2次会デミグラスソース
『くるんじゃなかった』
十年ぶりの高校同窓会。
同窓会とは名ばかり、ただの自慢大会だ。
やれ肩書は、やれ年収は、……バカバカしい。
俺には自慢できるものなどない。ただの安サラリーマンだ。悪いか。グビリとビールを飲み干す。
「楽しんでる?」
背後からの声に振り向くと、そこに髪の長い美女がにっこりしていた。
高校時代さほど仲良くなかったはずだが、好意的な笑みをみると、向こうはそう思っていないらしい。
「全然」と首を振ると、「じゃあさ、二人で二次会しない?」といたずらっぽく誘ってきた。
チェーン店の居酒屋に移って、一時間。
俺は彼女相手に喋り続けていた。上司の愚痴、同僚への妬み、どんな話も彼女はやさしく聞いてくれる。
あー幸せだな。
先ほどの一次会が中身のないジャンクフードなら、彼女との二次会はさながらビーフシチューだ。じっくりコトコト煮込んだデミグラスソースのよう。安らぎと深みがある。生涯の伴侶になってほしい。
「……大変だったわね。じゃあさ、この奇跡のブレスレットつけてみない? いっぱいいいことあるよー。上司も死ぬよー」
にこにこにこ。
煮込みすぎたデミグラスソースにはえぐみもあるからご用心。
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