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29/100 エイミー・E・ハーマン著「観察力を磨く名画読解」/ 自分を変える、ひとつの方法

10代の頃からふいにとられる写真が苦手だった。原因は猫背とO脚。意識すればきちんと立てるのだけど、その集中力は「写真撮ります」と声がけされてしばらくの間しか無理。ふいにうつりこんでしまった写真をみると落ち込むから、いつからかカメラを避けるようになった。
ところが子を産んでから、写真にうつりこむ機会が増えた。彼が娘の動画や写真を撮るような時、子の近くにいることがどうしても多く、猫背&O脚気味でだらしなく立つ自分の姿を直視せざるをえなかった。
特にこの前旅行に行った時、「みてね」のアプリに彼がアップロードした写真は最悪。そこに写っていたのは子の背中を猫背&O脚で見守る私。いい加減なんとかしなきゃ、という思いがそれをきっかけに強くある。

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2020年に読んだ本、いや、ここ数年で読んだ本の中でいちばんハッとさせられたのがこの本だ。

この本で紹介されているのは、アートを詳細に観察することで観察力をあげるメソッド。FBIやニューヨーク警察でも取り入れられているこの技法は、いかに自分が普段、偏ったものの見方をしているかを気づかせてくれる。

本の中で紹介されている写真のひとつに「泣き崩れる女性を心配そうに見守る女の子」がある。それを私は、悲嘆にくれている母親を子供が心配している、と理解したのだけど、よくみると、写真の後方には飛び跳ねて喜んでいる人たちがいる。そう、それはオバマ大統領が誕生した時の、アフリカ系アメリカ人コミュニティの歓喜の瞬間だった。
分かりやすい情報だけを咀嚼してそれ以外の情報を遮断する。これを気づかぬうちに誰もが幾度となく繰り返す。

このメソッドは何も、FBIや警察といった捜査機関に有効なだけじゃない。たとえば子どもやパートナーにイライラする時、実は自分のバイアスがかかった状態で解釈をしていることが大いにある。
たとえば睡眠不足の時だ。普段に比べてパートナーの言動が気に障る。冷静にそのシーンを思い返せば、カチンとしたその一言は、実はパートナーの口癖だったり、つまり相手には悪気がないケースがある。そう、体調が思わしくない時というのは、受け取る情報を自分自身が歪んで受け止めがち。
そして「体調」をトリガーにせずとも、そもそも自分の事象の受け止め方が歪んでいる可能性があること、そのことに自覚的になるだけで、ずいぶんと生きやすさは変わる。この本を読んで、救われる人は多いのではないか、そう思う。

もうひとつ、私がこの本を読んでから意識するのは、自分を客観視することだ。前述した猫背&O脚なんて、10代の頃からずっと気になっていた。それを43歳の今にいたるまで、放置していたのはなぜ?それは見たくないものをみないようにしていたから、それに尽きるのだと思う。

現実を、つまりイケていない自分を直視する。そして卑下したり悲観するのではなく、どうすれば少しでもマシになるか考える。

知覚が変われば、世界が変わる。この本を読む前とあとで、自分がどう変わったかを実感するために、最初に紹介したルネ・マグリットの「肖像」を見てほしい。初めて見たときは風変りな静物画ぐらいにしか思わなかったものが(ひょっとすると、絵には目もくれず先へ進んだかもしれない)、今や可能性の塊に見えるのではないだろうか。もの同士の位置関係、グラスのしみや鋭い反射、質感、におい、現実的な部分も非現実的な部分も、残さず観察しよう。以前は見えなかった、どんなものに気づけるだろう。
絵そのものは変わっていない。変わったのはあなただ。今のあなたには、大事なものが見えている。
エイミー・E・ハーマン著「観察力を磨く名画読解」

知覚が変われば、世界が変わる。この気持ちを忘れずに、不都合な事実ともきちんとシンクロする。そうやってどんどん変わっていきたい、そんな心持ち。


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