見出し画像

おかしな私のおかしな物語

おかしな私を思い出す な話。

子供の頃から、自分が身近な周囲の人たちと比べて感覚や思考が少しズレていることには気づいていた。

そしてそのズレを治そうとすればするほどズレていくことに、どうしたものかとよく悩んでいた。

自分は特別かも!と能天気に思えたならハッピーだったかもしれないが、どうしたらこのズレを治せるだろうか その一点のみを考え続けていた為、思春期・成人期どちらもずいぶんと生きにくかった。

家系的にも鬱気質の親族が多く、気分や心身状態の高低差に振り回され社会から一時的に隔離せざるを得なくなってしまった彼らを見ては「私は彼らのようにおかしくなってはいけないのだ」と脅迫観念のように繰り返し心の中で思い続けていた。

もはやその思考自体がすでにちょっとおかしかったのだけれど、私は私自身が生み出した謎の正しさを信じ、おかしくならないように細心の注意を払った気になって日々を過ごしていた。

元来傲慢で気性の激しい性格だったが、生きている中で蓄積された真っ黒な感情や恨みや哀しみは社会の中でマイナスにしかならないことを早々に悟り、表面上は只々穏やかに、マイナスな気持ちは吐き出すことをせず心の底に畳んでしまっていた。

性格修正効果は成功し、周囲の人からは明るく人当たり良い性格だと言われていたくらいだ。

あるとき、小さな出来事をきっかけに畳んでいたものが膨れ上がり全身の毛穴から溢れ出してきた。

それはドロドロに濁っていて、暗くて、冷たくて、時に相反していて淋しいモノたちだった。

憎くて憎たらしい。
情けなくて惨めたらしい。
私自身を愛したいのに殺したい。

形だけでもそんなモノたちを洗い流そうと、湯船に浸かると40度を超えた湯ですら冷たく感じ、湯の中で身体が震えた。

涙が気付かぬうちに頬をつたり、喉の奥が狭く息苦しくなる。

あぁ、やっぱりおかしくなっちゃったんだな。

冷えゆく身体を抱えながら、ぼんやりと思い目を瞑る。

どの位の時間を湯船の中で過ごしただろうか。

パチン 
パチン

瞬きするたび、恨み恐れていた人たちの顔が弾け、愛しい人たちの笑顔が脳裏に浮かんだ。

涙が止まり呼吸も整う。

シャワーの栓を捻ると熱々の湯が全身を駆け巡った。

熱い、気持ちいい。いい気持ち。気持ちいい。

シンプルな気持ちよさにひたすら身を委ねる。

本当は認めたくなかったけれど、やっぱり私はどこかがおかしかった。

だけれども、このおかしさは大なり小なりきっと誰しもが気付かぬうちに抱えているモノだ。

瞬きしながらおかしさの彼方と此方を行き来する。

なぜだかその瞬間、おかしな自分が魅力的にみえた。

この辺りの人はみんな気狂いさ。
俺も気狂い、アンタも気狂い。

チェシャ猫の笑い顔を思い出す。

たとえ細心の注意を払っていたって、おかしさの沼にはじめから全身突っ込んでいたなら意味はない。

長年戦い続けていたおかしい私撲滅運動は、この日を境に消滅した。

この七面倒な思考や行動も含め、私らしさ
というものだと気づいたから。

#日記 #エッセイ #物語 #鬱 #アリスインワンダーランド #チェシャ猫 #セルフコントロール #自己 #他者





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?