8月2週目
『ワイルド・スピード ジェットブレイク』
(C)2021 Universal Studios. All Rights Reserved.
『アジアの天使』
(C)2021 The Asian Angel Film Partners
『Summer of 85』
(C)2020-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-France 2 CINEMA–PLAYTIME PRODUCTION-SCOPE PICTURES
『全員切腹』
(C)豊田組
今週一番良かったのは『Summer of 85』。
フランソワ・オゾン監督の最新作で、原作は監督が若かりしころに影響を受けたというエイダン・チェンバーズの小説「おれの墓で踊れ」。
オゾン監督とガス・ヴァン・サント監督は美少年を発掘するのがとても上手。アレックスとダヴィドを演じたフェリックス・ルフェーブルとバンジャマン・ボワザンも見目麗しい少年たち。オーディションで発掘したそうだ。
袖なしジーンズベストにジーパンのコーディネートや首に巻いたバンダナ、ボーダートップのマリンコーデ、パーマのかかったマレットヘアなど難易度高めのファッションが違和感なく似合っているのは特筆すべき点だろう。いくら全編フィルム撮影にこだわったといっても着せられてる感があると「2021年の映画だなあ」というのがよぎってしまい台無しだが、二人は見事に着こなしていて、新しいけどどこか懐かしさを感じる「1985年の夏」として観ることができた。とくにダヴィドを演じたバンジャマン・ヴォワザン。ちょっと気だるげで退廃的なムードがあって、往年の銀幕スターという雰囲気を持っていて今後に期待。
ストーリーはシンプルで、初恋の出会いから永遠の別れまでの6週間を描いたもの。オゾン監督なので、ドキっとさせられたり不穏な空気が流れたりしないかなと少しの不安と期待もあるものの今回はストレートに青春ラブストーリーで一貫している。というか、本作ではじめてオゾン監督の憧れるもの、好きなものを垣間見た気がする。それは例えば風景の撮り方だったり、理想のデートかもしれないシーンであったり、理想の相手であったりするかもしれないが、そういうのが作品の端々にあふれ出ていた(憶測である)。
『君の名前で僕を呼んで』(2018)が「ゲイの恋愛というのを際立たせず自然な恋愛として描いている」というふうに評価されているのをごく最近知って、そういえばそうだったかもなと思ったのだが、それでいうと本作もその類になるのだろう。たいへんな障害を乗り越え二人は結ばれ、やがて…というのではなく、ごく普通に二人は友人から恋人関係になりやがて破局する。ここまででだいたい1時間。残り45分ほどはどうしましょう?アレックスが生前ダヴィドと交わした約束、「墓の上で踊る」のだ。こういうシーンでのダンスってパッションが高まりすぎていて場合によっては「ちょっと…」と観ているのがつらくなってしまうミュージカル苦手な自分なのだが、顔のアップなどなしで俯瞰するように引きで撮っていて、逆にその距離感が良かった。
とにかくカラっとしていて、アレックスがダヴィドの死を(乗り越えるというよりかは)通過していく終わり方もよかった。エンディングはThe Cureの『In Between Days』。歌詞と内容がマッチしている。
『ワイルド・スピード ジェットブレイク』。ワイスピはシリーズを全くと言っていいほど観ていないのだが十分楽しめた。もちろん過去作品を観ていたほうが登場人物やその関係などが分かって楽しめるのだが、いきなり9作目からみても面白いので、そりゃシリーズ続きますよねと納得。
本作はシリーズの第3作から第6作を手がけたジャスティン・リン監督の復活作で、前作に登場していた悪役・味方役が再登場するなどファンにとってはワクワクする内容だろう。しかも今回は主人公ドミニクの弟が敵役として登場し、家族の話や過去の因縁が明かされるなど盛りだくさん。
クルマでどれだけのことができるか?というのをとことん突き詰めているところが本シリーズ最大の魅力だと推測するが、戦い方もあくまでクルマをどう改造するか、どう運転するかというので考えていて、さらに今回はクルマで宇宙まで行ってしまう。クルマで宇宙に行こうものなら普通なら死人が出そうなものだが、本作では人が死なないので、安心して最後まで楽しむことができる。
