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お千鶴さん事件帖 第五話「因縁の玉」③/3 完結編
(五)
朝貸本屋が例の本をもってきてからというもの、千鶴は首っ引きで読みふけっていた。
災害が起こったときにどう対処するべきかをわかり易く書き集めた本だった。炊き出しをしたり、仮設の住居を素早く建てたりすることは千鶴にも想像がつくが、災害発生後の便乗値上げを止めることなどが書かれてあって、なるほどと感心した。鯰の話などどこにも出てこない。それよりももっと生活に則していた。
火事が発生しやす
お千鶴さん事件帖 第五話「因縁の玉」②/3
(三)
「こんちは。貸本です」
翌日千鶴の家に貸本屋の行商人である定次がやって来た。普通の着物に藍染めされた木綿平織りの前掛けをして、己の背より高く細長い風呂敷包みを背負いこんでいるのが行商貸本屋の特徴だ。
上がりかまちに風呂敷を解くと、様々な本が現れ千鶴の目は吸い寄せられる。
毎回新しい本の粗筋などを説明してくれたり、千鶴の好みのものをよく知っていて四、五冊見繕っては置いていく。
本
お千鶴さん事件帖 第五話「因縁の玉」①/3 無料試し読み
第壱章 因縁の玉
店から中庭に出ると、辺りは陽に照らされて眩しかった。地表が揺らめいて見える。今日も暑い一日になりそうだなあと蝉の声を聴いていた。
季節の移ろいは早いものだと仙吉は思う。大坂から江戸へ来て半年がたつ。
大番頭さんから鍵を渡され、言われた通り「南総里見八犬伝」の冊子を十部取りに蔵の中へ入った。この書物は近頃よく売れているのだ。
昨日仙吉が応対
お千鶴さん事件帖「結晶」第四話③/3 完結編
「弱ったなあ。親分に聞いてから……」
「いけませんよ」
と、立ち上がりかける徳三を千鶴は押さえつけて話を続けた。
「これから、カンザシをお城のお姫様にだって売り込まなきゃならないかもしれないでしょう? 度胸試しです。しっかりやってくださいな。ねっ」
「魂胆がばれたらどうすればいいんですか?」
「焼いて食われるようなことにはならないです。つまみ出されるくらい」
「いやですよお」
「じゃあ、わたしが
お千鶴さん事件帖「結晶」第四話②/3
抜いたことなどないと思っていた檜山の刀が、今や賊の刀とぎりぎりと音をたてて噛み合っている。
ーーやられないで! と千鶴の腕にも力が入る。
檜山が真っ先に刀を押し込んだ。しかし、賊も力いっぱい押し返し、やられそうになった。
ああ、と心の中で泣き叫ぶ。しかしそんなことも、しばらくのことだった。
傍目から見ても次第に檜山の力が優勢になるように見える。
ーー檜山様がこんなに強いなんて……。
お千鶴さん事件帖「結晶」第四話①/3 無料試し読み
橋蔵は米と大根を包んだ大きな風呂敷をかかえ、今しがた降り出した冷たい雨の昼下がりを小走りに駆けた。
角を曲がると、「よいしょ」と荷を下ろし団子屋の軒先で濡れないように風呂敷包みの結び目を硬く結い直す。店は込み合って賑やかな談笑が聞こえた。
憎らしそうに天を見上げ、仕方なく小降りになるのを待つことにした。
橋蔵の住む六軒堀長屋から北の堅川を渡ってすぐのところに、相生町二丁目長屋があり、もう目と鼻
「雪華ちゃんのしくじり事件帖2」こちらも、よろしくね
今回のしくじりは、一言で「4キロも太った」編でございます。
少し言い訳をしますと、2022年10月に片肺いっぱいに水がたまるという病にかかり、入院しました。一つの肺に2、3リットルぐらい貯水できるということがわかったのでございます。右側の肺一つで、一応生きていくことはできるのですが、ちょっと動くと息苦しい。十歩ぐらいで、ハアハア息が上がりました。車椅子でないと、移動は難しかったです。
一か月ほど
