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NetGalley読書レビュー2023


webサービスの【NetGalley】に、昨年(2023年)より、レビュアーとして会員登録をしている。

NetGalleyとは
アメリカで誕生した本を応援するWEBツールです。出版社が掲載する作品を、登録会員は各出版社の承認にもとづいて読むことができます。

Net Galleyより抜粋

まず会員は、
書店・図書館・教育・メディア関係者、レビュアーの5タイプあるうち、いずれかで登録をする。

登録した会員は、
各出版社がNetGalleyへ掲載している作品へと、
基本的には、リクエストによって応募をかけ、
承認によって、本読みが可能となる。

掲載作品はどれも、発売前のゲラデータであり、
登録会員はいわば、先読みをする形となる。

素敵な作品を多くの方へ

レビュアーとして登録をしている私は、
本を扱ったり、大々的な広報を行うような立場をもたない、レビュー専門のモニター読者だ。

NetGalley上では、
承認をいただいたゲラデータを読み、登録タイプの通り、作品へのレビューをお返ししている。

調べたところ、
フィードバックをしたレビューで出版社より採用をされたものは、各所で掲載をしていただけるようだ。

個人的にも外部のSNSで発信は行なっているが、助力にも及ばずな結果に留まっているため、見えないところでなにかの一助になれているとすれば嬉しい限りでもある。

ただ! それでは!

大切な原稿を、しかも発売の前に預けてくださった作者様にも、出版社様にも申し訳がない!

たとえ微力でも、
素敵な作品をもっと多くの方へ推していきたい!

2023〜

本記事では、
NetGalleyへ登録をした2023年に読んだ以下のラインナップを紹介します。


ファイナルガール・サポート・グループ
作者:グレイディ・ヘンドリクス
刊行日:2022/11/17


もぬけの考察
作者:村雲菜月
刊行日:2023/07/27


リスペクト
作者:ブレイディみかこ
刊行日: 2023/08/03


好きです、死んでください
作者:中村 あき
刊行日: 2023/09/19


君が手にするはずだった黄金について
作者:小川哲
刊行日:2023/10/18

ファイナルガール・サポート・グループ

アメリカの小説家、
グレイディ・ヘンドリクスによる作品。

本邦では未訳の作品が多く、紹介作品を除くと、『吸血鬼ハンターたちの読書会』が唯一の邦訳作品となる。

ホラー&スラッシャーへの造詣が深く、
『ファイナルガール・サポート・グループ』は、斬新な設定ながらも、作品自体が、あらゆるホラー&スラッシャーのオマージュともなっている。

あらすじ
ホラー映画でただ一人生き残る者〈ファイナルガール〉。殺人鬼の魔の手から逃れた、現実でのファイナルガールである女性たちは、壊れされた人生を、サポート・グループで立て直そうとしていた。しかし、悪意ある人物が、ファイナルガールたちの人生を再び破壊しようと動きだし、最初の犠牲者が出ることに。

ホラー&スラッシャー好きにはたまらない、
構造から楽しませてくれる一冊です。

レビュー
ホラー/スラッシャー映画への尊敬とオマージュが存分にこめられた、斬新ながらも懐かしく、懐かしいながらも新しい、サスペンスミステリー。

ホラー映画のお約束的な要素である、唯一の生き残り=ファイナルガールが、劇中で実在した凶悪犯罪。その生き残りたちとしてサポートを受けているという設定がとても面白い。そして、そんな彼女たちが再び、最悪に巻き込まれていく展開がスリル満載で読み応えがあります。

本作の殺人鬼は、ホラーでよく見られる超人とは違い、いわゆる「スクリーム」シリーズのような、叩けば怯む人間として存在するため、ミステリーの醍醐味もあるのが嬉しいところ。

ファイナルガールの名前や、背景となる事件、チャプターのタイトルにはスラッシャー/ホラーの名作がオマージュ元としてあり、その手の作品に造詣が深い方は、著者の遊び心にも多分に触れられて尚、楽しい読み物になるのは間違いないと思います。

もぬけの考察

第66回群像新人文学賞を受賞した、
村雲菜月による作品。

110ページほどの連作短編ではあるが、想像の幅を広げていく異質な物語が、脳内で優にボリュームを積み上げていく、読み応えのある作品となっている。

あらすじ
この部屋の住人は、みんないなくなる? 都市の片隅にあるマンションの一室、408号室に入れ替わる住人たち――。奇想天外な物語が、日常にひそむ不安と恐怖を映し出す。

講談社BOOK倶楽部

考察好きの方。考えることさえ怖くなるこの作品で、謎に満ちた408号室へと踏み込んでみませんか?

