魔女先生の夢をかなえる授業
僕の学校の先生は、魔女かもしれない。
小学校5年生になって、外からきた新しい先生は、いつも黒い服を着て、いつもにこにこ笑っている。
4年生までの担任の先生と違って、僕たちがケンカをしても、怒らない。いつもにこにこ笑いながら、僕たちに「どうしたいのかしら?」「どう思ったかしら?」と聞いてきて、僕たちはいつの間にか、ケンカをしていたことを忘れてしまう。
先生は、不思議な魔法を使う。
たとえば、かなえちゃんが、給食のクリームスープが入った鍋を転がしてしまった時にも、先生はにこにこしながら後片付けをし、泣いているかなえちゃんに大丈夫だよと言い残し、どこかに消えた。そして、僕たちが他の準備を終えるころ、新しいスープを持って戻ってきた。
どうやって新しいスープを用意したのか。
魔法以外に考えられない。
たとえば、いつもいばって暴れん坊のけんたくんが、先生の前だと、とってもいい子になる。
掃除の時間に遊んでいたけんたくんは、いつもめいいっぱいに怒られて、やっということを聞いのに、先生と短い会話をした後は、いつもよりはりきって、掃除をした。
けんたくんはきっと、魔法で操られているに違いない。
こんなことが続いて、僕たちは裏で先生を「魔女」と呼ぶようになった。
魔女が来て3か月がたったころ、魔女が言った。
「これから毎週金曜日に「夢をかなえる授業」を行います」
「はい!先生」と言って、学級委員長のまなみちゃんが手を挙げた。
魔女がうなずく。
「夢をかなえるって、どんなことをするんですか?」
「それは、いい質問だわ!」
魔女は後ろを向くと、黒板にこう書いた。
みんなの夢
「まずは、みなさんの夢を教えてください」
まなみちゃんが、答えになっていないわ、、、と小さくつぶやいたのを僕は聞き逃さなかった。
教室がざわざわと騒がしくなった。なんだか恥ずかしいような気持ちで、僕たちが戸惑っていると、けんたくんが大きく手を挙げた。
「おれは、ぜったい!!!野球選手になる!」
魔女はけんたくんの方をみて、あら!素敵な夢ね。といった。それを聞いてクラスのみんながパラパラと手を挙げた。ある人はお花屋さんで、ある人は先生だった。たすけくんは飛行機を作ること、いつも飛行機の本を読んでいた。かなえちゃんは美容師、家を継ぎたいそうだ。まなみちゃんは将棋のプロ、毎週末には隣の県まで将棋を習いにいっているそうだ。
僕は背中に、汗をかくのを感じた。僕には、夢がなかった。なにか、僕のなりたいもの、なりたい人を想像したが、何も思いつかない。
魔女と目が合う。魔女は柔らかに笑って、みんなに向けてこう言った。
「夢は職業じゃなくてもいいの。挑戦したいこと、やってみたいこと、行ってみたい場所、なんでもいいのよ。」
なんでも?夏休みが長いといいな?授業は全部体育がいいな?新幹線に乗ってみたい?僕の頭にやりたいことが、どっとあふれた。
どれか一つに絞るとしたら?僕の夢はなんだろう。
ふと、誕生日に食べた大きなケーキが頭に浮かんだ。僕は手を挙げた。
「みたことないぐらいの大きなケーキをたべたい」
みんなが笑って、僕は顔が熱くなった。
「どのくらいの大きさがいいの?」
「すごく大きいやつ!10段ぐらいあって、全部味が違うんだよ」
僕が一気にいうと、魔女が「いい夢ね」とみんなに魔法をかけた。
魔女が魔法をかけたことで、みんなが、「それいいね」「私もたべたい!」と盛り上がり、僕はむずむずと恥ずかしいようなほかほかした気持ちになった。
みんなの夢が黒板に出そろったところで、魔女がパンと手を叩いて言った。
「今から一冊のノートを配ります。ノートの表紙に夢と名前を書いてください」
僕は、ノートの表紙に「10だんの大きいケーキを食べる」と書いた。
「このノートで夢を叶えていきます」
ノートで夢を叶えるなんておかしい話だ。でも、先生は魔女だからなんでもできるのかもしれない。
「今日の課題は、みなさんと同じ夢を叶えた人がいるのか?夢をかなえた人たちが、何をしてきたか?を調べてノートに書くことです」
僕たちは、図書室とパソコン室に移動して、それぞれ調べた。けんたくんはYouTubeをみながらイチローはすげー!と叫んでいる。たすけくんは、いつもの本を開いてノートにどんどん書いている。僕もPCの前に座って、検索をした。
10段のケーキ
すると、10段のホットケーキの写真がたくさん出てきた。続けて、「作り方」と検索してみる。
だけれど、僕の思い描いていた10段ケーキは見当たらない。試しに2段ケーキと打ってみると、「重さでつぶれてしまう」とか「素人には難しい」とかできない理由がたくさん見つかった。調べれば調べるほど、僕の夢は叶わないように感じた。
僕は、がっかりしながら、ノートにこう書いて、提出した。
1日目 金曜日
10段ケーキは売っていないので、作るしか方法がないようでしたが、作った人はみつかりませんでした。
2段のケーキも重くてつぶれてしまうから、作れないとおもいました。
翌週、魔女からノートが返された。
「先生から返信を書いています。それを読んで、今日一日、新しく発見したこと、自分で思ったこと、行動したことを書いてみましょう」
実現した人はいないのですね。もし、実現したら、世界で初めての人になれますね!
