3/100 平松洋子著「夜中にジャムを煮る」/散らかった台所からの丁寧な暮らし
認可外保育園に子を預けるようになって2日目。やりたかった仕事は子を預けている間、ミーティングの準備も子が昼寝している間に済ませる事ができ、昼食もゆっくり静かに食べた。
子がいないとこんなにも仕事が捗るのか、という事にびっくりする。昨日感じていた背徳感、罪悪感のようなものは消失して、思った通りに仕事ができた満足感だけが残る。
そんな私が仕事をおさめた後にやった事。それはビールを飲みながら、久しぶりに手のこんだ料理を作る事だった。
オレンジを皮と身に分ける。
身は袋を取り除いてバラバラにする。
形が悪いものはミキサーでジュースにする。
皮は白い部分を取り除いて千切りにする。
鍋で砂糖をカラメルにする。
ジュースにスープストックを混ぜたもので煮る。
しばらく煮込んで剥いた皮とバターを入れる。
醤油や塩で味を整える。
ここまで正味約30分。
それから鴨の下処理をしたり、付け合わせの小松菜を茹でたり、最後に鴨を焼いたり、総じて1時間を超える時間を料理に費やすこととなる。
料理をしながらああ、今日は丁寧な暮らしだなあと思う。そして丁寧な暮らしに関して最近感銘を受けた本、平松洋子著「夜中にジャムを煮る」の情景が頭に浮かぶ。
もうひとつ、密かなたのしみを覚えた。ジャムは夜ふけの静けさの中で煮る。世界がすっかり闇に包まれて、しんと音を失った夜。さっと洗ってへたをとったいちごをまるごと小鍋に入れ、砂糖といっしょに火をかける。ただそれだけ。すると、夜のしじまのなかに甘美な香りが混じりはじめる。暗闇と静寂のなかゆっくりとろけてゆく果実をひとりじめにして、胸いっぱいに幸福感がみちる。
平松洋子著「夜中にジャムを煮る」
実際煮たのはオレンジだし、慌ただしい夕食時だし、音を失ったどころか、子どもがみている動画のナーサリーソングがエンドレスで流れ続けていたのだけれど。
それでも、砂糖を火にかけ、そこに果汁を加えるようなひとときというのは。とても素敵だ。まさに胸いっぱいに幸福感が満ちる。
丁寧な暮らしとは程遠い、散らかった台所でも、平松洋子とシンクロしている心持ち。