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『サウハラ』
うちの課長はサウナが大好きだ
会社の近くに
24時間営業のサウナがあって
仕事終わりに
ほぼ毎日寄っているらしい
真冬などは朝の出勤前にも
つまり課長は
フィンランド人かよってくらい
サウナを愛している
そしてそのサウナと同じくらいに
俺のことも大好きなようで
だいぶ気に入ってくれている
課長の部下は全部で4人
俺以外の3人は女性だから
必然的に話し相手として
俺が選ばれることになる
だから俺はサウナにも
よく同行するわけで
こないだ新人が入ってきた
男性の若いヤツ
性格はいいし
能力も高くて
言うことなし
ただ残念なのは
体質的にサウナがあまり
得意ではないとのこと
いちど課長に連れられて
俺と3人で行ったときなど
ものの1分も経たないうちに
飛び出てしまって
課長が言うには
たしかに最初は辛いけど
整う感覚を知ったら
病みつきになるぞって
俺もまだサウナで整う
その境地には至ってないから
どうしたものかなって思うけど
お人よしの新人は毎日
作り笑いとともに汗を流してる
ある寒い日の朝
いつもならサウナあがりの
整った顔で出勤する課長
ところがきょうは
その上の部長に連れられ
まるで子供みたいに
泣きベソをかきながら
ただごとではないぞと
ざわつく俺たち課員一同
部長が言うには
サウナハラスメント略して
サウハラがあったと
そう新人が訴えたらしい
たしかにきょう彼は
体調不良を理由に休んでいる
きのうの晩も俺と一緒に
課長に連れられて
サウナに行ったばかりだ
苦手なもんは仕方ないよな
それを無理やりというか
課長も悪気は
なかったんだろうけど
でも誘われたら
新人も断れないもんな
なんて俺は思いながら
窓の外をぼうっと眺めていたら
課長が咽び泣きながら
釈明を始めたわけ
「こ、このたびは…新人のや、山田君を…ひっ…体質的に無理な…さ、サウナが苦手な…やま、山田君を…わ、私は無理やり…連れていって…それで…体調を崩させてしまって…誠に申し訳ない…」
隣にいる部長だけは
神妙な顔つきで
うんうんうなずいてるけど
どういう時間だこれって
俺も他の女性社員3人も
きっと思ってる
「や、山田君の具合は幸い…そんなに悪くない…それだけが救いで…みんな安心してほしい…ただ大事をとって彼は…今週いっぱい休む」
これって人類史上初の
滑稽な謝罪スピーチだろ
そんなことを俺は思って
だんだん呆れてきてしまって
「さ、最後に…ひとつだけ!わ、私は…さ、サウナが大好きです!」
え何いってんの
俺はドン引き
女性陣もちろんハイパードン引き
部長すらちょっと引いてる
「サウナが大好き!ヤッパ!スッキャネン!」
課長ふだん関西弁使わないけど
たしか大阪出身だったよな
でもこの流れだと
たかじんじゃなくて
フィンランド人じゃねって
何を上手いこと
言おうとしてんだよって
余計ざわついたという話