13/30 向田邦子著「父の詫び状」/忘られぬ味
先週、友人と外食をした。家族以外との外食は実に2か月振り。岩がきにとり貝、とうもろこしの天ぷらと、自宅やテイクアウトではなかなか味わえない品々を堪能。久しぶりの生ビールも最高だった。
この話、最初は公にしないつもりで、というのもご存知のとおり、緊急時代宣言明けとはいえ、多くの人はまだ自粛モード。帰り道にタイムラインを眺めながら、まあ、わざわざ呟かなくてもいいかなと画面を閉じた。
ただあの夜のことは、この先もきっとずっと覚えている。土砂降りの雨のなか向かった、久しぶりの居酒屋。後ろめたさと高揚感。そしてきっとその気持ちを、店主と、そして店内にいた他のお客さんとも共有していた。
「おいしいなあ、しあわせだなあ、と思って食べたごはんも何回かあったような気もするが、その時は心にしみても、ふわっと溶けてしまって不思議にあとに残らない。
釣り針の「カエリ」のように、楽しいだけではなく、甘い中に苦味があり、しょっぱい涙の味がして、もうひとつ生き死にに関わりのあったこのふたつの「ごはん」がどうしても思い出に引っかかってくるのである。
向田邦子著「父の詫び状」
あの場にいた誰もが、久しぶりの外食に舌鼓を打った。戦下の中やけくそに食べた天ぷらと肺病を患ってた時に食べた鰻重と。それを忘れられぬ味と振り返った向田邦子とシンクロする、そんな心持ち。