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困難な状況に置かれた女性たちへのエンパワメント - ラオス障がい作業所から -誰ひとり置き去りにしない社会へ -vol.2

誰ひとり置き去りにしない社会をめざして・・・
さまざまな現場の声、まなざしをSDGsとNVC(Nonviolent Communication)の観点から紹介する連続企画です。

5月18日に開催した第2回目のテーマは
困難な状況に置かれた女性たちへのエンパワメント - ラオス障がい作業所から -  Support for Woman's Happiness(SWH)の 福井里佳さんから伺いました。

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Support for Woman's Happiness(SWH)
2017年障がい者当事者団体と共にラオスの首都ビエンチャンに障がい作業所ソンパオを設立。主に手足に障がいのある25名が働き暮らす施設となっている。将来的に障がい者が自立して暮らし、施設を運営できるようになるためには、独自のブランドの確立と、マーケットの確保、すなわち日本などの企業から受注を受け製作する工場としての役割が必要との考えの下、ブランド・フランムアンを立ち上げ、少数民族の生地を使ったクオリティの高い製品づくりを指導しながら、日経企業から手まり・ノベルティ等の受注を開始した。この活動を通じて、日本の障がい事業所と一緒にモノづくりをす協働する機会を得、事業及びマーケットが広がりを見せている。2020年ジャパンSDGSアワード 外務大臣賞 受賞。 

情熱があるから立ち上がる。でも、その情熱が故に葛藤も起こる。

何か大事なことのために行動する時、その源には情熱があります。けれどもその情熱があるが故に、相反する考えを持つ人が許せなかったり、怒りや悔しさといった感情にのみこまれてしまうということはないでしょうか。本企画をナビゲートする私(今井)自身も、まさにそのパターンに陥っていました。環境NGO活動に携わっていた時代。「自然と共生する社会を」と呼びかけながら、異なる価値観を持つ人たちがどのように共生してよいかわからず、時に相手を説得しようとするなか、次第に感情的に消耗していったのです。

でも、私たちを突き動かす情熱は、大事なものがあるからこそ存在する。分断のかわりに、つながりを育む力を手にすることだってできるはずではないか。そんな問いを持つなか出会ったのが、NVC(参考:NVC -人と人との関係にいのちを吹き込む法(日本経済新聞出版社)」でした。感情の奥には大切なもの(ニーズ)がある。それにつながることで「感情にのみこまれる」代わりに「感情を手がかりに、大切なものを大事にするという選択を手にする」ことができる。NVCはそんな可能性を示すコミュニケーションの手法であり精神性です。

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今回のゲスト、福井里佳さんもまさに情熱の人。彼女の生い立ちから、彼女がSupport for Woman's Happiness(SWH)に携わることになった道筋を伺いました。

原体験となる、世界との出会い

Support for Woman's Happinessの理事のほか、教育やリーダーシップをテーマ領域で活躍する福井さん。現在に至るきっかけとなる原体験は中学校で体験した総合学習にあったといいます。

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福井里佳さん
Support for Woman’s Happiness 理事
岐阜県立可児高校卒、一橋大学社会学部卒。三井住友信託銀行入行後、5年間企業年金制度業務に従事。その後、松下政経塾に37期生として入塾。在塾期間中には、「国際協力、女性支援」をテーマに研究を行う。SWHでは事務局長(現在は理事)として、ラオスでの手毬アクセサリー、石鹸、ボディオイルなどの製品開発、製造指導、マーケティング等を行う。現在は、ラオスでの現場経験から「教育」の大切さを痛感し、一般財団法人活育教育財団のプロジェクトマネージャーとして、中高生向けのキャンプ、学校法人設立を目指し活動中。またAVPN( Asian Venture Philanthropy Network )でLeadership Programme Consultantとして、日本のソーシャルセクターのリーダー達に向けた研修事業の企画、運営を行っている。

アフリカの惨状を伝える「ハゲワシと少女」の写真でピュリツアー賞を受賞した後、多くの批判を受けて自殺したカメラマンの存在。テロリストが運び込まれる紛争地帯で活躍する医師の持つ信念。インドの花嫁の持参金殺人という事実に触れた衝撃...。そして、国際協力に興味を持っていたことから友人に勧められて手にした元世界銀行副総裁の西水美恵子さんの本の言葉が、社会人になった福井さんの心を動かしました。それは、貧困の原因は「悪統治」にあるということ。政治に関心を持った福井さんは松下政経塾に入塾し「世界における女性を取り巻く問題」について研究します。貧困の連鎖を断ち切るために、女性に焦点をあてた支援が効果的であると知り、女性の自立支援プログラムに取り組みたいと思ったのです。

