20/100 池澤夏樹著「スティル•ライフ」/自分のご機嫌を保つには
アメリカ西海岸に本社がある会社に勤めている。前職の本社は同じアメリカでも中西部のシカゴで、その時から随分と変わったのがミーティング時間だ。以前は本国と連絡を取るなら、日本時間で言うと午後10時。シカゴは午前9時で皆が出社したタイミング、だからとても都合がよかった。
ところが今は、アメリカの西海岸とやりとりをするから、ゴールデンタイムは午前中。最近は朝8時から、何らかの予定が入る日々。夜型の私はこのサイクルがしっくり来ず、寝坊する訳ではないけど調子はイマイチ。特に娘の寝かしつけに失敗すると、そのまま一緒に寝てしまう事がよくあり、結果私の自由な時間が減る。そしてそれがメンタルに影響する。
子を寝かせるのに手こずった晩が続くと、メンタルとフィジカルのご機嫌のバランスに頭を悩ませる。朝が早いのだからまずは寝て、そしてもし起きれたら自分のことをすればいい、そう考えるフィジカル重視の自分。いやいや多少眠くても、まずひとり時間の確保でしょ。睡眠不足になろうといいじゃない、と考えるメンタル重視の自分。
実際はもう少し複雑だ。疲れ具合ややりたいことのやりたさ具合、あるいはコミュニティや知人のメールに返信といったTodoなタスクとの兼ね合い。耳を傾けるべき内なる自分の声。どちらが自分にとってよさそうか?
幸い先日はメンタル重視の結果、友人から頼まれていた事や主催するイベントの準備を一気に終わらせ、結果前日より気分は上々、日中も対して眠くはなく、とてもご機嫌な1日を過ごした。
そう、自分のご機嫌を保つとは、なかなか手間のかかる作業だ。自分のことなら分かる、というのは大きな勘違いで、現に43歳の私は、未だにメンタルとフィジカルのバランスに苦慮する日々。だから仮説を立てて試して検証して、自分に対してもPDCAを回していく。
池澤夏樹の小説「スティル・ライフ」にこんな一説がある。
引越なら手伝うからと言っても彼が取り合わなかった訳がそれで明らかになった。彼はリュックを背負い、鞄を両手にさげてぼくの家の玄関に立っていた。ぼくはあきれて彼を見た。
「これで全部だ」と彼は言った。
「本当にそれだけなの?」
「うん、身辺にものがたまるのは嫌いなんだ。慣れると、たいていのものはなくてもすむよ。去年まではあのパソコンもなかったから、本当にタクシー一回で引越がすんだ。電車で引越したこともある。この仕事が終わったら、パソコンを始末して、またもとどおりに身軽になれる」
まるで心からその日を待っているようだった。
池澤夏樹「スティル・ライフ」
この小説を読むたびに、「身軽」への憧れを感じる。それは「欲」からの解放でもある。
自分のご機嫌に神経を研ぎ澄まし、PDCAを回していけば、いつかこの境地にたどり着けるのだろうか?いつかはそれくらいシンプルに生きたい、この小説の登場人物とシンクロしたい、そんな心持ち。
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