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お千鶴さん事件帖「結晶」第四話③/3   完結編

「弱ったなあ。親分に聞いてから……」
「いけませんよ」
 と、立ち上がりかける徳三を千鶴は押さえつけて話を続けた。
「これから、カンザシをお城のお姫様にだって売り込まなきゃならないかもしれないでしょう? 度胸試しです。しっかりやってくださいな。ねっ」
「魂胆がばれたらどうすればいいんですか?」
「焼いて食われるようなことにはならないです。つまみ出されるくらい」
「いやですよお」
「じゃあ、わたしが行くから、徳ちゃんはお供ということにしますか?」
「だめだめだめ。外に連れ出したりしたら、親分さんに叱られる」
 しばらく無言で腕を組み、徳三は考え込んでいるようだった。その時庭の鹿威しがポンと跳ねた。
 千鶴をうらめしそうに見つめた後、ようやく決心したようだった。
「大丈夫、わたしはどこにも出かけないから」
 その言葉を聞き徳三は山谷藩下屋敷の裏門に向かうために出かけて行った。いくらいい若者でも、ずっと見張られているというのは気詰まりだったので、気がゆるみほっとした。
 いや、そんな間はない。と、独り言ちてから留守の間にするべきことを片付けようと動き出した。
 父親である源太の部屋を調べに、そっと押し入ることだった。
 山谷藩に関することで、何か手ががりがあるのではないかと思ったのだ。根拠はうっすらとだが、なぜか確信のようなものがあった。賊の手ぬぐいから最上山谷藩との関わりを感じたし、育ての両親は、共に山谷藩おかかえの務めをしていたことも偶然が重なりすぎる。
 両親の気のもみ方、度の過ぎた心配加減がどうも解せないのだ。何かを隠している、もしくは何かを知っていて恐れているように感じるのだった。
 約定や取り交わしのような書き付け、または手紙類でも残っていないものかと、文机や引き出しの中身を引っ張り出しては、調べた。
 押入れの中を覗こうとした時、誰かの足音が響いた。親の家なのに息を止め身を潜めた。
­ ーー見つかってしまう……。
 みしり、みしり。
 足音は当に障子一つ向こうで止まった。
「そこの片付けは、お出かけが早かったから真っ先に終えたのよー」
 少し離れたところからの呼びかけに、近くの女中が大きな声で返事した。
「わかりました」
 と、言ってから次第に足音が遠ざかって行った。
 ほっ、と一息ついてから探し物に戻る。すると奇妙な書き付けをいくつも見つけ出した。
 差出人の名はわからないが、光から聞いた山谷藩の正室の名が何度も出てくる。庭師への手紙とは思えないようなものが多数あったが、どれも幼い千鶴の様子を尋ねるものばかりだ。
 意味が飲み込めないものの頭の中に入れておく。また丁寧に元の場所に戻して静かに部屋を出た。

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