貧困の連鎖を断ち切るために  - ラオスの女性の自立支援から見えたこと -

福井さんが理事として関わるSupport for Woman's Happiness(SWH)が誕生したきっかけは、SWH代表の石原ゆり奈さんの、途上国に学校をつくる活動にありました。学校ができても女の子や障がい者が来ていないということに気づき、学校に来れない人たちをサポートするためにSWHを立ち上げたのです。

SWHは「世界の女性たちが、自分らしく自分の人生を生きる事」を活動理念に、ラオスで自立支援や職業訓練支援を提供しています。

内陸国ラオスはアジア最貧国の1つ。過半数を超えるラオ族が率いる社会主義の国で、ポリオが原因で障がいを負った人も多く、伝統的に障がい者が差別の対象となる傾向があるといいます。

SHWはジャー(Jaah Andersen)さんという障がいを持った女性リーダーが立ち上げた障がい作業所(XonPhao:ソンパオ)を支援することによって、独自ブランドFranMuan(ラオスの国花プルメリアのフランス語より)や、日本企業から発注を受けた製品のマーケティング・販売の支援を行っています。

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(以降、写真・資料はSWH福井さんより提供いただいたものです)

現在は30人を超える人たちが働いて、住む家がない人のために寮も用意されている作業所。

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少数民族レンテン族の人が藍染した生地を使った小物など、デザインや質の高さからも選ばれる商品を数多く開発。ラオスと日本の伝統をかけあわせた「結びの和」プロジェクト、ラオスと日本の商品者同士が支えあって生まれた桜彩(SAYA)という「てまり」など、コラボレーションも展開しています。

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ラオスで障がい者を雇用する団体がラオスにあまりないことから、男性たちの働く場として自然素材の石鹸づくりを始めたり、オーガニックのハーブティーをつくる農園での仕事を得たり。コロナ禍の今は、各地でラオス展を展開しています(現在も展開先を募集中だそうです!)。

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日本に、ジェンダー平等を

「世界経済フォーラム(WEF)」による「ジェンダーギャップ指数2020」で日本は121位。政策の現場にも女性はまだまだ非常に少ないのが現状です。震災時の避難所における女性への暴力や、「生理の貧困」などの課題をなくしていくために、日本でもジェンダー平等(SDGs目標5)の達成に向けた取り組みの加速が必要です。

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「共感」の力とリーダーシップ

最後に福井さんからこれからのリーダーに必要な力としての共感。そして共感的なつながりをつくるためのシンプルな方法としてNVCの紹介がありました。

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NVCの4つの要素(観察・感情・ニーズ・リクエスト)
何が起きているかを評価・解釈を交えず観察し、動いた感情とその奥にある大切なもの(ニーズ)に気づいていく。そこから自分や他者に働きかける。

終了後も多くの参加者が残り、家族を大切にするラオスの人たちにとって、家族行事への配慮が必要なこと、観光産業により裕福で医療も無料で受けられるルアンパバーン、人間関係の問題にNVCがいかせると感じたことなど、会話が弾みました。

参加者から寄せられた声をご紹介します。

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次回は6月4日: 「対話」を通じて地域の未来を紡ぐ - 気仙沼・復興の現場から

次回は6月4日: 「対話」を通じて地域の未来を紡ぐ - 気仙沼・復興の現場からをテーマに、気仙沼市の三浦友幸さんをゲストにお送りします。

三浦さんは、巨大防潮堤の建設計画に対して「対立」ではなく「学びあう」場をつくり、対話を重ね、地域の人たちが大切に思うもの - 地域の美しい砂浜をできる限り守る形での住民案の作成・合意形成 - の実現に尽力された方です。彼との出会いは、私がNVCのような考え方に関心を持つようになった大きなきっかけとなっています。

イベントのお申し込みはこちらから。無料で気軽に参加いただける企画ですので、多くの方に参加いただけると嬉しいです。

誰ひとり置き去りにしない社会に向けての挑戦。その力を少しでも大きく育んでいけたらと願っています。「SDGs -つながりを知る・つながりを育む」のワークショップやNGO/NPOの方向けのワークショップにご関心がある方は気軽にご相談ください。

CNVC認定トレーナー / yukikazet inc.
今井麻希子