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インタビューのイは、イタコのイ
なぜ藪から棒にここで「イタコ」が出てきたのだと問われれば、私はインタビュー記事を書くとき、自分がイタコになったイメージでいるからだ。
最初は、ピアニストの友だちが一心不乱にピアノを弾き込んでいるのを、その隣で聴いていて、彼女は一種のイタコだなぁと思ったことがきっかけだった。
何世紀も前に去った今は亡き作曲家たちの魂を、指先に降ろしているのだ。
でも、あるときふと気がつくと、自分もインタビュー記事を書いていて、次の展開はどうしよう、次の段落はどう攻めよう、などと考えながら同じように指先に降ろしているときがあったのだ。
え。な、何を降ろすかって? もう一度言うよ。それは、タ、タマシィ……。
なぜか自分で言っていて急に恥ずかしくなったが、私は、まったくもってそういうオカルトちっくな才能やセンスはない。
しかし書き手なら、誰でもきっとそうなのではないだろうか。
インタビュー記事を書くときは、その人の魂を呼び寄せているような感覚でいること。インタビューイーをキーボードまで引っ張り降ろすのだ。
まぁ、魂って言っちゃうから、なんだかますます江原啓之でも出てきて「ええ。それはですね……」と、語り出しそうなんだけれども、何も私は「霊」を召喚しているのではない。
インタビュー中は、もちろんその人の話を一字一句漏らさず聞くのだけれど、同時にその人の、何というか本質の部分を掴もうとしている自分がどこかにいるのだ。
たとえばサッカーの本田選手にインタビューするのなら、私はケイスケ・ホンダと話しているのと同時に、リトル本田も捕まえに行っている。
このリトル本田が、先ほどから私が言うところの魂なのである。
リトルは正直者で、リトルには世間体がない。
リトルの本心に関しては、当の本人も気づいていないこともある。
人は初対面の人には、なかなかすべてを語らないことがある。口ではこう言っているけれども、本当はどうかなと、こちらも聞いていて訝しむこともある。
そういうとき、私はリトルにも尋ねてみるのだ。
もちろん本人が語ってないセリフを、「はい。リトル本田がこう言っていたから書きました!」と、ペラペラと勝手に捏造することはできない。だが「『……』と本田は語ったが、実のところその瞳にはまだ迷いの色が浮かんでいるようであった」なぁんつって、補足的な所感を地の文に書くことはできるのだ。
またあるいは、インタビュー中に本田はこう語ってくれたけれども、よくよく後でボイスレコーダーを聞いてみると、「ん? このセリフって解釈のしようによっては、AともBともCとも受け取ることができるよね」というときがある。そんなときも、まずはリトルに聞いてみる。
リトル本田が「それはBだね」と答えれば、私はBパターンで書いてみるのだ。
こうしてリトル経由で書き上げた文章を後でチェックしてもらうと、不思議なことに、朱字を入れられて修正させられたことはまず、ないのだ。
リトル本田はかように正直者だからである。
そしてイタコに似ているのは、それだけではない。
オカルト系のドキュメンタリー番組を観ていると、霊能者の人たちがその人を霊視するために、いつも何か手がかりを求めている。
実際にその人に会ったり、写真を見たり、その場所に行ってみたりして、何らかの直接的な、それが叶わないのなら間接的な接触を求めている。
インタビューという行為も、基本的にはまず当人に会わないことには、その人のことは書きたくない。直接的な接触が一番だ。
たとえば、どんなにその人について書かれた自伝やインタビュー記事を読み漁っても、どんなにその人が出ているドラマを見倒したとしても、その人のリトルを掴むことはできないからだ。
面と向かってみると、ぜんぜん印象が違った、思っていたのと違う、ということがあるのだ。
しかし実際の仕事では、相手が忙しかったりしてなかなか会う機会が設けられないときも多々ある。メールだけでやり取りをしたりすることもある。
でもそれならせめて一回は、何とかきっかけを作って、無理やりお電話をさせてもらう(相手が芸能人だとマネージャーとしか電話できないので、それも叶わないのだが)。
実際に電話で声を聞くと、少し何か糸口が増える。
何か事件が起きたり思い出の場所があるならば、もうすでに何も無くなっていても、できる限りその場所に足を運んでみる。その場に立ってみる。その人が見た景色を追ってみる。
一見無駄そうな行為にも見えるのだが、そうやってリトル情報を少しでも増やすと、より本人の本質に近づけて書きやすくなるのだ。
わざわざその場に立って周囲を見回しているとき。あるいは、目を閉じて両手をピアニストのように構えてキーボードの前に座っているとき。そんな自分を、なんかちょっとイタコみたいだなぁ、と思うわけだ。
(リトルの上手な捕まえ方のコツは、次回に!)
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