ミニシアターに行くことの方が多いので、久々にTOHOシネマズの大きなスクリーンで観ると「映画観てる!」という感じがして余計に興奮。すべての映画をシネコンサイズでやってくれと思った。
こういう映画に欠かせない劇中のHIP HOPを聴きながら「ベタだなあ」と思いつつ、なんだかんだで気分が上がった。カーディ・Bがカメオ出演している。
豊田監督の『全員切腹』は初日の舞台挨拶付き。『狼煙が呼ぶ』、『破壊の日』に続くシリーズ第三作。豊田監督の作品は最後に観たのが『泣き虫しょったんの奇跡』で劇場で観るのは久々。
上映時間26分ながらも「短編映画ではない」という豊田監督。2時間、3時間の映画を観ても覚えているのはせいぜいわずかなシーンだけ、それなら集中力が保てる30分ぐらいにして一つ一つの台詞を印象に残るものにしたい(意訳)というのが狙いらしい。
パンフレットには完成台本もついていて、わずか5ページから成る。去年から続く新型コロナをめぐる政府の対応を風刺した内容だというのは一目瞭然。市民の怒りやうっぷん、思いの丈を窪塚洋介演じる雷漢が長台詞とともにぶわっとまくしたてる。
とにかく「あっっっっ」という間に終わる。前述した監督の思いや考えは十分に理解できるので支持したいのだが、やはりどうしても26分間で観客のテンションを一気に引き上げるのは難しそうだなと思うのが正直なところ。それでいうとオープニングのクレジット~タイトルまでが一番テンションがあがった。物語が始まるといったん「静」になるのでそこから再び感情を揺さぶるところにもっていくには時間が足りない気がするのだ。イベントの音楽ライブとかだと持ち時間30分とかざらだものね、退屈だと長く感じるけど引き込まれるとあっという間なので、もっと観たい!という感情もあり。この尺でいくのであれば本編始まってからの立ち上がりにかかっている気がする。
最後は『アジアの天使』。石井裕也監督が韓国人スタッフ&キャストとともにオール韓国ロケで撮りあげた作品とのことで、東京上映の最終日に鑑賞。
残念ながら、色々なテーマを盛り込みすぎて誰にも感情移入できず、一番言いたいことは何だったのかも曖昧、韓国を舞台にした意味合いも薄い、というのが正直な感想。タルコフスキー系ではないのに途中で眠くなってしまった。心地よいではなく退屈で…。
池松壮亮さん演じる剛の「大事なのは相互理解!」というよく分からないモットー(分かるのだが、とりあえずGoogle翻訳を使いませんか、と)にまず疑問符。彼の演技力により剛のおかしな振る舞いもなんとかみていられる状態で、池松さんは現在31歳なのだが、これを40代~50代としてみるとあの支離滅裂な行動がかろうじて理解できる。
おそらくは日本人、韓国人の家族愛について、異文化との交流、コミュニケーションを描きたかったのだと思うが、すべてを描こうとして中途半端になってしまった印象。それだったら、何も日本と韓国にしなくても都市と地方でも良かったのでは、と思う。
最後の唐突な天使の登場もどういう顔で観れば良いのかよくわからなかった。監督の意図としては「多様性の時代なのに天使のイメージがステレオタイプ化されていることに違和感を感じた。結局自分が信じるかどうかなのであえてああいう天使の造形にした(意訳)」とのことだが、それにしても作品の流れを悪い意味でぶった切る天使の登場は個人的にはあまり好みではなかった。
良かったのは、剛の息子である学がとにかく物言わぬ子どもだったところ。子どもってわがまま言ったりいらんことを言ったりするのだが、学はトイレに行きたいというのも言えないぐらい無口。そうか、この大人たちのああだこうだ言ってどこに着地するでもないやりとりや一連のドラマを観客と同じくちょっとうんざりしながら聞いていたのは学も同じだったのかもしれないと思った。
『茜色に焼かれる』、『夜空はいつでも最高密度の青色だ』とかは良さそうなのに…と思うのでめげずに他の作品を観てみようと思う。
そんな感じで今週もおわりました。
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