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完璧な空調

バスルームから出てくると、空調の冷気に包みこまれ生き返ったような気持ちになる。
ドレッサーの照明をつけ、セットされているCDをかけると、エリス・レジーナ・ジョビンのメローなボサノバが流れはじめた。
ショートバスローブの裾を開き、ベッドエンドのスツールの上に片方の足を乗せ、両手を使ってローズヒップローションを丹念に滑らせてゆく。
ローションで滑らかになった手の動きは、なんのためらいもなく、大きく円を描きながら太腿からヒップへと移動していく。そして再び太腿へと戻り、そのまま真っすぐと、膝を経由してつま先へと向かう。それを二回程繰り返して今度は逆の脚にも同じように塗っていく。
入浴で上気した体にローションを延ばしていくと、白い肌の下に隠れていた青い血管網がはっきりと浮き出る。

もう一度つま先から太腿まで戻り、軽くマッサージをしていると、わたしの亀裂の中に突然潤いを含んだ緩みを感じた。その部分をなぞってみると、ローションとは別な性質の滑らかさが指に伝わる。
私の中はすでにかなりの量の愛液で満たされていた。
そのままクリトリスまで指を滑らせると、鋭い電流が体全体に走った。
一度、そこから指を遠ざけるが、またすぐにクリトリスへの刺激を再開してしまう。次から次へととめどなく溢れ出てくる愛液に比例して、快楽の階段を一歩一歩登るような感覚に歯止めがかからなくなり、指の動きも速まってしまう。

ドレッサーの鏡に映る自分の姿が、尚更わたしを煽情する。昇り詰める直前で、このまま後ろから彼のペニスを受け入れている姿を想像しながら指を奥まで進めた瞬間、膝が崩れ、一気に無重力の世界へと押し出されていった。しばらくの間、虚脱した体をスツールにもたれかからせてぼんやりしていると、ドレッサーの上に置いてある携帯電話のディスプレイが着信を知らせている。そのディスプレイを眺めながら、いつの間にあんなに濡れてしまったのか…、考えてみた。
入浴の最中、数日前彼と会ったとき、たわいない会話の中で彼が作った何気ない笑顔が、ほんの一瞬だけ頭の中をかすめたことを思い出した。それもすぐに消えたはずなのに…。

彼のことを想い浮かべただけで反応してしまう。
彼とのセックスを想像したり、意図的に淫らになりたいと思ったときだけではなく、ただ彼と話をしてるところや彼の顔がフッと、頭に浮かんだだけでこんな風になってしまうことがあるような気がする…。

終ったあと、いつまでも火照っていた私の体に、また空調の冷気が心地よく当たっている。

Mr. D

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