お千鶴さん事件帖「片恋」第二話③/3 完結編
四、五人ほど通りや店の人に尋ねたあげく、ついにたどり着いた所はみすぼらしい、あばら家だった.
軒先で子供たち三人が並んで草履作りをしている。一番末の女の子はまだ三つか四つで、兄や姉にまとわりついている。
「突然すみません。おっかさんか、おっとさんはいますか?」さぶを見つけて尋ねた。
「ああ、おっかあなら裏で洗濯しているよ。おっとうは旅籠に草履を届けに行った。おかみさんは、この間お店で見かけたね」
「あら、頭のいいこと。よくわかりましたね」
「物覚えはいい方なんだ」
「ほんとに」と、さぶに微笑んでから裏のおっかさんのところへ回り、挨拶と奉公口をもってきたことを伝えた。最初は迷惑そうな表情で迎えたのが、奉公の一言で晴れやかな表情に変わった。詳しいことが決まったら、文で知らせますから心配しないように言付けた。それから、さぶちゃんに少しの間聞きたいことがあるからと頼んで裏口から家の前に戻った。
「仕事で何かへまをやったのかしら? 聞くところによると、どこの奉公先も長く続かないんですって?」
と、責める気持ちではなく、からかってみたくなって三郎に話しかけた。小僧の仕事がつらいものであることは皆周知のことだ。隣にしゃがみこんで顔を覗き込んだ。少しとんがらせた唇が小さくてぷっくりとしている。
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