わたしはキオビエダシャク。
せっかくの澄み切った青空なのに、窓からのぞいた景色に映えるのは黒とオレンジ。
羽を休めるのに丁度いいのだろう。陰になり、ところどころ枯れている垣根にたくさんの黒とオレンジが見える。
窓を開けなくてよかったと、胸をなでおろして部屋から出る。
◆
少し憂鬱になった朝の時間を切り替えるために、パソコンを立ち上げる。
話題になっているnoteがあったので、あたたかいコーヒーをいれて読んでみることにした。
◆
耳なじみのある方言、同じように使っていた「けんじゅう」。子どもたちの様子も地方だと似たり寄ったり。たった一つを除いて。
この違いはとてもショックだった。
この違いはとても大きな違いだった。
「中学校を選ぶ」という選択肢が存在していることだ。
団地の子どもたちに「中学校を選ぶ」という選択肢は無かった。中学校を選べるのはほんの一握りのお金持ちで「ふつう」じゃなかった。その地域の市立中学校に行くことが当たり前だったし、誰も疑問に思ったことがなかった。親も、子どもたちも。
でも、もうそこから人生に「格差」が生まれていたんだ。
いや、本当はもっと前から生まれていた。
自分たちが知らなかっただけ。見えていなかっただけ。体験しなかっただけ。
親が知らない世界を、子どもが知ることは難しい。
だから当たり前に団地という社会の「ふつう」で生きてしまった。
◆
noteを読んでいて、知らない単語がたくさん出てきた。日本語として読めるのに、全く知らない世界の言葉のように感じた。自分の無知を知り、頭を金槌で思いっきり殴られたような衝撃だった。
「世界に置いてかれてた」
そのことさえ気づいていなかった。
別世界があることを知らなかったのだから。
両手を伸ばして手が届く範囲と、中学校の校区内が世界だった。
この世界では、大人になるまで親元で育ち、就職し、結婚し、子を産み、育てる。それが繰り返される。
「社会を創る層」と「そうでない層」の「そうでない層」。創られた社会で「自分は視野が広い」「自分は物事が適切に捉えられている」と疑うことなく生きている。
そして、これを「幸せ」と表現する。
「結婚して、家を建てて、赤ちゃんが生まれて、本当に幸せだね!」
だから幸せなんだと思うようにしていた。
不幸せではない。これは間違いない。でも、望んだ幸せの完成形かと言われたらイエスとは言えない。じゃあどんな幸せを望むのかと言われてもうまく言えない。きっと別世界の幸せなのだろう。
◆
「もし宝くじが当たったらどうする?」
この話題になったとき、なんの躊躇いもなく、自然に「死にたい」と思った。この発想に至ったことに自分でも驚いたけれど、順序立てて考えるとそんなにおかしいことじゃないと思う。
たくさんのお金がある→死んでも周りに迷惑をかけずにすむ
お金さえあれば、きっと子どもも大きくなれる。愛情は他の人が代わりに与えてくれる。
自分の存在価値は、お金に換えられる。
世界に置いてかれた、社会を創らない層でどっぷり生きてしまったから、自分には世界を変える力も、世の中の仕組みを創ることもできないし、今更興味が無い。
生きていても、死んでいても、無害。
◆
黒とオレンジの子どもたちは垣根の葉っぱを食べて育つ。
人間が美しく整えた垣根を、生きるために必要だからと言って断りも入れずに食べ続け、枯れさせる。
そして大人になり、黒とオレンジは垣根に子を産む。
黒とオレンジは垣根を食べることもないし、人間にも害はない。
だけど2週間ほどで死んでしまう。
我が家の駐車場に散ったたくさんの黒とオレンジ。
これはわたしだ。
何も知らずに、自分の生きてきた道が「ふつう」で「正しい」ことだと思っていて、創られた社会でただただ消費して、子孫だけをこの世に残し、散っていく。自分では何か成し遂げた気持ちになっているけど、社会に、世界に影響を与える威力は微塵もない。
哺乳類は、人類は、世界で最も強く賢い生物だと当たり前に思っていたが、なんだ、昆虫と変わらないじゃないか。
◆
炎天下で燃える黒とオレンジ。
鮮やかな色彩は悲しくも美しいけれど、わたしは燃えても灰になるだけ。
蛾が蝶になることがないのと同じで、今から別世界の人間にはなれないだろう。もう、2週間に入ってしまった。
だから、
こんなわたしにもできることがあるとすれば
こんな世界に生み出してしまった子どもに別の世界があるってことを教えてあげること。そして別の世界を知った子どもを全力で支えること。
そうすればいつの日か、黒とオレンジを窓から見ても晴れやかに感じられるのだろうか。
そうすればいつの日か、子どもたちは黒とかオレンジにとらわれず、自分のなりたい姿で、垣根よりももっと高く、飛び立てるのだろうか。
具のない🍙まき子(@makicome1986)
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