できない理由を探すことは、簡単です。
次は、どうやれば、夢は叶うか考えてみましょう。
先生より
魔女はいいかげんだ。魔法でも使わないと、無理だと思った。
クラスのみんなはノートをみながら、笑ったり、友達と見せ合ったりしていたが、僕は絶望的な気持ちになった。こんな夢にするんじゃなかった。
できるようにするには、魔法を使うしかない。
僕は魔女に魔法の使い方を聞いてみることにした。
2日目 月曜日
先生は前に、こぼしてしまったスープをもと通りにしていました。
実は、先生は魔法が使えるんですか?だからかなえちゃんのこともおこらなかったんじゃないですか?
僕にも魔法を教えてください。
次の日、魔女からノートが返ってきた。
かなえさんを怒っても、スープはもとにはもどりません。
だから、「自分に今できることは何か?」を考えました。
そして、全部の教室を回って、残っていたスープを少しずつ、分けてもらってきたんですよ。
先生が先生にできることを、あきらめないで考えたからできたのです。
夢を叶えるためにできることは、本当にないですか?もう一度考えてみませんか?
先生より
魔法じゃなかったことにがっかりしつつ、「自分にできることは何か」という言葉について考えてみた。
3日目 火曜日
まずは1段のケーキを作ってみることにしました。
それはいいアイデアですね。まずは自分にできることをやってみて、広げていけるといいですね!
先生も楽しみにしています。
先生より
早速、ケーキの作り方を検索してみると、目がぐるぐるとまわる。
そこで、お母さんに一緒にケーキ作りをしたい。と伝えると、キッチンの材料や道具を確認しながら、僕にいろいろ教えてくれた。
お母さんと一緒に、必要な材料をメモした。卵は家にあるけれど、他の材料はほとんど買わないといけないみたいだった。
10段のケーキを作るなら、きっと、沢山の材料と人手がいるなと感じた。
4日目 水曜日
ケーキの作り方を検索してみました。
10段のケーキを作るなら、沢山の材料と手伝ってくれる人が必要だとおもいました。お年玉で足りるのか?手伝ってくれる人をどうやってみつければいいのか?を考えてみます。
どんどん、考えることが見つかっていて、とてもいいですね。
困ったことがあったら、お父さんやお母さんなど、人生の先輩に相談してみるとどうでしょうか?
先生より
僕はさっそく、お父さんに、相談してみた。
夢を叶える授業のこと、10段のケーキを作るのは難しそうなこと、まずは1段からチャレンジすること、でも、お金や人の助けがいること。
お父さんは、黙って僕の話をきいてくれた。
そして、お父さんがやっているお仕事の話をしてくれた。お父さんの仕事は、お客さんからお金を預かって、代わりにお客さんの会社をアピールすることだった。
お客さんが、お父さんを信頼してお金を預けてくれるのは、①メリット(良いこと)②コスト(かかるお金や時間)③計画(いろいろな課題をどうやって解決するか?)を説明して、お客さんもやりたいとおもってくれるからなんだと教えてくれた。
5日目 木曜日
やらなくてはいけないことや、調べなくてはいけないことが沢山わかりました。まだまだ沢山ありそうで、10段ケーキが本当に作れるのかはまだまだわかりません。
あきらめないことで、夢に一歩一歩近づくことができます。
先生より
そして、夢をかなえる授業の金曜日を迎えた。
「みなさんはこの1週間で、夢をかなえた人達が何をしてきたか?を調べ、自分で考えて行動してきました」
「次に、1年後どうなっているか?半年後までにどうするか?1か月後は?1週間毎の目標は?今日一日することは何か?を書いてみましょう」
大きな夢も小さい時間に区切ると、進んでいけますよ。と魔女は付け加えた。
僕はノートの新しいページにこう書いた。
「10段ケーキを作るための計画書」
まずはお父さんとお母さんに、みとめてもらうんだ。
僕はワクワクして、計画を書き初めた。
材料、大きさ、そうだ、大きいケーキを積み上げることができるのか専門家の先生にもお手紙を書いてみよう。
僕は、昨日よりも夢に近づいた気がして、ワクワクしながらノートにつづった。
魔女の先生は、いつも、いいねとニコニコしながら、僕たちに魔法をかける。来週はどんなことを教えてくれて、どこへ行けるのだろうか?
魔女は言う、「夢は変わってもいいです。でもね、今何をすべきか?を考えて行動していくためには、どうなりたいか?のイメージが重要です」
僕の夢は、少しずつ動き出している。
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