レビュー
110ページとボリュームは少ないものの、連作短編による、それぞれで完結する物語と次に繋がる謎。そして、四〇八号室という一つ舞台がメインとなる、ワンシチュエーション的な設定が魅力的な作品でした。

共感を抱くことも、好きになることも難しい、各話の登場人物たちは、それぞれが、わずかに人道へと背を向けていて、為すことの多くに顰蹙してしまうほど。それなのに、自分にもそんな側面がありそうだと思わせる現実味が、終始厭な空気感を肌にまとわりつかせてきます。

ある意味で因果応報にも見える顛末は、登場人物の一部でも自分に重ねてしまうと、一層気味の悪いものに感じるに違いありません。

ホラーにも、サスペンスにも、ファンタジーにも読める四者四様の物語は、それでも一言で表せばとにかく奇妙。その上、入居者たちを観察しているみたいな、定点的な視点にはゾッとさせられるものがあります。

謎だけを残して、真実が住人ごともぬけになってしまう四〇八号室。事故物件にもあたらない、いわくつきなこの部屋を引き当てるのは、静かに消えてなくなりたいときだけでお願いしたいものだなと思いました。

リスペクト

『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』にて本屋大賞2019年ノンフィクション本大賞を受賞し、その名をさらに知らしめた、ブレディみかこによる作品。

都市の高級化にむけた地域再開発のために、ホームレス・シェルターを追い出されたシングルマザーたちが、ロンドンにて実際に起こした公営住宅占拠運動。この占拠運動をモデルに、尊厳と権利を守り抜く力強さを描き切ったのが、『リスペクト』である。

あらすじ
ロンドンオリンピックの2年後、オリンピックパーク用地だったロンドン東部のホームレス・シェルターを追い出されたシングルマザーたちが、少しばかりのリスペクトと人の尊厳を求めて立ち上がる。

筑摩書房

「政治」や「運動」が強く人生と向き合うことになったシングルマザーたちが、躍動とともに、最後まで連れて行ってくれます。

レビュー
政治や運動というものに馴染みが薄い自分には、同じところからスタートしていく彼女たちの視点に共感を抱きやすく、社会問題を扱った作品と分かっていても、とても読みやすい内容でした。

また、ストーリーのもとになった占拠事件を知らない読者へと、「本書をぶち投げる」という一文には、本へと一気にのめり込ませる力があります。文字通りクリーンヒットを受けた身として言えるのは、自分のように現実から目を背けている人にこそ、広く知られてほしい本だということです。

恥ずかしながら、モデルとなった占拠事件を知らない自分でしたが、占拠事件の背景にある現実を追えば追うほど重く鬼気迫るものを感じ、この事件を下地にした本作は、生半可な気持ちでは書けないものだと強く感じ入りました。

日本では運動のイメージがかなり薄いですが、運動の始まりというものは、本書のように何をどこに向けてどう訴えていきたいのかが明確でなくても、感情の爆発から始まっていくのだろうと思わされる瞬間があり、心の叫びをあげることは、解放への貴重な第一歩でもあるのだろうなと考えさせられます。

本書でも言及があるように、生きていくなかで一番楽なのは、支配に従うことだと自分自身思います。国が示す理不尽に見て見ぬふりをして荒波を立てない。従順な奴隷になることが、苦しい生活をさらに苦しくしないための楽な方法なのだと。それでも、声をあげることに意味があるのか。なんのために、運動をするのか。

立場が違っても、同じ目的のために闘える。

とても素敵な言葉だと思いました。
特に、占拠事件に関わる人々の多くが子を持つ親であり、路頭に迷うことが許されない状況下、自分のためだけではなく、子どもの未来も考えて闘った彼女たちは、正に尊敬に値します。

子どもを大事にしない社会に未来はない。

日本においても、子どもが明るく生きられる未来であってほしいと強く願います。

好きです、死んでください

青春の痛みと、ロジックを突き詰めた本格的なミステリを得意とする中村あきによる作品。

本作は恋愛リアリティーショーが舞台となり、ミステリとしての仕掛けが多種多様。また、甘くも苦い恋愛も絡み、殺人は起きるが、とてもドラマチックな物語に仕上がっている。

あらすじ
無人島のコテージに滞在する男女の恋模様を放送する、恋愛リアリティーショー「クローズド・カップル」の撮影が始まった。俳優、小説家、グラビアアイドルなど、様々な業種から集められた出演者は交流を深めていくが、撮影期間中に出演者である人気女優・松浦花火が死体となって見つかった。事件現場の部屋は密室状態で、本土と隔絶された島にいたのは出演者とスタッフをあわせて八人のみ。一体誰がどうやって殺したのか? そして彼女の死は、新たな惨劇を生み出して――。
恐るべき事件の〈真犯人〉は誰なのか?衝撃のラストが待ち受ける孤島ミステリ!