お千鶴さん事件帖「花火」第三話③/3 完結編
それから程なく橋蔵が深川六軒堀の長屋へ帰ってきた。引戸を開けた橋蔵の濃い影は真下にあったから酷くあわてた。気付かないうちにお天道様はとっくに頭上にあったようだ。続いて檜山の姿も目に入った。
「飯の支度をしてくれないかな、お千鶴」
「はいよ、おまえさん。檜山様もどうぞ。毎度冷や飯しかありませんが、いい頃合の漬物がありますよ。実は私もお腹がぺこぺこなんです」
と、苦笑して檜山を招きいれた。よくある
お千鶴さん事件帖「花火」第三話②/3
千鶴は、最後となった咲の髪結いの日のことを思い出していた。
昼前から、かんかん照りの暑い日だった。細いつるの先の大輪の朝顔は、ピクリとも揺るがない。
隣長屋のお産の手伝いに借り出されたものの、なかなか子は現れず手間どった。あのときばかりは蝉の声がやけにうるさくて、生まれてくる赤子には申し訳ないがイライラしたものだ。そして難産の末にようやく小さな頭がのぞいた。
――深川を案内してあげる。
お千鶴さん事件帖「花火」第三話①/3 無料試し読み
夜空に一筋の閃光が立ち昇る。
江戸っ子が大好きな恒例の両国川開きの大花火が打ち上げられていた。歓声とどよめきが渦巻く。その中、ひときわ大きな「玉屋」「玉屋」の呼び声が続く。
またドーンという地響きと火薬の匂い。
全ての者の目が天に咲く見事な菊、牡丹、柳の花火に向けられる。大人も子供も呆けたように口を開けるだけだ。正気に戻ると「玉屋」の声が聞こえてくる。
玉屋と鍵屋が競って大花火を打ち上げ
お千鶴さん事件帖「片恋」第二話③/3 完結編
四、五人ほど通りや店の人に尋ねたあげく、ついにたどり着いた所はみすぼらしい、あばら家だった.
軒先で子供たち三人が並んで草履作りをしている。一番末の女の子はまだ三つか四つで、兄や姉にまとわりついている。
「突然すみません。おっかさんか、おっとさんはいますか?」さぶを見つけて尋ねた。
「ああ、おっかあなら裏で洗濯しているよ。おっとうは旅籠に草履を届けに行った。おかみさんは、この間お店で見かけたね
お千鶴さん事件帖「片恋」第二話②/3
(ニ)
先に六軒堀長屋に戻った千鶴は、奥の部屋から、小さな中庭を覗く様に少し戸を開けた。そこいらの長屋よりも格別にいい家を、橋蔵の顔で借りることができている。
午後には陽も照り、雪はあらかた消えてしまった。はばかりの横に残る僅かな雪を見つけると、千鶴は、勢いよく飛び出した。両手ですくって、掌に乗るほどの小さな雪だるまをこしらえ、橋蔵に見えるようにどこへ置こうかとしばらく思案する。冷気が身にしみ
自己紹介:小説を書く人に100の質問 後編
Q.51 地の文と会話文、どっちが好き?
どちらも難しいですね。
説明じゃない、気の利いた会話。説明じゃない、読みやすい地の文を目指します。
Q.52 キャラクターの名前はどうやってつけていますか?
キャラクターの性格や雰囲気など、大まかな履歴書を作って説得力のある人物像にできたらいいなあと思います。名前はほんと、何でもいいの、ついてたらいい、ぐらい。A、B、Cにするわけにはいかないので、悩みま
自己紹介:小説を書く人に100の質問 前編
Q.1 筆名(ペンネーム)を教えてください。
牧山雪華(まきやま せっか)と申します。
Q.2 筆名の由来は?
華道の雅号です。
華は親先生から一字譲り受け、雪は、大阪生まれの私にとって憧れ。
Q.3 主にどんな小説を書いていますか?(長編・短編・掌編など)
短編の連作を続けています。4作で長編1作分の横のつながりが完成します。
捕物帖という形で、本格推理ものを目指しています。
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