キューバの料理好き男性とテレビドラマの影響
キューバで料理好き男性が増えている!?
首都ハバナの民泊に滞在していたときのこと。キューバの民泊はホームスティ型が多く(民泊についての記事はこちらに)、その日は、家主さんの娘さん(注)がボーイフレンドを連れて遊びにきていました。
(注:家主さんは再婚しているので、ふだん娘さんは別の場所に住んでいる)
ふたりとも、医者を志す学生さん。娘さんより5歳年上だというボーイフレンドがひとりキッチンに入って、料理に取りかかります。チキンソテー、サラダ、トマトスープとライスのディナー4人分を丁寧にこしらえました。さらに、食事が終わると、片付け、皿洗いもします。
ボーイフレンドが台所にいる間、娘さんはソファーに寝転がり、本を読んだり、テレビを観たり。
私も一緒に食事をいただいたのですが、「おいしい~!!」と感激したら、娘のパパである家主さんが、すかさずこう言うのです。
「実はオレも料理するんだよ。奥さんは仕事の腕はすごいけど、料理はオレのほうがうまいんだ」
それから、得意料理のレシピを、身振り手振りで教えてくれる様子がおかしくて、満腹がよじれて苦しかったのを思い出します。
そういえば、よく知っているキューバ人20代後半のカップルも、男性が料理好き。
「彼がいつもご飯を作ってくれる。私は料理が全然できない」
と女性が話すので、思わず私が「(彼が作ってくれるのは)ラッキーだね!」と言ったら、「なぜ?(好きだからやっているだけでしょうという表情)」と薄い反応でした。「いろいろ作ってくれるから、私は太る」とも。
首都ハバナでビシタクシー(自転車タクシー)を猛スピードでこいでいた男性は「自分は家族の料理担当だから、もうすぐ家に帰らなくては」と話していました。
テレビドラマに家事をする男性が登場
料理をする男性が(おそらく)増えている背景には、キューバが国をあげてのキャンペーンで、男性に家事を推進してきた経緯があります。
かつて家事は女性が担っていたそうですが、1959年のキューバ革命以降、女性の社会進出が進む(「ジェンダーギャップ指数2021」でキューバは39位、日本は120位。男女格差はキューバのほうが少ない)なかで、家庭内における、家事分担の問題が出てきたそうです。
そこで、社会主義国のキューバは、政府機関の指導のもと、保育園で「男子にままごと」をさせたり、テレビドラマに「家事をする男性を登場」させたりして、啓蒙活動を繰り広げました。
「男性が家事をするのは普通のこと」というキャンペーンが、どこまで功を奏したかはわかりません。しかし今、キューバの男性は「料理ができる=センスがある=ポジティブ」ととらえている印象を受けます。もちろん、個人差はあるでしょうが。
ここでふと考えたのが、日本における「ドラマ」の影響です。
私もこのごろ、小学生の姪っ子と一緒にテレビで放送されている「サザエさん」、「ちびまる子ちゃん」、「ドラえもん」をよく見ます。なつかしい番組がいまだ人気で驚きますが、こうしたアニメで料理はもちろん、家事は「お母さん」の担当です。
「黒電話」や「買い物かご」といった昭和の風景に加え、「家族のかたち」は子どもたちの目にどう映るのだろう。
そこで思い出したのが、おととしキューバで会った、若い世代の日本アニメファンたちの言葉でした。日本のアニメのどこに魅力を感じるか、聞いたところ、何人かがこんな話をしていました。
「日本のアニメには、家族とのつながりの深さや、年上をリスペクトする姿勢が描かれている。キューバでもかつて大事にしてきたのに、近年は個人主義になり、失われつつあるのがさびしい」
10年ぐらい前ですが、「サザエさん」を見たキューバ人の男性から、「日本の家族は、みんなで食卓を囲んで朝ごはんを食べるのがいいね!」とうらやましがられ、「今のニッポンはどうかなあ」と、複雑な心持ちになったこともあります。
日本のアニメから、キューバ本来の価値観を見出すキューバの若者たち。私も、昔なじんだアニメから、今こそ受け取れることがたくさんあるのかも。
それにしても、家事をする男性が出てくるキューバの「啓蒙」ドラマ、どんな感じだか、気になります。
<写真はキューバの友人宅のキッチン(2015年)>