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第34話:子どもの力

 昨夜のイライラが嘘のように、心地よい幸福で満たされるしのぶの脳。音楽のおかげではない。
 しのぶの心配をよそに、何事もうまくいった土曜日。
 ぶっこちゃんは、いつになく朝から機嫌が良く元気だった。
 ひ孫が来るのを楽しみにして早くから起きたようである。
 メイコたちがやってくると、しのぶは近所の家電量販店に向かった。陳列されている中から手頃な価格のものを選んで買って帰り、湿度35パーセントのぶっこちゃんの寝室に加湿器を設置した。
 その頃までしのぶの感情は、少々ピリついていた。今日の予定がどうなるか、という一抹の不安を抱えていたからである。とにかく予定を実行するのみといきり立って料理やら掃除やらに没頭していた。
 が、その後ピリピリのピの字も消え去る。
 ぶっこちゃんが、お風呂をいとも簡単に受け入れたのである。
 これまで幾度も拒否してきていたのに、ひ孫たちに会っただけで、反応が変化するとは子どもパワーおそるべし。
 風呂には一週間分の汚れが浮いた。
 下着には汚物。
 更には、掃除していたら使用済みの尿漏れパッドが棚やらタンスの引き出しに保管されていた。
 それでも、ぶっこちゃんをきれいにして、部屋も掃除して、しのぶは気分良く、満足していた。
 更には姪っ子がかわいい。
 かわいすぎる。
 おかげでぶっこちゃんも良く動く。
 何て素晴らしいことなのだ。
 翌日の課題は、着替え。
 今後、週一のお風呂はなんとかなりそうだが、とりあえず毎日着替えはさせたい。でないと便や尿で下着が汚れたままで不衛生になってしまう。
 ひとつ解決したら次の欲が出る。
 翌日も朝から着替えて気持ち良くしてやりたい。
 ぶっこちゃんの部屋は、湿度60パーセントくらいになったので、体調も良くなることを期待したい。
 こちらも欲が出るもので、次は布団クリーナーが欲しくなった。だって、マットレスはベッドに固定されていて動かない。布団ですら頻繁には洗わないし。
 どうも、ダイソンが欲しくなってきたぞ。
 そんなことを考えていたら、どうやらぶっこちゃんがお風呂から上がってきたようだ。脱衣場に入ると、ほかほかの湯気の中でぶっこちゃんがズボンを穿こうとしていたのだが、パンツを穿いていない。
「あ、ぶっこちゃん順番が違う、それは脱いで」
「え、脱ぐの?」
 不服そうなぶっこちゃん。
「そう、脱いで」
 ぶっこちゃんはしぶしぶ脱いで、又穿こうとする。
「違う、それは下に置いて、パンツを穿くの」
「下に?」
「そう、下に置いて」
 見ると、またズボンを穿こうとしている。
「それは下に置くの」
「さっき置いた」
 平和な日常が戻ってきた。

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