『シートの座り心地はさいこうなのだ』
俺は世界を股に掛ける
トップレスラーなのだ
だから移動はいつでも
どこへでも
プライベートジェットで
縦横無尽に飛んでいくのだ
ところでプライベートジェットは
さすが高いだけあって
シートの座り心地はさいこうなのだ
リクライニングは
フルフラットになるぜいたく品だ
座ったらすぐに眠ってしまうのだ
もっとも俺の必殺技の
安.楽.死チョップを受けた場合は
0.02秒で逝ってしまうのだが
きょうの遠征はどこなのだ
マネージャーに聞いたのだった
本拠地のロスを離れて
おおフロリダだったのか
そういえば髪を切りたいのだ
切りたいなのだ
でもマネージャーが
時間がないって言うのだ
だったらプライベートジェットに
美容師を乗せたらいいのだ
万が一俺の髪が飛び散っても
仲間とこの機内で
シャンパンファイトを
やったときほどじゃないだろう
ないだろうなのだ
これなら時間が短縮できるのだ
せっかくシートがふかふかなのだし
ちょうど良いアイディアだ
やっぱりすぐに眠ってしまった
気づいたら髪が整えられて
フロリダに着いていたのだった
そういえば虫歯が痛いのだった
アドレナリンが出て
試合のさいちゅうは忘れているが
さっき痛み出したのだった
歯医者に行きたいと思ったが
やっぱりマネージャーが
時間がないと言ったのだった
次の遠征はミシガンか
歯の痛みは我慢なのか
そうだ良いことを思いついた
歯医者もプライベートジェットに
乗せてしまえばいいのだ
リクライニングでふかふかの
シートに座って
移動時間に歯の治療を
してもらえば良い
万が一俺の血が飛び散っても
テキサスの暴れ牛を
乗せたときほどじゃないだろう
普段なら嫌な歯の治療も
ミシガンに着陸する前の
眠っているあいだに
終わったのだった
ほんとうにこんな良い
時間の使い方はないだろう
ないのだ
俺はとても賢いなあ
俺はスターだ
アメリカで知らないものはいない
世界的にも有名なレスラーだ
プライベートジェットで
どこにだって飛んでいくし
誰だって乗せてしまう
シートはいつもふかふか
リクライニングはさいこう
さぁきょうの試合も
がんばるぞ
さぁて俺は悪役レスラーだ
だからリングの上で使うのは
もっぱらパイプ椅子だ