双葉社

ミステリにあまり触れたことがない方でも読みやすく、本格の面白さまで味わうことのできる一冊です。

レビュー
恋愛リアリティーショーの設定を活かした、個性派揃いの登場人物と、事件に関する動機が、他の推理小説とは一味違った読み味を持たせる作品でした。特に、ファーストサプライズがこの作品ならではの斬り込み方といった感じで、先の展開が楽しみになる引きの強さでした。

テンポよく進んでいく内容は、恋愛や各人の裏事情と兼ね合わせてドラマ性も含んでおり、そこに事件が絡むことで、失ったものと手にしたものの釣り合いが悲喜劇を生むエンタメに昇華されていたと思います。

恋愛リアリティーショー×ミステリーの要素で驚くほどの手数を打ってくるため、常にハラハラドキドキと読み進められる面白さがある作品です。

君が手にするはずだった黄金について

ゼロ文字正答という魅力的な謎で、読者をぐっと読書体験へと引き込んだ『君のクイズ』の作者でもある小川哲。

学者肌的とも評される作風は、まさに膨大な知識が降り注いでくるかのよう。難しそう? でも、知的好奇心が歯止めを効かせない。ハマれば最後、沈んでいくしかなくなる作者です。

あらすじ
認められたくて、必死だったあいつを、お前は笑えるの? 青山の占い師、80億円を動かすトレーダー、ロレックス・デイトナを巻く漫画家……。著者自身を彷彿とさせる「僕」が、怪しげな人物たちと遭遇する連作短篇集。彼らはどこまで嘘をついているのか? いま注目を集める直木賞作家が、成功と承認を渇望する人々の虚実を描く話題作!

新潮社

この作品は、読者にとっての私小説にもなり得るかもしれない。

レビュー
作者と同姓同名の作家、「小川哲」を主人公に置いた、私小説ともフィクションとも読める連作短編集。

主人公を主体とした話はもちろんのこと、その彼とほつれかけの糸で結ばれた面々が、作家としての好奇的な疑問や違和感から、人となりや内面、さらには主人公自身がなぜそこに疑問や違和感を抱いたのかを、緻密に分解されていく過程がとても面白かったです。

物語としては、日常のよもやま話になりそうなエピソードばかりなものの、主人公がそれをただの世間話に終わらせず、精神世界の領域にまで踏み込むほどのある種、考察的な思考が、読者である私自身の知的好奇心をも満たして、読み応えにも直結させてくる快作でした。

個人的には、誰にでもある無意識的な忘却を掘り起こそうとする「三月十日」がエピソードとしてはかなり好みですが、他のお話も粒揃いであるため、一冊の物語として、ぜひ通しで読んでもらいたい本だと感じます。

先述のように、本作は私小説ともフィクションとも読めるお話で構築された連作短編集となっており、読者の視点から抱く違和感もそこかしこに散らばっています。

エピソードごとの登場人物に繋がりがあり、人物としての描かれ方に違いはないものの、なにか世界線が食い違っているように見えてくる。果たしてこの主人公は、実際の作者なのか、それとも物語としての「小川哲」なのか、そもそも各エピソードの「小川哲」は皆同一人物なのか。本書の主人公と同じように、違和感を解体してみるのも一つ、楽しい読み方なのかなと思いました。

読み終えて考えを巡らせたい気持ちは山々ですが、まずはクレジットカードの確認をしたいところです。

素敵な読書体験を

読むって時間がかかるけれど、
文字を追うって苦痛なときもあるけれど、
読書は気の向くままに、開けば心地の良い時間を与えてくれる。そんな存在だと思います。

たった一冊を携えて、
気を急かずに、何年掛りにもなるぐらいの充分な気持ちで、読書を楽しんでもらえたら嬉しいです。

まずは、素敵な読書体験への足掛かりとなれるように。お読みいただき、ありがとうございました。

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