でも俺はすぐさま
生きがいを見つけた
オリジナルの
買い物カートを作って
それを貸し出す
みんな楽しく気持ちよく
買い物をしてくれる
そんな喜びが他にあるだろうか
俺の買い物カートは
1回限りの利用もできるし
定期券も発行している
最近では
ネットで予約も受けているし
あとは自宅まで押して帰り
俺が引き取りにいくっていう
そんなサービスも始めた
ものめずらしいから
こないだなんて
地域の情報誌が取材に来たし
あぁそれから
ユーチューバ―にも凸された
あいつらカートを乱暴に扱うから
二度と寄せ付けないぞ
まぁとにかく俺は
この仕事のパイオニアだ
そろそろ事業を拡大したい
従業員を雇って
他のスーパーにも展開を
そんなことを毎日考えながら
俺はきょうもスーパーの軒先で
買い物カートを貸し出している
妻には子供を連れて
逃げられたけど
そのうち俺のところに
買い物に来てくれたら
そんなことも少し考えながら