ええじゃないか、じゃないか?
政治的に抑圧された(と人々が感じる)社会では、人々が直接、体制を批判すると、しばしば弾圧される。
そこで、ある人たちは奇矯な格好をして歌い踊り、走り回る。また、ある者は人殺しなどの絶望的な犯罪に走ることもある。
天変地異が続き、黒船が我が物顔で江戸湾にまで現れた江戸末期、この国でも、各地でええじゃないか、という狂騒が起きた。
今日の日本で、将来に希望の持てる若者の比率はわずか15%に過ぎず、米国や英国、インド、中国、韓国よりもずっと低い(日本財団「第62回18歳調査」)。
衆院補選での自民全敗、東京都知事選での石丸旋風、総選挙での国民民主党やれいわ新選組の躍進、兵庫県知事選や名古屋市長選での大逆転劇は、現状に大きな不満を感じる若者を中心とした有権者の投票行動の変化が影響したとみられている。
日本だけではない。米国でも、国民の不満を吸い上げたドナルド・トランプ前大統領が勝利した。米国では、格差社会が深刻化している。富める者はますます富み、貧困層は明日来る請求書の支払いの見通しが立たない。
今年の大統領選では、恵まれないと自覚する老若男女の多くが、気まぐれで乱暴な発言を続け、刑事裁判で有罪判決を受けたトランプ氏を熱烈支持した。
中国でも、不動産バブルの崩壊をきっかけに景気が悪化し、就職もままならず、将来に絶望する若者が増えているという。
ある人々は、「若者の養老院」に入り、ブラブラして暮らす。中には無差別殺人に走る者もいる。
深夜、数十キロ離れた街に「名物の肉まんを食べにいく」と称して集団で〝サイクリング〟する若者たちの群れが出現した。
中には、中国国歌を歌い、反日スローガンを叫ぶ人もいたが、あまりにも人数が多かったとはいえ、表向きは、ただ、みんなでサイクリングをしただけだ。
2022年に起きた白紙運動のように、体制への抗議の意思を示したわけでもない。
しかし、中国政府はこの集団サイクリングに体制批判の臭いを嗅ぎ取り、直ちに取り締まりに動き出した。
いずれも、根底には市民の生活の困窮、社会への不満がある。
日本では、昭和が終わって35年も経ち、昭和100年を迎えようとしているのに、長く続く不況は終わらず、経済に明るい見通しはない。政治も行き詰まり、社会の閉塞感は強まるばかりだ。
戦後80年の成功ももはや通用しないのに、昭和生まれの〝大人〟たちは、過去の成功体験をなぞるような話しかしない。
この国では、政府を批判しても逮捕されることはないが、狭い社会で実名を出しての発言には、勇気がいるから声は小さくなる。
日々の暮らしがなんとか持っている間は我慢できた。
だが、急速な物価高が進み、若者の間では、現状にも未来にも希望が持てない人が増えている。
匿名のネットの世界では、鬱憤を晴らすためなのか過激な発言をする人が多く、似たような考えを持つ人たちが発信する情報に浸り続ける。
それが進めば、「世直しのために、選挙で〝旧体制〟にNOを突きつけてやろう」となる。
日本をはじめ、今、地球のあちこちの国々で起きている政治・社会の地殻変動は、21世紀版の〝ええじゃないか〟じゃないか?